112◆緑聖大剣ユリーズソウル◆
冬は貴族の社交の季節だ。俺達『スタープレイヤーズ』が毎日忙しく動き続けている冬の間、王都に行っていた東辺境伯が、春になり領都に戻ってきた。
東辺境伯の帰還の翌日、俺は城に呼ばれた。目の前にやらなければならないことが山積みだったのだが、一番上に呼ばれてしまってはしょうがない。会う予定になっていた人や、打ち合わせ予定だったメンバーに事情を告げ、急ぎ城へと向かった。
「リュード、なぜ私が呼んだかわかるか?」
お茶もまだでてこないうちに東辺境伯に問われる。なぜか機嫌が悪そうだが、理由が全く思いつかない。
「いえ、申し訳ありません。わかりません」
「昨年、リュードは私に、あの光る武器を作ってくれると言っていたな」
「あ……」
「やはり、完全に忘れていたな?一体、いつになったら作ってくれるのだ!?王都でお前の作った剣を見た。いや国王に見せられた。散々自慢されたぞ。あの様々な色に光るあれを!私と、西のと北の、わざわざ全員呼んでだ!いつまでも、いつまでも!しかも絶対に触らせてくれん!わかるか!リュード、お前にこのくやしさがわかるかっ!?」
正直わからない…どんだけ子供やねんっと心の中でつっこみを入れるが、そのまま言うわけにもいかないので下を向いて押し黙る。
「あの色黒め!その後の『マギクロニクル』大会でもやっぱり出てきて、財力にものを言わせて買い上げたカードで、上位に食い込んできおった。許せるか!?」
すみません、許せます。というか、財力云々でいえば、貴族全員そうなのでは…、とは答えられないので、そのまま下を向き続ける。
「剣を見せられたとき、今私も作ってもらってると答えるのも悔しく、黙るしかなかった!ということで、あれよりもすごいのを作れ。私だけの特別なものがいい。国王には、これは私が頼んだのではなく、花嫁の父役として、感謝をこめて特別にすごいのをリュードが作った…そういう流れで自慢してやる。フハハ、見ているがいい、あの色黒め!」
俺は、YES以外の答えは返せない。
「…わかりました。作ります」
「うむ、そして武器は私の普段から使う武器にしてくれ。」
「そういえば結局手合わせもしておりませんでしたね。えっと…東辺境伯は何の武器をお使いでしたでしょうか?」
「おい、私の得物を持ってこい」
しばらくして執事2人がかりで汗をかきながら持ってきたのは、前世で凶戦士が主人公の漫画に出てきた分厚い板状の鉄塊、2メートルを越える大剣だった。
「はっ???えぇーーーっ!?」
◇
おもちゃにおいて、大きいという要素はあまり歓迎されない。もちろん、ジャンルや遊び方、対象年齢によって変わってくるが、大きいということは、重いということであり、それ故に危険度も増して、かつ壊れやすくなるからだ。
例えば、子どもが振り回すおもちゃだと、大きく重くなると、周囲も本人も怪我をする可能性が上がるし、何かに当たったり落としたときに破損しないよう耐久性を上げる必要がある。それに伴い素材を変えたり、補強を入れた構造にせねばならず、当然製造コストも跳ね上がる。大きい分だけ、1個当たりの輸送コストも跳ね上がる。
それでいて、大きいものはお客さんに受けるかというと、微妙なことも多い。細かいディティールが作り込めず、どうしても大味になったり、高額商品になってしまうのでクリスマス商戦などの販売時期が限定されてしまう。
俺は前世で、とあるシリーズものの変形フィギュアを作ったことがあり、シーズン2年目のネタとして従来の1.8倍のサイズの変形フィギュアを開発したことがある。死ぬほど苦労させられた。大きくなったことで重くなり、従来の変形機構では自重を支えきれず、関節も大きく、きつめに作らねばならなかった。そうすると今度は、その関節だと摩耗が激しくなり耐久性が落ちた。材料も塗装も輸送もあらゆるコストが上がり、商品単価も比例して上がった。幸い、ある程度売れてくれたが、営業の評価は“大きくしなければもっと売れた”だった。もう笑うしかなく、メーカーの担当者と2度と大きい変形ものは作らないと誓いあった。
ということで、東辺境伯の大剣だ。参考にすると言って預かった予備の大剣が目の前にある。正直、見てるだけイライラする。なんで、こんなでかいのを作らねばならんのかと。
作るにあたって、メンバーの皆に声をかけたが、「今、それをやる余裕が私にあるように見えますか!?」とか「はぁ!?(殺気)」とか「いやいやいや!どうみても無理ですよねー?」と話しかけた瞬間に断られた。
せめてレイレはと思ったが、「き、気持ちは少しでも手伝いたいのですが…。あ、あぁ、そうです、リュード、お母さまが招待状の文面に関して話をしたいと…。というか、もう少しドレスの話も一緒にしたいですのに…」と半分死んだ目で返されて、俺は何も言えなくなった。
◇
結局、東辺境伯の大剣は、木工職人、鍛冶屋、宝石職人の手を借りつつ俺一人で作ることになった。
