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117◆深まる絆◆



 俺は今年の春の45日に20歳となり、レイレは夏の45日に21歳となっていた。そして季節は冬に移り、俺達は結婚式をあげるべく東辺境伯達と一緒に王都へと移動した。『スタープレイヤーズ』のメンバー以外にも護衛の兵士や荷物を積んだ馬車が全部で20台続き、街道沿いの東辺境伯の寄り子の貴族達に歓待された。

 

 東辺境伯の荷物の中に、どう見ても大きな剣が入っていると思われる巨大なケースを見つけたが、俺はそれを見ないふりをしている。


 王都について、俺はエルソン男爵の屋敷ではなく東辺境伯の屋敷で滞在させてもらうことにした。到着したのが冬の15日で、結婚式は20日後だ。


 その間は、王都の聖堂を貸してくれるエヨン教会や参列者に挨拶に行ったり、式の段取りや進行の最終確認などやることがたくさんあった。





 そんな日々の中、俺はクロナと共に、王宮調査室を訪れていた。クロナの上司、口髭のダンディな貴族ザルシャド準男爵と会うためだ。


「リュード君、いや、リュード・サプライザー巡遊男爵、お久しぶりですね」


「ザルシャド準男爵もご無沙汰しております」


 以前会ったのは4年以上前で、クロナを仲間につけてもらったとき以来だ。『マギクロニクル』を皮きりに、俺が開発した商品や各地の出来事などを雑談として話した後、本題に入る。


「それで、巡遊男爵、本日は例の件ですね?」


「はい、了承いただけて感謝しております。何か問題や条件などはありましたでしょうか?」


 今日は俺からザルシャド準男爵に正式に面会を申し込んでいるため、隣にいるクロナはお供となり口を挟むことはない。が、その顔には「手紙とは?」と疑問符がついていた。


「万事問題ありません。おや、クロナにはまだ説明していないので?」


「はい、正式にザルシャド準男爵からと思いまして」


「ふむ、それでは正式に。王宮調査室、調査員クロナは、リュード・サプライザー巡遊男爵の叙爵、及び貴族籍であるレイレ・ユリーズ姫との婚姻をもって、その任を解かれる。本人の希望があれば、これまでの功績により、王宮調査室の職を辞することも可能である」


「あぁ、良かった。ザルシャド準男爵、ありがとうございます」


「なに、誰も文句も言いませんし、頃合いだと思っておりました」


「例のものはこちらです」


 俺が小さな包みを渡すと、ザルシャド準男爵は、にんまりと笑みを浮かべた。


「巡遊男爵、これが無くても当たり前に成立する話です。…が、頂けるのであれば、遠慮なくいただきます」


「あ、それは国王や、他の方には入手経緯は内密に」


「もちろんです、自慢も人を選んで行いますとも」


 ワハハと笑いあう俺達を、ポカンと口を開けて見つめていたクロナが我にかえる。


「ちょ…、ちょっと待って!どういうこと?」


「どういうことも何もだ。クロナ、君の任務は正式に終了し、そしてこれまでの貢献から、君は円満にこの王国調査室を退職できるということだよ」


「え、うそ、だってそんなこと、リュード一言も…」


「うん、言わなかったからね。できなかったら格好悪いし」


「うそ…ありがとう…ありがとう……」


 クロナが目に涙を浮かべ、下を向いて呟くようにお礼を言う。それを見て、俺のやったことは間違えていなかったと、内心胸を撫でおろした。


 クロナは王宮調査室の職務で俺と旅をすることになり、今までも、俺の行動などをある程度、王国に報告をしてきた。『プレイヤーズ』を結成したときに、俺達の仲間とはなったが、王国調査室の任務が解かれたり退職することもなく今にいたっている。


 そもそも退職することが可能なものかどうかも疑わしい。表に出てはいけない裏の情報なども知っている調査員を、国が手放すことはない。以前クロナから聞いた話では、男女共に基本は一生国に忠誠を誓うことになり、年を取ったら、その年齢が適役な別の場所に行かされるという話だった。


