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111◆巡遊男爵リュード・サプライザー◆



 俺はレイレに、結婚式のことを相談した。本拠地の具体的な内容やスパ銭計画のことより先にだ。先人の教えはとても大事なのだ。


「ということでさ、レイレは俺が貴族になった方がいいと思う?」


「私はリュードが決めたのであれば、どちらでも大丈夫ですよ。結婚式も半年先から1年に延びるだけですよね?私は平気です」


「大丈夫?無理してない?我慢してない?」


「うふふ、心配性ですね。大丈夫ですよ」


「そう、なら良いんだけど。何かあったら言ってね」


「はい、言いますね。それで爵位のほうは?」


「うーん、別に平民でも俺はいいんだけどね。貴族になって責任とか義務とか何が出てくるのかも実はよく分かっていないのもあるんだよね」


「そもそも叙爵の理由は何になるのでしょう?」


「『マギクロニクル』の生みの親と併せて他貴族からの推薦って言ってた。それで通りが悪そうなら、グリフォン討伐にするかも知れないって。たぶん理由は何でもいいんじゃないかな?」


「そうなのですね。どういう経緯で叙爵されたか、領地の有無によっても、責任や義務は変わりますね。一代のみに与えられる名誉爵位で、平民から貴族になる人も時々いるみたいですが、そういう場合は、あまり義務なども発生しないと聞きます」


「あー、そうか。そういえば、クロナの上司の人も確か元平民だったなぁ」


 俺は王国調査室のクロナの上司を思い出した。髭のダンディな紳士で名前をザルシャドと言い、平民でありつつ名誉のみの爵位、準男爵を名乗っていた。そして、その名前を思い出したときに、俺の頭にやっておくべきことがよぎった。後で忘れずにやっておこう。


「じゃあ、せっかくだから、もらっておこうかな。チャンスもこれっきりかもしれないし。東辺境伯からは、準男爵でって返事をしてもらおう」


 爵位に関する全ての権限は国にあり、基本的には上位貴族からの推薦を受けて、国が審査を行い、叙爵、爵位を与えることになる。レイレと結婚をすることで、俺に1番近いのは東辺境伯となるため、この一連のやりとりも俺からではなく東辺境伯から返事をしてもらうことになる。


 こうして、返事をしてもらってから数十日後、俺は東辺境伯の城に呼ばれ、王都から来た、国王の使いによって爵位を与えられた。


「~以上をもって、冒険者リュードを巡遊男爵として叙爵する」


「……」


 その場にいた東辺境伯含め、誰もが聞きなれない爵位に首をかしげる。


「どうした、冒険者リュード改め、巡遊男爵」


「はい、いえ、ありがたき幸せにございます。質問をさせていただいても、よろしいでしょうか?」


「うむ、許可する」


「巡遊男爵とは、初めて聞くのですが、どのような爵位になるのでしょうか?」


「これより、国王からの直の言葉を伝える」


「はっ!」


「『驚いたか。巡遊男爵は、お前のために特別に作った。東で嫁さんもらったからと言って、引きこもられても困る。国内を回るのは続けろ。そのための巡遊だ。回るペースはまかせるが、できれば年に1回くらいは王都によって顔を見せろ。次は王都で結婚式だ。俺も顔を出す。またな。あぁ、剣は毎日いじってるぞ。いいな、あれは。』…以上だ。理解したか?」


「ははーっ。ありがたき幸せにございます」


「また、本来であれば国王より賜る家名に関しては、特例として自分で決めてよいとのお達しである。私がこちらに滞在している間に決めて伝えるように」


「は、承知いたしました!」


 国王の色黒のにやにや顔が頭をよぎった。俺のために爵位を作ったとか、頭おかしいのでは、と思うが受けざるを得ない。そして家名をどうするかも問題だった。悩みまくった結果、一緒の名前になるのだからと候補を出してレイレに相談した。


