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115◆揚げもの賛歌◆



 俺はものすごく反省していた。何にか?今の馬鹿みたいに忙しい状況を俺が作ってしまったことにだ。


 今回のマリルの件、なぜレイレは最初に俺と話をしてくれなかったのだろうと考えた。

俺には聞けなかったとしても、いつもこういうときに話をしているクロナとでも話をしてくれてもよかったのではないかと。


 そう思ったとき、気づいた。皆がここ最近ずっと忙しくしていて、仕事以外で何かを相談したり、ゆっくり話をできるような状況じゃなかったなと。


 この世界は、前世のように曜日がある訳ではなく日曜日などの一般的な休みの日などが決まっていない。冒険者として活動しているときは、疲れたら無理せず休んだりしていたが、東に来て、商会を立ち上げよう、拠点を作ろうと動き始めたくらいから俺達は休むことをほとんどせず動き詰めだった。


 それはなぜか?……全て俺のせいだ。俺は、今までが基本旅暮らしだったので、今回拠点をもうけて落ち着くことになったのが嬉しかった。そして拠点を決めたら、あれをやろう、これをやろうと以前からずっといろんなことを考えていた。


 だから、具体的なイメージができるようになると、やりたかったことを、全部一気に進めようとした。それに結婚式の準備や、スパ銭や光る大剣も加わった。


 休むなとは言ってないが、俺のはやる気持ちが皆を働かせ続けた。これは前世でも経験がある。リーダーの熱やテンションはチームに伝播する。だがリーダーが自分のことしか見えていないと周りは無理に走らされて疲弊する。プロジェクトの終わりまで走り切れば、「俺達頑張ったね、お疲れさま、休もうね」となるが、大概は何かトラブルがあって、スピードが落ちて初めて、自分達がいかに余裕を失っていたかに気づく。今回がいい例だ。申し訳ないことに前世から同じ失敗をしている。





 俺は『スタープレイヤーズ』を集めて、改めて今の状況にしたことを皆に詫びた。


「ということで、何でもかんでもやりたいと思って、皆にいろいろと頼みすぎたと思ってる、本当にごめん」


 俺の謝罪に対して、皆の反応はそれぞれだった。好きなことだから、面白かったから

あまり気にしていないという者もいれば、正直しんどくなっていたという者もいた。


 俺達は改めて話し合い、5日働いたら1日絶対に休むことを決めた。またそれを周囲にも発表した。周囲にも話すことが大事だ。


 休む日以外にも、半日皆で集まって、情報交換や進捗状況の報告、困っていることを話す場を設けた。自分の担当でなくても、他の人が何をしているかが分かることで、気がついたことを指摘しあえたり愚痴を言いやすくなった。


 さらに、現在取り掛かっている各プロジェクトも改めて優先順位をつけて、後回しにできるものは、どんどん後ろ倒ししていくことにした。


 こうしてきちんと休みをとる体制を作ったことで、その後は問題もなく日々は過ぎていった。不思議なことに仕事の進捗状況は、休みを取っても落ちないどころか、むしろ効率がよくなった。やっぱり働き詰めはよくないと思う。





 今日は『スタープレイヤーズ』の皆を、東辺境伯の城の食堂に集めている。東辺境伯本人と家族も参加している。俺がひっそりと進めていた、スパ銭の名物の試食会のためだ。スパ銭プロジェクトの中の一部で、たまたま適任の人材がいたから丸振りできた案件だ。


「では、皆さん食べてみてください」


 食卓に並んでいるのは、サワークリームや各種ソースを添えた白身魚のフライとポテトフライだ。前世イギリスの、フィッシュ&チップスだ。


 材料は前世のナマズによく似た魚で、温泉の排水を川の水で割った飼育池で育てたものだ。飼育池はスパ銭予定地の隅にある。もともとは近くの川の川底に生息していた魚で、泥臭くすぎて食べられるようなものでなかったが、温泉割りの温かくきれいな水で育つと臭みは無くなった上、タフで何でも食べるので生ごみなどでも簡単に育つ。


「なんだ、これは!美味しいな!」


「私初めて食べました!サクサクで、プリプリで食べ応えもあって!」


「ホフホフッ!リュード殿、この酸味のあるソースとまた合いますね!いや、これは美味い!」


「旨みが!あふれていますね!すごいです!」


「私は、こっちのベリーのソースの方が好みね。甘さが後を引いて素敵だわ」


「あたしは、このハーブ塩が最強かな!美味しい~っ!」


 皆ホクホク顔で次々に食べてくれた。この世界には、油で揚げる料理がほとんどない。薪がメインの調理では、温度管理も難しいし、油は値が張るものだからだ。


 この世界で、旅の途中にヒマワリを見つけていた俺は、今回ナマズの養殖池の隣に小さい畑も作った。ヒマワリは成長も早く、種も油分をたっぷり含んでおり、その種からできる油は、クセのない淡白な上等なものだ。


 また調理に関しても、北を旅したときの牛糞燃料を買って領都まで届けてもらっていた。牛糞と草を乾燥させて作った牛糞燃料は臭いもなく、安定した炎を出すので、こういう油ものの調理などに向いている。


 さらにヒマワリとナマズには少し仕掛けも施してある。迷宮鉱石と水の魔石をかごに入れた状態で、養殖池の中に突っ込んでおり、さらにその水をヒマワリ畑に撒いているのだ。


 魔力が放出された水で、生き物や植物が大きく育つとか、転生ものでよくあるよな…なんて、興味本位で行った実験だったが、大成功だった。極めて薄いが魔力入りとなった水で育ったナマズは、俺がドン引きするくらい大きく育つようになった。養殖を開始してから100日程度で、俺の背丈を越えるサイズになった。ヒマワリも同じだ。背も伸びてソフトボール大だった花の中心部分が5倍くらいに大きくなった。


 安定供給をするには、養殖の大規模化、生産体制の構築、保管、品質管理、流通の安定化など課題があるが、それらをクリアしてスパ銭の目玉になっていくだろう。


 フライを手に取り、ハーブ塩につけて口に入れる。さくっとした食感と共に、少し弾力のある白身を噛みしめると、油と共に香ばしさが口の中に広がって、ガツンとした旨味へと変わっていく。


 テンションの上がった皆の笑顔を見ながら、これからもがんばりすぎず、がんばっていこうと気合を入れなおしたのだった。





お読みいただきありがとうございます。

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どうぞよろしくお願いいたします。



今日の/明日の、あなたに、ちょっといいことがありますように。

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