116◆異世界スパ銭『イーストスパランド・ザナドゥ』◆
秋の50日、待望であるスパ銭が完成した。その名を『イーストスパランド・ザナドゥ』と言う。ザナドゥは、理想郷という意味で、名付け親は東辺境伯だ。イーストスパランドの部分は俺がつけた。
施設の規模から、完成まで1年以上はかかると見ていたが、設計や建設に携わった商人や工房の親方達も早く温泉に浸かりたかったらしく、驚くほどの早さで工事は進んだ。
最初に、俺が構想案・企画をまとめ青写真やスケッチを描いた後、打合せを何度も重ねて指示した。ミュカも女性視点からのアイディアをたくさん出してくれた。それ以降の細かい部分は、東辺境伯の用意してくれた開発・運営チームに丸振りし、俺は要所要所で顔を出した。そうやって出来上がった『イーストスパランド・ザナドゥ』は、この世界で間違いなく最高クラスのスパ銭だ。(比較できるものはないが)
オープン日の朝、俺達は領都の街道沿いにある門にいた。門前の少し開けた場所の一画に『イーストスパランド・ザナドゥ』の受付所があるが、中だけにとどまらず周囲も多くの人でごった返していた。
「今日受付できるのは、春の日の誕生日のやつだけだ!夏秋冬は明日以降で順番だ!何もない5日間のやつは、いつ並んでもいい!」
「代表のものだけ並べ!子供は10歳までは無料だ!当選したら家族でいける!代表は1人だけだ!」
「番号の彫られた木札を受け取れ。同じ数字が出たら当選だ!ザナドゥまでの馬車が街道に用意してある。それに乗って出発だ。施設利用料は30リム!馬車代はかからない!中で飯が食えたり、楽しいところがあるから、金に余裕があるやつは持っていった方がいいぞ!」
「くじなしで行きたいやつは、こっちに並べ。施設使用料は300リムだ。あと10人までだ!」
係員が大声で列をさばき、抽選結果を見た人々が歓声をあげたり、うなだれたりしている。事前告知の際に、武闘大会を企画した俺の肝いりの施設であることが知らされ、そしてなるべく多くの人々に楽しんでもらうために、施設に行ける仕組みも考案したことが伝えられている。
『イーストスパランド・ザナドゥ』は、貴族エリアと平民エリアに別れており、平民は1日約200人+αまで、貴族は1組までだ。人口約3万人の領都の人々に対して、受け入れ200人+αは少ないが、単なる大衆浴場ではなく浴場型エンターテイメント施設にしたかったので、サービスの質を維持する意味で数は絞った。
平民の施設使用料の30リムと言う金額は、1食のパンが2リムに固定されている物価から考えるとちょっと強気の値段設定だが、馬車代込みで温泉に浸かり遊べるとなれば安い。
ちなみにこの利用料だけでは経営的には赤字だ。そこで前述の受け入れ人数の+αが生きてくる。これは抽選なしで入れる金持ち専用エントリーで300リムで1日30人までで先着順だ。さらに、貴族は1組限定だが、利用料は最低2000リムとしており、後は楽しかったらお気持ち払ってねという仕組みにしている。
見栄っ張りの貴族がお金を払わないはずはない。まぁその分だけ楽しめる仕掛けは幾つも設置してある。
ということで貴族と金持ちがお金をメインで入れてくれて、平民はその分で楽しめるようになっている。
◇
俺達は、馬車の列と一緒に『イーストスパランド・ザナドゥ』に向かった。
まず入口と建物だが、貴族用と平民用は完全に別れている。
初めに平民用の方から紹介していこう。当選木札を受付で、入館木札に交換する。靴を脱いで、入館木札に振られた番号と同じ棚に入れておく。
次に両替所がある。2リムでザナドゥコイン1枚に交換できる。そのコインを専用袋に入れて館内で持ち歩くことになる。客はそのまま奥のロッカールームに進み、靴箱と同じように棚に服を預ける。ここには警備員がおり、着替えの際に棚と番号は確認される。
そして大扉を開くと、目に飛び込んでくるのは広い温泉エリアだ。室内大浴場、露天風呂、ハーブ風呂、足湯、打たせ湯、サウナがあり温泉をこれでもかと堪能できる。
温泉エリアを出ると、作務衣ぽい館内着が貸し出され、その先のエンタメエリアに進めるようになる。エンタメエリアは、男女共用になっており中央にフードコートがある。周りの屋台でザナドゥコインを支払って飲食を楽しめる。
そしてフードコートを中心として各コーナーにつながっている。『博物館コーナー』では、街の風景画や貴族の肖像画(中でも人気はレイレの肖像画だ)などが飾られ、俺の描いた『イーストスパランド・ザナドゥ』の企画スケッチなども飾られている。
『プレイコーナー』では、卓球台、おもちゃの弓矢で射的、ボール当てパネル(ストラックアウトみたいなやつだ)、お土産作り(スタンプ染でハンカチを作ったりだ)などが立ち並ぶ。
