110◆東の温泉と計画◆
本日温泉回!2話更新しておりますので、よろしくお願いします。
東には温泉がある。南で入った濁り湯ではなく、湯は透き通り、匂いもほとんどしない温泉だ。飲めると聞いたので、冷ましておいたのを飲んでみたら染みわたるように
美味しかった。
「うぁああ~~~~」
俺はゆっくりと浸かりながら、お湯で顔を洗った。隣にいるハイマンとテイカーは温泉なのに少し緊張した顔をしている。なぜかと言うと同じ湯の中に、渋強おじさんことユリーズ東辺境伯も浸かっているからだ。
「どうだ、リュード、気持ちいいだろう?」
「最高ですねーーーっ」
ユリーズ辺境伯は胸板がやたら熱い。その身体は前世で人気だった元ボディビルダーのハリウッド俳優のようだ。肩に手をあて首をゴキゴキと鳴らしている。
「書類仕事が多くなるといかんな。幾ら剣を振っていても、どうしても鈍るな。リュードよ、今度私を狩りに同行させろ」
ハイマンとテイカーがすごく青い顔をして首を小さく横に振る。
「え、いやです。ご遠慮します。どこの世界に辺境伯を狩りに連れ出す冒険者がいるんですか」
「ぬぅ。それなら手合わせだ。まだ私はリュードと剣をあわせていなかったからな」
「わかりました、日を改めて手合わせしましょう」
東の温泉は、領都から馬車で1日かかる山の中腹、そこに建てられた簡素な砦の中にあった。この砦は魔物の監視を兼ねた兵士の詰め所であり、第1防衛線になっている。
丸太を組み上げて作った外壁の中には、遠見台と兵士の宿舎、訓練所、温泉がある。東辺境伯は月に1回くらいの頻度で訪れるとのことで、家族や親戚、側近のものを連れてくることもあるそうだ。ちなみにレイレや女性達が来たときは、兵士達の訓練が気合が入りまくるらしい。そんな事情もあり、危険な最前線にも関わらず兵士達の中では、この砦に詰める当番勤務が大人気だそうだ。
「それでリュード、どうする?」
「そうですね。『スタープレイヤーズ』の皆とも話をしたのですが、やはりユーガッズに拠点を持とうと思っています。」
「フハハ、そうか!それは朗報だ!」
そう、俺はこの東のユーガッズに俺達の拠点を持つことに決めた。レイレ達の故郷ということもあるが、他にも幾つか理由もある。
東部の魔物は3辺境の中では種類も数も多く、魔石も素材も手に入りやすい。魔物がいるのは確かに強く危険だが刺激にもなる。王都などは安全すぎてつまらない。
先日の武闘大会で俺の名は知れ渡り、街の皆が受け入れてくれた。一時期は暑苦しさも正直感じたが、波を過ぎれば適度な距離感に治まり居心地がいい。
さらに、温泉がある。俺は前世でそこまで温泉にはまってはいなかったが、南で温泉に浸かってからというもの、風呂の気持ちよさを思いだしてしまった。そして今浸かっているこの泉質が、南より格段に俺好みだ。サラサラして余計な匂いもなく気持ちがいい。
「東部はいいですね。俺にあってる気がします。」
「そうか。ウム、いいな。」
東辺境伯が満足げに頷く。そして今、このタイミングで思いついたことがあたので、
くつろいだ雰囲気の中、ダメ元で交渉してみることにする。
「えー、東辺境伯に貸しがあったと思います」
「む、このタイミングで言うか。まぁいい、言え」
「俺達『スタープレイヤーズ』の住居兼、商店兼、大工房を一緒にした拠点を作ろうと思っています。場所はまだ決まっていませんが」
「ふむ、それは歓迎だが、その資金か?」
「いえ、たぶんそのくらいは、俺達の資産で足りると思います。俺がお願いしたのは温泉です」
「温泉?」
「はい、この温泉です。俺達の拠点の場所はこれから決めますが、その近くまで、この温泉引いてもらえませんか?ちょっと素敵な場所を作りたいなと思いついたんです」
「なぜだ?温泉に入りたければ、ここに来ればいいだろう。兵達にもいい刺激になるだろうし、リュード達の力であれば魔物もたいした障害にはならんだろう?」
「そうなんですけどね。でも、どうせなら皆で楽しめるものを作りたいじゃないですか」
「うぅむ…しかし、いや…うぅむ」
東辺境伯が悩むのもわかる。馬車で1日もかかる距離もの長さの水路を作らねばならない。必要な労働者の数、食料、水路に使うレンガ等の材料、敷いた後のメンテナンス…と考えたら相当な金額がかかる。
「うぅーむ。貸しを返すには大きすぎんか?温泉を引いて、なにがしかの施設を作るとなれば、それは一大事業だぞ」
「でもできたら、確実に東の名物になりますし、東辺境伯だけでなく、領民や兵士、皆が喜ぶものになりますよ」
「ええい、リュードが何を頭に描いているのかがわからん。ここを出て、全て話せ。」
「わかりました!」