大きいものを作るということは、ある意味とてもセンスを求められる。例えば、光る魔石の配置場所や間隔だ。小さいものをそのまま大きくしただけでは、間延びしてしまい締まりがなくなる。なので大きくした分、数も増やす。ただ増やしすぎると構造も複雑になりパーツ数も増えて、強度も下がるので、試行錯誤して設計をしないといけない。 装飾や塗装も同じだ。半泣きになりながら、原寸大のスケッチを何枚も描いて、俺は作業を進めた。
1つだけ、作る上でとても良いことがあった。それは、プラスチック樹脂に近いものができたことだ。
武闘大会で闘った、凄腕冒険者モロクは土属性の魔法使いだ。大会の後に酒を酌み交わしたが、長年の冒険者生活と土属性の魔法の探求を重ねていたモロクの話は面白く、ためになった。その中で「土属性の魔石から出る砂?そういえば昔どこかで、焼きレンガを作るときに、少しだけ混ぜると粘りが出て、しなやかになるとか言っていたな。見せてもらったが、それほど変わらんかったから、まじないみたいなもんだろうな」というセリフがヒントになったのだ。
俺は『スライム粉』を魔力水で溶かしたスライム水を用意した。これに生石灰を加えると、俺が初めて作ったトレカのカードになる。カードと言っても、カチカチの硬い板だったが。
今回は、生石灰の代わりに、少しのニカワと大量の土魔石から出た砂を混ぜた。すると不思議なことに砂は魔力水にきれいに溶けて、乳白色の少し粘度のある液体に変わった。前世で言うとアクセサリーを作るレジン液に近い。これが乾くと、まるでプラスチックのように、軽く、しなりがあり驚くほどの強度のある素材になった。
これをプラ液と仮称するが、このプラ液の利点として複製が作れることにある。すなわち、ある程度均一化された品質のものを大量に製造できることになる。
プラ液を、木枠と粘土で作った大剣の型に流し込んでいく。俺が作った型は、剣そのものではなく、剣のガワとなる部分だ。わかりやすく言うと、左右のパーツにわけた中身が空洞の剣を作った。この空洞の部分に、持ち手までつながった鉄の芯材を入れ、鳴る光る機構を組み込んでいく。
光る機構は内側だけでなく、剣の外側にも取り付けた。さらに今までのなりきり武器は、金属ぽく見えるような塗装を行ってきたが、今回はこのプラ液の素材の持ち味を活かすような塗装を施した。
ようやく完成した安心感から、徹夜の続いていた俺はまる2日爆睡した。
◇
「東辺境伯、完成しました。」
「おお!ようやくか!待ちわびたぞ!」
人の苦労なんかおかまいなしで、笑顔を浮かべた東辺境伯が、そわそわして、
俺の後ろに置かれた、布の巻かれた大きな包みを見る。
「見せてくれ!早く!」
俺は包みから、巨大な白い大剣を取り出した。乳白色の上に、銀ラメの透明塗料を塗りつけた剣身は、この世界で見たことのない不思議な煌めきを放っている。剣の柄や握り、剣身の根元には金色に輝く装飾が入っている。
大剣をすらりと構え、2~3度軽く振る。その動作に、東辺境伯も、家族も、そして一緒に来ていた『スタープレイヤーズ』の皆も目を見張る。俺があまりにも軽く大剣を振り回す姿に驚いているのだ。
大剣を東辺境伯からよく見えるように構え、手元のスイッチの1つ目を押す。すると、ブブブンと重低音と同時に、剣身が緑色に光っていく。内側からの緑の発光は、剣全体にうまく広がって、まるで巨大なレーザーソードを振っているかのようだ。
「お…おぉ……」
東辺境伯が無意識にだろうか、手を伸ばす。だが!まだ終わらない!
「東辺境伯!いきますよ!」
俺は剣を真上にかざして、もう1つのスイッチを入れる。
「おぉおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」
幅広の剣身の中央に強く輝きながら浮き上がったのは、東辺境伯家の紋章、魔物を刺す剣と実る麦だった。
誰もが皆、口を開けて呆然と俺の剣を見ていた。鳴る光るに慣れている『スタープレイヤーズ』の皆ですらだ。でかい分だけ発光量も多いので、迫力も一際すごい。おまけにダメ押しの紋章だ。
反応がないので、「以上です」と告げて剣を置いた瞬間、いつの間にか傍まで来ていた東辺境伯に、すさまじい力で抱き着かれた。
「すごいぞ!よくぞ!よくぞ!」
声も上ずっており、喜んでもらえたことは確実なようだ。今回の制作は過去1レベルで相当にきつかったが、まぁがんばったかいはあった。……2度と作らないが。
その後、皆が剣の軽さに驚いたり、軽さのあまり、東辺境伯がぶんぶんとやばい勢いで振り回すの見た俺が頭にきて「大事に扱え!この野郎!」と叱りつけたり(素直に謝ってきた)しつつ、無事にお披露目は終わった。
東辺境伯は、家宝にすると言って、お礼の言葉と共に莫大な報酬をくれた。工場などの建築や開発などで資産がかなり減ってきていたので有難く頂戴した。
大剣は『緑聖大剣ユリーズソウル』という名前がつけられ城に飾られた。東辺境伯が毎日眺め、振って光らせているそうだ。
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