99◆プロポーズの行方◆
「私は、ここで、レイレ姫を掛けてお前に決闘を申し込む」
「断る」
俺はヘイゼルに即答する。
「何だと?」
「レイレは賞品じゃない。レイレは誰のものでもない」
「ほっほ、冒険者リュードは、なかなか細かいようだ。たしかにレイレ姫は掛けるものではない。我が息子の言は、貴族独特の言い回しもので、そこは理解してくれたまえ」
父親であるクラカサル伯爵が出てくるのが正直うざいが、無視するわけには行かない。
「理解はしました。ですが、いずれにせよ決闘はお断りします」
「まぁ、待ちたまえ。息子は男の誇りを胸に君に決闘を申し込んだのだ。そうだな、互いの命までは掛けない、そして負けた方は、今後レイレ姫に近づかない…では冒険者としても活動ができないだろう、まぁ近いうちに姫には冒険者も止めてもらうが、とりあえずは…そうだな今後一切、姫に求婚できないという条件で決闘を受けてやってくれないだろうか」
ようやく筋書きが見えてきた。ヘイゼルの後ろにいる、手練れが決闘の代理人として出てくる。もとから俺と決闘をすると考えていた訳ではなく、レイレを城に連れていく際の抑えとして用意したのだろうが、そのくらいの強さを持っているのは、立ち上る嫌な気配でわかる。
あの男はかなりまずい。クラカサル伯爵が出てこずに戦いになっていたら、俺とレイレで真っ先につぶしにかかろうと考えていたくらいだ。
……だが、今後一切プロポーズができないという条件、意外に使える気がする。俺の頭に1つのアイディアが閃いた。ただ、このアイディアは、レイレの顔を世間的につぶす、というか恥をかかせることになってしまう。きちんとレイレに相談したいがその時間はない。ちらりとレイレの顔を見る。その顔には不安と信頼が半分ずつ見て取れた。うん、信頼が入っているなら大丈夫だろう。
「わかった、受けよう。ここにいる全員を見届け人としたいが、どうだろうか?」
「リュード!だめです!」
「了解だ。ここにいる全員が見届け人だ」
◇
旅装を解き、武器を確認する。決闘が決まったあたりから、嫌な気配がどんどん濃くなっている。俺が前に出ると、ヘイゼルも進み出るが、その後ろにはフードを深く被った問題の人間がいた。
「私は、決闘の代理人に、このラッセルを指名する」
その声にあわせて後ろの男がローブを脱ぐ。
最初に目についたのは、異様な手の長さだった。普通は太腿の中間くらいの位置にある手が、ひざ近くまである。薄い黒髪は油で撫でつけられている。片方の頬にひきつったような傷があり唇が片方だけ釣り上がって、笑っているように見える。冷たい目が、ガラス玉のように俺を映している。
「ラッセル…決闘処刑人…」
「声抜きラッセル…」
誰かが、ラッセルの二つ名を呟く。後に聞いた話だが、このラッセルという男、異様な強さを誇る決闘の代理人として、そしてその酷薄な戦い方で有名だった。
「ラッセル、命を奪わなければいい。私の代わりに決闘を頼んだぞ」
「…わかった」
俺が剣を抜こうとしたとき、レイレが近づいてくる。
「リュード、私を決闘の代理人に指名してください」
確かに、この場でラッセルに対応できる可能性があるのはレイレだろう。パーティ内で1番強いのはレイレだ。俺が勝ったのは初回の1回のみで、勝てたのも初回特典みたいなものだ。事実、あれ以降手の内のバレた俺は何度戦ってもレイレには勝てていない。
ラッセルは、おそらくレイレよりも強い。レイレは天性の勘で戦う剣士だが、弱点がある。高い実力を持つ相手が、レイレの勘をすり減らすようにプレッシャーをかけ続けた場合、持久力の差で負けてしまう。
だから俺はレイレの目を見て、しっかりと伝える。
「大丈夫だ。まともに戦う気はない。それより……」
その後、誰にも聞こえないように小さくレイレの耳元で呟く。俺の言葉を聞いたレイレは目を大きく見開き、少し耳を赤く染めて「はい」と頷いた。