その後温泉を出て、俺は東辺境伯にみっちりと前世日本でいうところのスーパー銭湯、略してスパ銭の魅力を説明した。
スーパー銭湯は、露天風呂や各種のアイテムバス、サウナなどの風呂設備が充実した上で、食堂、マッサージ、ゲームコーナー、マンガコーナー、仮眠室などが一緒になった施設だ。
前世では徹夜が続いて家に帰りたくなかったときに、夜中にスパ銭まで行って風呂に入り、ビールと軽食をとってから仮眠室で寝て、翌朝会社に向かう…なんてことを、よくやっていた。
仕事で疲れた頭が、風呂でゆるゆるになって、食堂で生ビールを飲んでキュンとなる。たいして美味くもないおつまみをつつきながら、ボーッと深夜放送を眺めたら、仮眠室で寝て、翌朝風呂に入ってから出社する。明らかに健康に悪いとは思うのだが、気怠い背徳感みたいなのもまた楽しかった。1人で行くのも良かったし、同じく徹夜していた同僚や後輩と行って、会社や上司の愚痴でも交わしてから寝るのもまたよかった。
湾岸地区にあった『東京戦国温泉』とかは、もっと派手に楽しく、エンタメにふりきったスパ銭だ。屋台みたいな設備もあった。こちらも非日常のワクワク感がとても良い施設だった。
とまぁ、そんな感じでスパ銭のことを熱く説明しつつ、貴族も利用できるVIPエリアもその中に作ったら家族と楽しめるでしょうね、と駄目押しをした結果、東辺境伯は落ちた。
「わかった、だいぶリュードの意気込みが強すぎる気もするが、借りを返そう。温泉をひこうではないか」
「ありがとうございます!」
俺の意気込みが強いのは、スパ銭を作る際に、ちょっとだけ俺達の屋敷にも温泉を引いてもらって、屋敷内に家族風呂を作ってレイレと入りたいってだけだ。疚しい気持ちはちょっとしかない。
ということで、東辺境伯領スパ銭計画は決まった。
◇
「それと、東辺境伯、俺達の結婚式に関してですが…」
「おう、そうだ、リュード。あー1つ言っておくぞ。レイレや女性陣の前では話す順番を間違えるなよ。温泉のことよりも、先にこっちからまずは話すべきだぞ。そうでないと、機嫌が悪くなるだでなく、その後ずっと言われ続けることすらありえるぞ」
「あ…そうですね。気づかせていただいて、ありがとうございます」
「いい、こういうのは言われなければ気づけん。私は気づく機会があったということだ」
東辺境伯が、遠い目をする。過去になにかあったのだろう。俺は本格的なミスをする前に、気づかせてもらえた。感謝しかない。
「それでリュードとレイレの結婚式だがな、国王の面倒くさい横やりが入った」
「と言いますと?」
「要約すると、俺にも祝わせろ、だが平民では祝えん。リュードに貴族になれと言ってきている。後は、王都のエヨン教会も関わらせてほしいと申し出があったそうだ」
「え?い、いや祝ってもらえるのは嬉しいのですが…」
「どうだ貴族になるか?」
「あー、いや、あの、正直言うと義務とか面倒くさいというか……」
「それを東辺境伯の私の前でいうか…。まぁ、いい。だがレイレはどうする?本人は平民だと宣言しているが、私が公に認めてはいない。だからレイレは今も貴族位にある。リュードが平民であれば、本人の宣言通りに平民になるだろうがな」
「レイレはどちらがいいのでしょうか?」
「私は知らん。それこそ本人と話せばいい。親心から言えば、少しでも先々の苦労を払える可能性があるのであれば、そういう選択もありだとは思うがな」
「…そうですね、話をしてみます」
「それと、リュードの言っていた本拠地だが」
「はい、どこかいい土地はありますでしょうか?」
「ハリスが使っていた第2邸宅がある。領都からこの砦にくる途中、最初の方に屋敷が草原の奥に見えただろう。あれだ。今は貴族のゲストハウスとして、たまに使っているくらいだ。あれをやる」
ハリス氏は、今は亡き東辺境伯の弟、レイレの父親だ。東辺境伯の言う屋敷は、領都から3時間ほど馬車で街道を進んだところの草原の先にあった。遠くからしか見ていないが、大きい割に過度な装飾もなく、こざっぱりした印象の屋敷だった記憶がある。
「もらうのは…、さすがに申し訳ないので買わせていただきます。借りは温泉を引くので返していただいておりますし」
「結婚祝いだ。レイレの先行きを不安に思っていた。お前が決闘したクラカサル伯爵の息子の件も含めてな。それらが解決された。私はリュードに感謝している。黙って受け取っておけ」
「……ありがとうございます」
「周囲の土地も必要な分だけ、好きに使え。さっきの温泉施設は、頭の中をまとめて書きだしておけ。すぐに職人共に見せる」
「わかりました。ありがとうございます」
俺は東辺境伯に頭を下げた。
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