103◆東辺境伯の家族◆
「ふぅん、君が噂の冒険者リュードか。なるほど、なかなか強そうだね。はい、これ」
少し暗めの銀髪に濃い茶色の瞳をした、どことなくレイレにも似た顔の青年が差し出した木剣を、俺は受け取る。
受け取った瞬間、低く伏せた俺の頭の上を、1本の木剣が通り過ぎていく。後ろから振られたものだ。俺は低く伏せた態勢のまま蹴りを1回転放つが、正面にいる青年と後ろから襲ってきた少年はそれをジャンプして避けた。
「やっぱり反応が早いね!さすがだ!」
「くっそ、兄上避けられました!」
「こら、ユージーン!貴族は汚い言葉を使ってはいけないよ!」
俺は木剣を構えなおし、目の前の2人の兄弟を見る。ちなみに2人とも初対面だ。
「レイレを倒したと言うのも、嘘ではないようだね。改めまして、僕はユリーズ東辺境伯が長子イノスだ」
「私は、次兄ユージーンだ!」
もう1人の少年も、銀髪に茶色の瞳をしており、その顔は父親であるガレド・ユリーズ東辺境伯に良く似ている。東辺境領の領都ユーガッズに来て翌日、東辺境伯の家族と会うなりの突然の手合わせだった。道中、ユリーズ東辺境伯が「お前は領都についたら忙しくなるぞ。覚悟しておけ。フハハ」とか言っていたが、こういうことか。
「おい、リュード。東はな、3辺境の中で1番魔物が多く、そして強い。ここで自分の存在を知らしめるには、男女関係なく強さを見せてやることだ。私の息子だろうと遠慮はいらん、たたきのめせ」
3辺境伯…、クマさんことバルクライ北辺境伯、宝塚な美しさを持つエリザリス西辺境伯、そして渋くて強いユリーズ東辺境伯。この3人誰もが強いが、頭1つ抜けているのはユリーズ東辺境伯だ。
「さぁ!こい!」
気勢をあげるユージーン少年に、力を込めて木剣を投げつけると同時に駆け出す。
「うぉ!」
咄嗟に剣ではじいたユージーン少年の手首をとりながら、その背中にまわる。腕をきめた状態で、ユージーン少年と一緒に長兄のユノスへ突っ込んでいく。
「うわっ!兄上!うわ!」
ユージーン少年を突き飛ばすが、イノスは動じずに避けた。が、俺の方が早い。避けた先に俺はストーンアロウを置いておいた。シュルシュルと小さな音を立てる風の渦と回転する土属性の石つぶてを見て、イノスが手を上げて降参のポーズをする。
「参った!2人がかりでこんなにあっさりとやられるとは…。グリフォンバスターは本物だった」
「くっそー!レイレ姉ちゃん、俺が狙ってたのに!」
「あら、そうだったんですね!フフッ可愛いですね。ユージーンは」
頭をなでられたユージーン少年がショックを受けた顔をしている。そうだよな、異性として狙っていた相手に可愛いですねなんて頭なでられて、揺るぎもしないお姉ちゃんポジション見せられたらショックだよな。
「ふむ、リュードの戦い方を初めて見るが、なかなか面白い戦い方をする。剣と独特の魔法……いや使えるなら何でも使う、というところか」
さすがに歴戦の猛者だ。俺の闘い方どういうものかを即座に掴む。
「剣でも、魔法でも上がいます。俺のは全部をあわせた発想力と…意地です」
「意地か、意地はいいな。フハハハッ!大いに結構!であればこそレイレも落としたか」
「叔父様…」
頬と耳を染めるレイレを見て、ユージーン少年がさらにショックを受けてうなだれる。すまない少年と思いつつ、少し優越感にひたってしまう俺は、ちょっと心がせまいのかもしれない。
「さぁ、皆、そろそろ食事の用意も整ったでしょう。ホールに向かいましょう」
そう声を上げたのは、ユリーズ東辺境伯の妻のチェルノ夫人だ。先日のクラカサル伯爵を兄に持つ女性だった。兄とは違い、本人は人当りの良い朗らかで笑顔の美しい人だった。ユリーズ東辺境伯とは、2男2女をもうけており、長女と次女は嫁にいっているため、またいずれ紹介してもらうことになっている。クラカサル伯爵の件では謝罪を受けたが、チェルノ夫人は関係ないのでそのあたりは何も気にしていない旨を丁寧に説明した。