◇
パーティーの皆、クラカサル伯爵、ヘイゼル、兵士とチンピラ、街の人間が作った大きな円の真ん中で俺とラッセルは退治する。
中央には、進行役のハイマンが立つ。
「それでは、これより、クラカサル伯爵子息ヘイゼルと冒険者リュードの決闘を行う。相手を死に至らしめた場合は負けとなる。また負けた者は、今後いかなる理由があろうとレイレ姫に求婚をすることはできない」
俺とヘイゼルは頷く。
「それでは、始めっ!」
ハイマンが手を振り下ろした瞬間、俺とラッセルは同時に動いていた。
ラッセルは前へ。踏み込みと同時に、手にした刺突剣を真っ直ぐ俺の喉に向かって一直線に突いてきた。
俺は後ろに。前を向いたまま、思いきり後ろにジャンプして、ラッセルの突きを回避する。突きを見て回避したのではない、最初から後ろにジャンプすることを決めていた。そうでなければ、神速としか言いようのない突きを躱すことはできなかった。
どういう攻撃をしてくるかわからなかったので、大きく避けたが、ラッセルの長い手から伸びる刺突剣で、真っ直ぐに喉の位置を狙っていたのを見ると、降参を言わせないようにするつもりだったのが、わかる。あぁ、だから通り名が『声抜き』なのか。
着地と同時に、俺は大きな声ではっきりと宣言した。
「参った!俺の負けだ!」
◇
周囲を静寂が包む。
「リュ、リュード殿、ま、負けということでいいのですか!?」
進行役のハイマンが動揺を隠さないまま俺に確認するが、俺は頷く。
「あぁ、そいつには勝てない。参った」
クラカサル伯爵も、ヘイゼルも勝ったはずだが口を開けたまま言葉を発しない。
「そ、それでは、勝者はクラカサル伯爵が子息ヘイゼルとする。以降、冒険者リュードはレイレ姫に求婚することはできない」
「わ、私の勝ちだ!」
唖然としていたヘイゼルが気を取り直したように宣言するが、それで盛り上がる人間もおらず、周囲は静まりかえったままだ。その沈黙をどう受け取ったのか、ヘイゼルはレイレの近くまで歩いていくと、片膝をついて自信満々に言い放った。
「では、レイレ姫。どうか私と結婚してもらえませんか?」
片膝をついて、レイレにプロポーズを申し込む、その動作、初対面で俺がやったことだが自分以外の人間がやっているのを見ると無性に腹が立つ。
「お断りします」
レイレはにべもなく断る。
「な…!」
俺は不思議でならない。なぜヘイゼルは受け入れられると思ったのだろう。レイレに拒否権がないとでも思ったのだろうか。
「リュード、こちらに」
「はい」
レイレに呼ばれ、その前に立つ。
「リュードはもう私にプロポーズをすることはできなくなったのですね」
「はい、レイレ、大変申し訳ありません。力及ばず、決闘に負けました」
「そうですか、それでは、しょうがないですね。リュード」
「はい」
「リュード、私と結婚してくれますか?」
「はい!喜んで結婚させていただきます!」
「「「「「「!!」」」」」」
ざわ…と周囲の空気が歪んだ。それは有りなのか…と周囲の誰もが訝しむ空気が流れるが、最初に『スタープレイヤーズ』の皆が拍手を送ってくれた。すぐに見守っていた街の住民達が続き、終いには兵士やチンピラも場に飲まれたのか何人か拍手をしてくれた。
「ありがとう、レイレ。幸せにします」
「はい、リュード!」
万雷の拍手の中、レイレが美しく微笑んだ。
あけましておめでとうございます。
新年開けて、ちょうどプロポーズの話に相成りました、
どうか今年もよろしくお願いいたします。
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どうぞよろしくお願いいたします。
今年1年が、お読みいただいている皆さまにとって
良き年でありますように。




