108◆武闘大会・決勝戦◆
長槍のモロクに勝つための良い案が出せないまま、翌日の決勝戦を迎えた。宿屋の前には、俺達を見送る街の人達でいっぱいだった。
武闘会会場は、連日街の人達でぎっちりと埋まっているが、30日あまりの急拵えで作ったもののため会場自体がせまく、入れるのは詰めても500人ほどだ。おそらく3万人はいるであろう領都ユーガッズの人達のほとんどは、試合を見ることができないが、ほとんどがその日のうちに結果を知っている。その理由は、街のいたるところで毎日夕方から試合の様子を詳細に読み上げる役人がいるからだ。告知の時に俺の捏造されたセリフをたっぷり情感込めて読み上げた役人達だ。さらには会場には吟遊詩人や、語り手と呼ばれる人が優先的に入れるようになっているらしく、そういった人達が酒場で話をどんどん広げていくのもある。
「おぉ!リュードが出てきた!」
「リュード、応援してるぞー!」
「もし2人目を迎えたかったら、あたいをもらってー!」
「後ろはテイカーよ!かっこいいー!」
「レイレ様をよろしくたのむぞー!俺が認めてやるー!」
「こうなったら最後までがんばんなー!」
「でも、ちょっとむかつくから、やっぱりぶっ飛ばされろー!」
「レイレは俺のもの!キャー!かっこいいー!」
「うちに来てくれたら飯代ただにするぞー!」
俺を応援、歓迎する声もかなり増えた。照れくさいが素直に嬉しい。強さが最大の判定基準ではあるが、一度認めたら懐深くまで受け入れてくれている、それがこの東部の気質なんだとわかった。
「がんばってくるよ」
自然と笑顔を浮かべながら俺は皆に手を振った。
◇
闘技エリアの真ん中に俺は立っていた。目の前には、超凄腕冒険者、槍使いのモロクがいる。モロクは、どことなく前世日本で見た昔の白黒映画に出てきた侍のように見えた。黒い柄の槍を持って自然体で立っていて、一見隙だらけに見えるのがまた怖い。
「いやぁ、楽しみにしていたのだよ。今日のこの試合を」
渋い笑みを浮かべてモロクは言った。
「モロクさんの試合も見ました。すごいですね…。今もまだ、どう闘えばいいものか、悩んでいます」
「モロクでいいよ。リュード殿の強さは、剣とか魔法ではないねぇ。瞬時の判断力と思いきりだね。突いてみたら何がでるか、この年になって期待で胸が膨らむよ」
「俺もリュードと。期待を裏切らないように精一杯やらせてもらいます」
「いいね。では、やろうか」
「はい」
「決勝戦、冒険者リュード対冒険者モロク、始めっ!」
◇
槍の達人が、こんなにも恐いものだとは想像もしていなかった。女性冒険者とテイカーはよくこんなのと対峙できたなと思う。
遠間から銀色の弾丸が幾度も飛んでくる。そのどれもが攻撃として認識できない。
向こうで穂先が光った瞬間に、顔に嫌な熱さを感じて首を捻ると、槍の穂先が避けた場所にある。それが休むことなく続く。
「あたると!俺は死んで、モロクの負けになりますよ!」
「なぁに、実際にリュードは避けているじゃないか!」
全身冷や汗を流しながら叫ぶが、モロクはカカッと笑って答えた。
ハイマンのときの戦法、体を使って強引に武器を押さえにいく方法も使えない。体に穴が開くだけだ。何とかして槍を掻い潜って…絶対に無理だ。こんなに何もさせてもらえないとは思わなかった。
「しょうがない、じゃあ、いきます!ストーンアロウ!」
「むっ!」
さすが凄腕、初見で俺のストーンアロウを軽々避ける。だがそんなことは織り込み済みだ。矢継ぎ早に、どんどんストーンアロウを撃っていく。
「ダブル!」「ダブル!」「トリプル!」
ストーンアロウは、俺の得意魔法であり、通常技の1つだ。だからどれだけの数で撃っても問題ない。ほぼ同時に作り上げ射出するのは最高でクアッド、4つまでしかいけないが、時間差がついても大丈夫なら、ダブル、トリプルで連続すれば弾幕も張れる。
「えぇいぃっ!」
業を煮やしたモロクが何やら構えると、その体の周りに20個ほどの石が浮かび上がった。会場にあったのではなく空中で生成されたものだ。1つ1つの石は、拳ほどの大きさだが、モロクの全面、俺に対して壁のようにランダムで浮かんでおり、その石が俺のストーンアロウを受けて地面に落ち、また浮かぶ。
「おぉぉ!すごい!モロク、土属性の魔法使い!?」
「そうだ。対人相手で使わされたのは久しぶりだ」
ふよふよと揺れながら空中に浮く石は、俺の射線を邪魔している。浮遊する石の壁ごと近づいてきたモロクは、その隙間から槍を繰り出してきた。
「うぉっと!」
そこから、俺とモロクの耐久勝負が続いた。槍は石の隙間しか通ってこないため、見切りやすくはなったものの、その勢いは全く衰えずに俺の体を刻んでいく。俺のストーンアロウも何発も石で防がれてはいるが、それ以上に撃っているので、モロクの体に複数の穴を開けている。
撃ち合いの最中に、他の魔法も織り交ぜてみたが簡単に防がれる上に、俺の隙につながるので、結局ひたすら槍とストーンアロウの応酬を続けることになった。2人して血みどろになりながら、ボルテージが上がっていく。
「ウハハハハッ!リュード、楽しいぞ、戦いに置いて私はもう楽しむことなんかできないと思っていたが、どうしてどうして!最高だ!」
「それはどうも!モロクさっ!終わったら、飲みに!行こうよ!土魔法のこと、いろいろ聞かせてほしいんだ!」
「なんだ、もう勝った気でいるのか!?」
「あぁ!できること見つけた!」
「よし、なら来いっ!」
俺はモロクに向かって正面から突っ込む。避けにくい胴体の真ん中を狙ってきた槍の穂先を、俺は近くに浮かんでいた石を掴んで、ガキンと防いだ!
「なにぃ!!」
そしてそのまま、掴んだ石をモロクに向かって全力で投げつける。
「ぐふうっ!」
「ストーンアロウ、クアッド!」
意表を突かれ、石の直撃を胸に受けたモロクに、さらに追い打ちで、俺は4発のストーンアロウを手足に叩きこんだ。
モロクが仰向けに、どすんと倒れ会場が静まりかえった。
「いやぁ、完敗だ、負けるとは思ってなかった。やられたよ。しかし、なぜ…」
「石の数出しすぎると、1つ1つの制御が甘くなるし、そもそも石を浮かべてる力も、そんなに強いものじゃないはずだからね」
俺のストーンアロウを受けた石は、1度落ちて、再び浮かんだ。空中で防ぎきれなかった、つまり空間に固定する力はそこまで強くないということだ。
「くっ、痛たっ…後でうまい酒をおごってくれ」
「あぁ、何杯でも。」
俺は、モロクが起き上がるのに手を貸す。
「し、し、勝者!リュードォ!!」
「「「「「「「「うぉおおおおおおおおおおおおおーーーーーーっっ!!!!」」」」」」」
山津波のような轟音が会場を震わせる。観客も、貴賓席の東辺境伯、家族、レイレも誰もが総立ちで俺に拍手を、歓声を投げてくれる。
正直しんどかったが、がんばったかいはあった。俺は皆に向かって両手を振り、礼をした。
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