 クロナはもう俺の仲間なので、東に拠点を据えることになった以上、調査室の別の任務を与えられて、どこか他の所に行かれるのも嫌だった。もし退職できなかったら、一生俺の報告をするようにお願いする、必要なら金や一部の技術も出すという条件もつけるつもりだった。


 レイレに、こっそりとクロナはハイマンが好きみたいですと聞いていたし、どうせなら心配せずとも一緒にいられるようにしたかった。


 クロナはその場で退職を告げて、はれて俺達の仲間となった。


「ねぇ、リュード、ザルシャド準男爵には何を渡したの?」


「あぁ、あれは、『マギクロニクル』のスペシャルカード。『癒しの聖女王リリー』っていう、第2回大会の優勝者用カードなんだけど、俺だけは開発者特権で印刷サンプルを保管しておいたんだ」


「あきれた…カードで、人の一生を変えられるのね」


「いや、カードの効果なんてたいしたことないでしょ」


「そんなことないわ、あのザルシャド準男爵の顔を見ると、かなりの効果があったと思うわよ。私、調査室を退職したなんていう話、聞いたことがないわ」


「そっか、まぁでもよかったよ。じゃあ、クロナ改めてよろしくね」


「えぇ、リュード。本当にありがとう、よろしくね」


 俺とクロナは王都の通りで、固く握手を交わした。





「リュード、ハイマンとミュカですが、叔父様から改めて話をしてもらいました!」


「そう、よかった!東辺境伯はなんて?」


「『レイレのいうことはもっともだ。充分にねぎらわせてもらう』と言っていました」


 今回俺がクロナにしたのと同じようなことを、レイレから東辺境伯にもしてもらっている。


 レイレは貴族籍ではあるが、冒険者として活動するにあたり平民宣言をしており、そのため従者としてではなくパーティメンバーとして一緒に活動する人材として、領内から選ばれたのがハイマンとミュカだ。


 ハイマンは東辺境伯に使える騎士の次男で教会に入っており、放浪助祭として、東辺境では有名な存在だった。治癒魔法を使え、腕っぷしは強い。人柄も良く、そして若い男ではないので抜擢されたそうだ。 


 ミュカは、領都近郊の下位貴族の3女で、魔法、弓の使い手として、領都を中心に魔物退治の遊撃部隊の兵士の一員として活躍していたそうだ。出自もはっきりしており、腕は立ち、おまけに兵士として街にもよく出て、世間にも明るいと言う理由で抜擢されている。


 ハイマンとミュカの任務は、冒険者になったレイレを守ることだった。世間ずれしていないレイレに悪い虫が付いたり、不利益を被ることがないように、2人はレイレの知らないところで、これまでずっと動いてきている。


 初めの頃は、レイレも2人の立場を知りつつも冒険者という自分のわがままを通すために、一緒にいてくれることに感謝し、そして申し訳なく思い続けていたそうだ。その後、3人は何度も話し合いを重ねながら、『スターズ』として活動し実績を積んできた。今ではハイマンとミュカは任務だから一緒にいる訳ではない、それもレイレも2人も理解しあっている。とはいえ、一応の区切りをつけた方がいいと話したのだ。


 東辺境伯から、レイレの結婚と同時に、2人の任が正式に解かれることが告げられた。既に相当額の慰労金も渡されているようだ。クロナと同じように、仕事を続けてもいいし、退職をしてもいいと言われているそうだが、仕事を続けるのなら職場や役職がかわることも示唆されたらしい。


 結果、2人共に東辺境伯に仕えるのは終わりとさせてもらうそうだ。放浪助祭は、助祭と名がついているが、地方を回って各地の教会を助けたりしていれば他の職業と兼業でもいいそうなので、ハイマンは放浪助祭は続けたまま、『スタープレイヤーズ』の冒険者であり商会の役員となる。もちろんミュカも同じく冒険者兼商会役員だ。


「『放浪助祭は、リュード殿の巡遊男爵とも相性がいいでしょうから辞めないでおきます』って笑っていたわ」


 そう報告するレイレの笑顔に癒されつつ、俺は『スタープレイヤーズ』の結びつきが、

改めて深くなったことに感謝し、嬉しく思った。



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