「私は、サプライザーがいいと思います。驚かせる人、リュードぽくていいですね」


「トイメイカーもありかなって思ってたんだけど、どう?」


「おもしろいものを作ってるだけでなく、なんというか、リュードの存在自体が驚かされることばかりなので、やっぱり私的にはサプライザーがいいかなって思います」


「そっか、じゃあ、それで返事をしよう。ありがとうレイレ、いやレイレ・サプライザー」


「どういたしまして、リュード・サプライザー」


「……」


 少しの沈黙の後、2人で大笑いした。口に出してみたが、全く慣れない。


「これはしばらく慣れが必要だね」


「そうですね」



 こうして、俺は巡遊男爵と言う史上初の存在になってしまった。





 この叙爵以外にも、俺達『スタープレイヤーズ』はかなり忙しく動き回っていた。


 俺達の本拠地となる屋敷は決まったので皆で見に行った。父親の第2邸宅だったということでレイレも喜んでいた。


 屋敷はしっかりとした造りの2階建てで、とても素晴らしい物件だった。1階の玄関から入ると広いエントランスがある。左右には小ホールや、複数の待合室、応接室があり、図書室や食堂、厨房がある。奥には使用人の居住スペースもある。2階も当然広く、居住スペースになっている。各人の住む部屋とエリアを決めていく。


 そこからはパーティメンバーを中心に1人何役も兼務し、同時進行でそれぞれの計画を進めていくことになった。


 まず屋敷の必要な改修工事や内装、調度品の発注をクロナとハイマンにまかせた。こういったセンスを必要とするものはクロナが適任だ。そしてハイマンは領都の出身だったので、商会や職人の交渉をまかせる。


 俺とテイカーは『スタープレイヤーズ商会』を正式に発足させた。会長が俺だが、実質的な代表として切り盛りしていくのはテイカーだ。前世風に言うのなら、オーナー兼商品開発が俺、テイカーが取締役社長、他メンバーは取締役という感じだろうか。


 次に俺達の商品を本格的に製造・販売する計画を立てていく。屋敷は『スタープレイヤーズ商会』の本店ともなるが、町から離れているため訪れた商人との商談にだけ使う。そして領都にフラッグショップを開いて、そちらで商品の販売と情報の発信をしていく。こちらの店舗ももう少ししたら進めていかないとならない。


 屋敷の隣には、工場や研究練などを建てる。従業員には住み込みで働いてもらうことになるため、寮や食堂、厨房なども別で作らねばならない。また技術を秘匿するため、敷地の全てを囲って腕の立つ冒険者に定期的に警護に詰めてもらうなども考えていく必要がある。


 必要な工程やものを洗い出し、手順を並べ、全体量を見て優先順位と大まかなスケジュールを組み立てていく。


 商品開発としては、クロナとレイレで、『写映石』の継続研究と商品化、テイカーとミュカで『ポケットファイア』の商品化と製造までの工程組みを行ってもらう。前世では商品化までの各種工程以外に、中国工場に長期間出張して製造や品質管理なども学んだ。活かせる部分はどんどん取り入れていく。


 これらの、どの工程も、大枠の方向性を俺が出した後、各人にまかせる方式で進めてもらい、要所要所で俺が確認や修正指示を出す形にしている。前世で、メディア連動系プロジェクトを2本同時に部下数人と走らせた記憶がよみがえる。血を吐きそうなくらい毎日忙しく、プロジェクトが終わった後も自分が何をしていたか思い出せないほど憔悴したが、それでも楽しかった。


 『スタープレイヤーズ』以外にも、俺とレイレは結婚式の準備も進めなくてはならない。

式の段取りや招待する人などどうしていいかわからない上に、レイレもその辺りは得意ではないため、レイレの母親のマリアンヌ夫人を中心として東辺境伯一家にも入ってもらう。1度は諦めた娘の結婚、マリアンヌ夫人は燃える瞳で頷いてくれ、かなり精力的に動いてくれる。


 さらに、クロナと東辺境伯の妻であるチェルノ夫人にも入ってもらい、式でレイレが着る光るドレスの制作もお願いする。王都のエヨン教会や会場のやり取りはハイマンにまかせた。


 さらにミュカと俺で、温泉施設の方にもあたる。温泉施設の青図面やコンセプトアートを描いた俺は、東辺境伯のOKを取り付けた後、担当者、担当チームをつけてもらい、施設のコンセプト、システム、動線、使い心地、実際の運営をどうするかを決めていった。スパ銭を楽しむのに男女はない。なので、温泉好きのミュカに入ってもらい女性目線からの企画や心配りをしてもらう。


 季節はどんどん進みいつの間にか冬も深くなっていた。俺はほぼ毎日誰かと打ち合わせたり、人と会ったりしつつ、監修、研究と開発に精を出し続けていた。それは他の皆も一緒だった。


 こうして俺の19歳の年が終わった。俺が20に、レイレが21になる来年、俺達は王都で結婚式を挙げる。





お読みいただきありがとうございます。

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