105◆武闘大会・開会◆
東部の人達のもつ熱はすごい。武闘大会の告知がされてから35日、大会まであと数日というところで、領都ユーガッズの人達は本格的な闘技場を作り上げてしまった。闘技場は街の近くの平原の一部をすり鉢状にくり抜いて作ったもので、中央に平らに石を敷いて均した20メートル四方の闘技エリアがある。
それを取り囲むように壁ができていて、壁から上は斜面にそって階段状になっているので、皆が座って観戦できるようになっている。階段の一部は石が丁寧に敷き詰められて、東辺境伯家族や、この闘技場を作るのに金を出した大商人達の座るスペースになっている。
街に住人、大人に限らず、子どもも女性も動ける人間は定期馬車にのって、現場まで来て何かしらの作業を手伝ったそうだ。
俺の顔と名前は、だいぶ広まったらしく工事期間中、街ですれ違った職人には、「待ってろ!今あんたがぶっ飛ばされる闘技場作ってるからな!」とすごくいい笑顔で声を掛けられ、パン屋のおばちゃんとかは「これ食べて力つけて、きちんとぶっ倒されな!」とか言いつつパンを渡してくれた。ちょっと意味が分からない。
「あ、リュードさん、こんちはっす!」
冒険者とかは睨んできたり威嚇してきたりするが、初日にギルドで叩きのめした巻き舌のモヒカン兄貴は、俺に負けたからか、腰をおって挨拶してくる。子分の話によると、周囲の人間にも、「あの人は強え、本物だ」と広めてくれているそうだ。その変わりっぷりに、さすがに笑ってしまった。
俺としても、ここまでくると、もうまるごと全部楽しんでやろうという気になっていた。なんというか皆いい意味で馬鹿なのだ。街ぐるみで。
そうして日々が過ぎ、大会当日を迎えた。
◇
俺は闘技場の、辺境伯一族の座る中央スペースに座っている。俺の前に16人のオーラを放つ猛者がたっている。ほとんどが、男性だが中には女性も少しだけいる。皆それぞれに、短剣、剣、長剣、己、弓、こん棒、メイスなどの得物を装備している。冒険者風、町人風、貴族風、格好もそれぞれだ。
俺の横にはレイレ、その周囲にはユリーズ東辺境伯と家族、マリアンヌ夫人他数名がいる。『スタープレイヤーズ』のメンバーはクロナしかいない。ではどこにいるのか。
目の前の16人の中に並んでいる。なぜ、皆そこにいるのだ。こういうのにあまり参加しないと思っていたハイマンやテイカーまでいる。実を言うと、レイレも最初は出るとか言っていたが、俺が戦いたくないから止めてくれと必死で懇願した。
良く通る声の司会者が、出場者達の簡単な紹介を行い、その度に楽器が打ち鳴らされ、歓声が上がる。旧『スターズ』のメンバー、ハイマンとミュカは一際歓声が大きかった。
「最後は、東辺境、最北の町ミルドリ、およびその周辺の町の猛者をなぎ倒して参加資格を勝ち取りました、斧旋風の二つ名を持つ冒険者ゴウザです!」
2メートルを超える上背に、全身盛りあがった筋肉。背中には2本の斧を背負っている。頭はスキンヘッドで今までの出場者は、紹介されると頭を下げたり、手を振るだけだったが、こいつは違った。
「おらぁ!てめえがリュードだな!ポッと出のくそ雑魚のくせして、俺のレイレと結婚するだとぉ?まだるっこしいことは止めて、俺と勝負しやがれ。一撃でてめえの首を飛ばしてやるぜ!おらぁ、びびってんのか!降りてこいやぁ!」
背中の斧を抜くと、その先を俺に向けて言い放った。このスキンヘッドは相手を殺したら負けというルールを、理解しているのだろうか。それとも分かっていて、それでも俺をどうにかしたいのだろうか?
これはもしかすると、仕込みなんじゃないかと疑わしくなり、思わずユリーズ東辺境伯に聞くが、「仕込みではないが、これも東部辺境の人間だ」と返された。その後、口をゆがめてにやりと笑って、「行って来い」と顎で示された。俺のレイレとか言ってる時点で、正直ムカついていたので、ご要望通り俺は闘技場へと降りていく。
「おぉ!リュードが降りてきたぁ!これはもう一触即発だ!この荒れ狂う冒険者ゴウザに、どう対応するのか!?」
「フヒャヒャ。やろうぜぇ!勝ったら全て俺のもの…ぬぅ?」
俺はゴウザを無視して、闘技場の中央まで進むと、手のひらを上にして指だけで、ゴウザを手招きする。カンフー映画やアクション映画でよくする、かかってこいの手招きだ。
「上等だぁ…!てめぇ、死んだぞ…!」
対峙したゴウザに、俺は続ける。
「ゴウザだったか。お前に1つ言っておく。レイレは誰のものでもない。それでも、あえて言うのなら…」
息を吸い、大声で怒鳴りつける。
「俺のレイレと言っていいのは俺だけだ!馬鹿野郎っ!!」
会場がわぁっ!と湧き上がるの同時に、ゴウザが踏み込んでくる。
「ぐらぁ!!!!」
でかい図体に似合わず、コンパクトな小さい振りで2本の手斧を振り回す。実力はそれなりに高いようだ。だが、俺が戦ってきた人間とは比べようもないほど弱い。
避けた際の反動を利用してゴウザの右ひじを剣の柄で強打する。激痛で斧を取り落としたゴウザが、残った手で斧を振るがちょっと痛みが走っただけで、もう大振りになっている。
俺は、振り下ろされた斧を剣の腹で横へと流して、ゴウザの懐に入ると、地面を蹴って右拳でその頑丈そうなあごに、回転ジャンプアッパーを決めた。斬ったらたぶん即死するので、直前で剣は左手にスイッチしている。意識したのは、前世の対戦格闘ゲームで主人公キャラが使っていた必殺技、竜が昇る拳だ。
さすがにゲームほど何メートルも飛んだりはしないが、それでもゴウザの両足は地面から完全に離れ、俺が飛びのくと同時に、その体はぐしゃりと落ちた。
「勝者!リュードォ!!!」
「「「「「「うぉおおおーーーーーっ!!!!」」」」」」
大歓声が響き、会場を震わせる。観客の大半が、俺がぶっ倒されるのを見に行くぜとか言っていたはずだが、なぜか盛り上がっている。まぁいいかと、会場を降りようとしたところで、司会の声が響き渡った。
「ただいま、大会委員からの特別ルールが提示されました。ゴウザが抜けたところは、リュードが埋める!つまりっ!リュードもトーナメントに参加だーーーっ!」
はめられた!!!
振り返った先で、嬉しそうに親指をたてるユリーズ東辺境伯がいた。
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