『イベントコーナー』では、一定時間ごとに吟遊詩人や語り手、芸人一座が演目を行う。
『おやすみコーナー』では、男女にわかれて昼寝もできる。追加料金を払えば、一泊して翌日の朝の馬車で帰ることも可能だ。先着順でハンモックも借りられる。
残念ながら漫画や本などのコーナーはない。平民の識字率が低いためだ。
最初は驚き戸惑っていたお客さんの目が、温泉でゆるみまくって、エンタメエリアでラキラして、満面の笑顔であっちこっち移動しているのを見て、本当にここを作ってよかったと思った。
そのうちフードコートに揚げものも並んだりするだろうし、新しいおもちゃができたら投入してもいいかなと思っている。
ちなみに余ったザナドゥコインは、返金できるがお土産に1人1枚だけ持って帰っていいとしてある。話題にもなるし、次も使いたくなるし、友達にお土産であげてもいい。
一通り中の施設を見学した後、『スタープレイヤーズ』と辺境伯一家は貴族用の建物に向かった。
◇
平民の建物は薄いグレーがベースのカラーリングになっているが貴族の方は白一色だ。ローマの遺跡のような円柱を幾何学的に、ちょっと過剰なくらいに立てて、ちょっとした荘厳な神殿かのような雰囲気にしてある。
履物を脱ぐのは貴族も一緒だが、通常の生活において寝る時以外靴を脱ぐことはないため、東辺境伯一家は誰もが落ち着かない様子だ。男女に別れて、衣服を預け、
それぞれの温泉ゾーンに進めるようになっている。貴族には、特に女性用として湯あみ専用の服も用意してある。
ここでの特徴は光の魔道具だ。それぞれ湯舟を照らす各色の灯りがあり、なんとも豪華で幻想的な雰囲気を出している。打たせ湯なんかは、緑色のお湯が噴き出しているように見える。たぶん、光の魔道具を組み込んだ、この世界初めての湯浴み場所だと思う。
進んだ先にあるのは、平民と同じフードコートだ。貴族は通常、屋台で何かを注文したりすることはない。だからこそ、そういう体験をするのもおもしろいだろうと思い、あえてフードコートにした。ただ、料理を自分で持って運ぶのはさすがにNGなので、最初だけ屋台を見て回って注文をする形だ。ちなみに東辺境伯一家にはフードコートに揚げものがないことで、ものすごく文句を言われ、急いで用意した。
フードコートの先にある各コーナーも基本構成は同じだ。ただそのグレードが各段に跳ね上がり、珍しいもの、楽しいものが増えている。
『博物館コーナー』では、東辺境伯が所有する自慢の逸品を展示している。通常であれば、貴族は自分の城や館にある来賓室に芸術品や調度品、自領の特産品などを飾るが、それをここでも行っている。
『プレイコーナー』も基本的に平民と同じだが、景品やお土産品の質がかなりいいものになっている。お土産コーナーのスタンプハンカチ作りなどは、物をつくる習慣がない貴族にどう受け入れらるか実験的な要素だった。東辺境伯一家に、手作りのものを家族でプレゼントしあってはどうかと進めたら、喜んで作りあっていたので、有りのようだ。
『イベントコーナー』は芸人も演目もグレードアップして一流の芸人が担当している。領都に来た有名な芸人なんかも、ここに招待することになっていくだろう。
そしてこちらには『お話回廊』と称したコーナーも作った。洞窟状で薄暗くなった通路の壁面に、俺達が今まで使ってきた紙芝居と、その絵につく文章が、魔道具の灯りの下、飾られている。洞窟の中、灯りを追って、お話を読みすすめていく新しい形の展示だ。これもとても好評だった。
『おやすみコーナー』では、さすがにベッドを用意してある。貴族は通常家族と寝ることはないが、ここに来たなら、それも楽しんでもらおうと考えた。始めは戸惑っていたようだが、普段離せないことを家族で話せる、なかなかいい試みだと言ってもらえた。
東辺境伯一家からは、温泉に加えて、非日常が体験できる新鮮な場所で、とても素晴らしいとお褒めの言葉をたくさんいただいた。
体験してもらった上で今後の方針に関して相談したところ、貴族は最大5泊として予約を受けることにし、今後東辺境伯から、寄り子の貴族へと勧めていき、その後全国的に宣伝していきたいとのことだった。
こうして、俺の会心の出来ともいえるスパ銭『イーストスパランド・ザナドゥ』は開業したのだった。苦労したかいがあった。俺も時々遊びにくることにしようと思っている。ちなみに、俺達の屋敷にも温泉は引いている。ただ、いちゃいちゃするのは結婚してからになるので、今はそれぞれで温泉を楽しんでいる。
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