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102◆伯爵の結末◆



 ラッセルを打ち倒し、ヘイゼルを斬ってから数日が過ぎている。俺達は、以前変わらずにクラカスの街の宿屋に滞在していた。


 今のところ、クラカサル伯爵の動きは何もない。報復してくることを考えた場合、建物や障害物を利用できる分、街道よりも街の方が戦いやすい。伯爵も自分の街の住民を積極的に手をかけたりもしないだろう。東の冒険者姫の人気は相変わらず高く、反対に伯爵勢が嫌われているから、住民も俺達の味方になってくれるかもしれない。


 ということで、俺達は、レイレがユリーズ東辺境伯にあてた手紙の反応を待つのも含めて、宿屋でのんびりしていた。暇なときは、宿屋の前で紙芝居公演をしたりもした。紙芝居の時に購入できる、キャラクタートレカは、何故だか恋愛成就の護符として、人気が出ているそうだ。そんな効果を込めた覚えはないのだが……。


 そうこうしている内に、7日が経ったころ、宿屋の前が急に騒がしくなった。俺達の部屋に宿屋の主人がノックも慌ただしく駆け込んでくる。


「ユユユユユ、ユリリーズ東辺境伯かか閣下がっ!」


「え!?本人がきたの!?わかった、すぐに出る」


 俺達が、宿屋の前に出ると、50人ほどの護衛の兵士を連れたユリーズ東辺境伯、その人が威風堂々と立っていた。





「フハハ、元気にしていたか。リュード。ずいぶんと活躍しているな」


「お久しぶりにございます。ユリーズ東辺境伯閣下」


「ふん、閣下などいらん。決闘代理人、強かったか?」


「はい、死ぬところでした」


「死ぬのは許さん、だがレイレを出さなかったのは評価してやる」


「ありがとうございます」


「レイレも元気か?変わりないか?」


「はい、叔父様!変わり…あ、あの、この度はご迷惑をかけて…」


「何が迷惑か、フハハッ!可愛い姪が、いい男を見つけて結婚することになった。素晴らしいことではないか!ユーガッズに戻ったら大々的に発表を行うぞ」


「あ、ありがとうございます…」


「リュード、レイレ、お前達の結婚を、改めてユリーズ東辺境伯、ガレド・ユリーズが認める。2人共に歩み、助け合い生きていくがいい。式はいずれ盛大にな」


 そういって白い歯を見せるユリーズ東辺境伯に、レイレが飛びついて喜び、住民達が歓喜の声を上げて祝福してくれる。





 騒ぎが少し収まりかけてきた頃、数十人の兵士を引き連れ、クラカサル伯爵が駆け付けてきた。


「ユリーズ東辺境伯閣下!わざわざ私共の街にまで、いらっしゃっていただくとは。どうぞ、我が城へとお越しください」


「おぉ。クラカサル伯爵。何、姪とその伴侶となる男の顔を見に来ただけだ。すぐ戻る予定だ」


「は、伴侶ですと?こ、この平民がですかっ!?閣下は、この男が憎いのではないですか!?」


「なぜだ?別に憎く思ってなどいないぞ」


「大勢の人の前で、盛大に殴り、懲らしめた。それでも怒り収まらずと……」


 あぁ、と俺は合点がいった。俺が大勢の人の前で殴られたのは、カプラードの街のカタリナ姫の結婚披露宴の時だ。決闘の際にレイレに傷を負わせたことがユリーズ東辺境伯の耳に入り、俺はぶん殴られて空を飛んだ。ユリーズ東辺境伯からは謝罪を受けたが、その場には、俺とレイレと本人しかいなかった。その後も何度かは会っているが、会うのをわざわざ公表しているわけでもない。


 『スタープレイヤーズ』として一緒に旅をしてきているから、一般の人々には受け入れられていると思うが、情報を更新していない人が俺を見れば、“東辺境伯の不興を買ってぶん殴られた冒険者が、いまだにレイレ姫にまとわりついている”と言ったものになる。


 そして、その情報をもってクラカサル伯爵と息子のヘイゼルは、レイレをものにする好機だと思ったのだろう。俺に対して、多少やっちゃったとしても東辺境伯は許してくれると踏んでいたとのだと思う。


 俺は、ユリーズ東辺境伯を見つめる。顎に手をやってさすりながら見つめる。目に込めているのは「こいつらが1番悪いけど、東辺境伯にもそのきっかけを作ったのではないですかねえ?」だ。


 ユリーズ東辺境伯は、一瞬ムスっとしかけた顔を抑えて「悪かった、埋め合わせしてやるから、黙ってろ」と俺に目で言ってきた。俺は顎から手を離し、頷いた。


「ふむ、クラカサル伯爵。私の義兄でもある君には、今回の失態を踏まえて、引退をしてもらおうと思っている」


「失態!?失態とはどういうことでございましょうか!?」


「君の子息ヘイゼルだったか、それが引き起こしたことは?」


「あれは正当な貴族の権利、決闘にございます!」


「その後、決闘代理人ラッセル、そしてヘイゼル本人とならず者がレイレ達を襲ったとも聞いているが?」


「ヘ、ヘイゼルは、決闘の後、気の病にかかってしまったため、すぐに廃嫡し、平民とした上で放逐いたしました!ふ、不幸な事故だったとは思いますが、そこまでは私のあずかり知らぬことかと!」


「廃嫡の知らせを受けていないが?」


「いい、いま、書類を作っておりました」


 蕎麦屋の出前かってくらいに動揺したクラカサル伯爵が言い訳をする。


「廃嫡前に、そのヘイゼルは門のところで、レイレ達を兵士とならず者で取り囲んで、脅したそうではないか?」


「そそそ…それははっ!」


「クラカサル伯爵、もういい。そもそも才腕御免状を持つものに対して君や君の子息の行動自体が間違いなのだ。それに君の領民や商人からも直訴がされている。証拠も揃えた。諦めろ」


「せめて爵位はっ!」


「これまで東を支えてきたことに報い、せめて平民として充分以上に暮らしていく分は残してやる」


「そ…そんな…」


「ふん。おい、クラカサル“元”伯爵を屋敷の一室に軟禁しておけ。夫人や屋敷の一族もだ。世話人はこちらで連れてきたもののみにしろ」


 クラカサル伯爵は兵士に連れていかれた。察するところ、ユリーズ東辺境伯もかねてよりクラカサル伯爵をどうにかしたかったが証拠が弱いなどで行動できなかったところ、今回の件で突破口が開けたということだろう。


「よし、では、レイレ、リュード、私と一緒に領都ユーガッズに向かうぞ」





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