そして、そのチェルノ夫人の横でずっと涙を流しながら小さく鼻をすすっているのは、レイレの母親であるマリアンヌ夫人だ。
「うぅ…本当に、あのレイレが結婚できるだなんて…」
剣にばかり熱中するレイレに、マリアンヌ夫人はどうにかして女性的なことを教えようとがんばったそうだ。結局、最低限の女性としての礼節などは覚えてくれたが、刺繍やダンスなどは見向きもせず、ドレスや宝石よりも、剣や防具にしかレイレの興味は向かなかった。
そのレイレが冒険者になるといって家を出たとき、マリアンヌ夫人は、レイレは女性としての人生は送らないのだと涙を流し、人づてに聞いたレイレの二つ名『オウガ姫』を聞いたときには、私の娘はオウガだったのか、ならば後はもう死なずに元気で生きていてくれれば良いと諦観していたそうだ。
そして俺の噂を聞き、ユリーズ東辺境伯が内々だが婚約させたと言ったときは飛び上がって喜び、なんとか1度俺に会ってお礼を言いたいと思っていたそうだ。
実際、マリアンヌ夫人は俺と会うなり、俺の手を握ってひたすらお礼を言いながら泣いていた。
「最終的なプロポーズはレイレからもらってしまいましたが、最初は私からプロポーズしたのです。全力をもって、レイレを幸せにしますので、どうぞご安心ください」
と言ったら、さらに涙が止まらなくなって、1度部屋に下がられてしまった。なんというか、東辺境伯の家族や親戚はレイレのことがあるからか、非常に熱い人達だった。
◇
東辺境伯邸の広大な庭の中に、木漏れ日がさす明るい森があった。翌日の午後、俺とレイレはその森の中を歩いていた。
特に会話もないが、それがまた心地いい。遠くから近くから小鳥のさえずりが響いている。いつの間にか夏が終わり、季節は秋に入っていた。少し高くなった空が、色づき始めた葉の間から見え、涼しい風が俺達をなでていく。
「リュード、ここです。」
森の中央部には少し開けた円形の空間があり、そこには白いベンチが置かれていた。とても居心地のいい、そして静かな空間だった。
「ここは私達家族が、よく集まってお話をしていた場所です。お父様のお気に入りの場所でもありました。お父様が亡くなってからは、私やお母さまが、お父様に何かを報告したり、思い出を話し合ったりしています」
「とても気持ちのいい場所だね。なんというか空気が違うなって感じるよ」
「ここにくるのも久しぶりです」
「レイレのお父さんはハリス伯爵だったよね?」
「はい、そうですが…」
俺は真ん中に進み、周囲を見回しながら、亡くなったレイレの父親に向けて話しかける。
「初めましてハリス伯爵。私は冒険者リュードと申します。私は、この世界に生まれ、おもちゃを始めとした、楽しいものやことを広げて人々を笑顔にしたいと思い、活動しています」
レイレの顔を見る。
「この度、レイレさんと縁があり、ご結婚をさせていただくことになりました。最初の決闘で、レイレさんを傷つけてしまったことを深くお詫びします。またプロポーズも最終的にはレイレさんに言わせてしまいました。正直、いたらぬことも多くあると思います。それでも」
大きく息を吸い、力を込めて強く宣言する。
「それでも、私の全力をもって、あなたに代わりレイレさんと共に生き、幸せにし、守っていきます。どうぞよろしくお願いいたします」
俺は一気に告げると、腰をおって深く礼をした。レイレの父親がどういう人だったのかを俺は知らない。だが一度きちんと挨拶をしておきたかった。
先ほどまで聞こえていた鳥の声がいつの間にか止んでおり、風が葉を揺らす音だけが聞こえる。雲間から光が差し、ちょうど俺とレイレだけを照らした。これは…認めてくれたってことでいいのだろうか。
「お父様…お父様、ありがとう…私、リュードと共に生きます」
両目に涙を浮かべながら、レイレが俺のそばにくる。俺はレイレの手を握りながら、俺達を照らす光がなくなるまで立ち尽くしていた。
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