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98◆決闘の申し込み◆

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

リュード達のお話は折り返しを過ぎましたが、まだ続きます。

これからもどうぞ応援よろしくお願いします。


寒さ続きますので、どうぞ温かくして年の瀬をお迎えください。



 その街は、クラカスという名前だった。全体に活気がなく、住民達が交わす言葉も少なく、何かに怯えるような様子が見えた。門番の態度も横柄で、不穏な様子だったので、俺はハイマンに愚痴るように聞いた。


「こんな街もあるんだね。ハイマン、ここはどういうところ?」


「はい、リュード殿。少し東部の恥をさらすようで言いにくいのですが…」


 ハイマンの説明によると、クラカスを中心に一帯を治める領主貴族が東部の鼻つまみ者で、あまりいい人物ではないらしい。あの東辺境伯が、よくそんな貴族を野放しにしているなと思ったら理由もあった。その貴族は東辺境伯の妻の実家であるのと、悪い噂はたつが、決定的な証拠がないという話だった。ちなみに東辺境伯の妻は、とても良い人らしく、自分の実家のこともあるため、東辺境伯に度々離縁を迫っているらしい。


「リュード、ここはそのまま素通りしましょう」


「そうだね。野営した方がよっぽど良さそうだ」


 馬車での迂回ルートがなかったため、街に入らざるを得なかったが、少し強張ったレイレの顔を見ると何かしらの事情もありそうだったので、俺達は街をそのまま抜けるべく、中央を走る通りを進み、反対側の門まで来た。


 そして、そこに大勢の人間を従えた身なりのいい若者が立って、俺達を待っていた。





「やぁやぁ、麗しの冒険者姫レイレ姫様ではございませんか」


 妙に甲高い男の声に、俺は無性にイラッとした。何と言うか、薄っぺらさが服を着たような、そして性格の捻くれてそうな声だ。


「……」


「レイレ姫、いやですねぇ、私のことをお忘れになられたのですか?私ですよ、次期クラカサル伯爵のヘイゼルですよ」


 貴族の爵位は、大公、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵と続く。このうち、大公から侯爵はほとんどが王族になっている。辺境伯爵は公爵位に相当するため、辺境領における伯爵となれば、かなり上位の貴族だ。次期と言うことは、おそらく長男なのだろう。


「覚えております、ご無沙汰しております」


「そんな他人行儀な!私とあなたの仲ではないですか?」


「誤解を受けるような発言はお止めください。ヘイゼル様」


「誤解とはなんと悲しい物言いでありましょうか。私はどんなときも、あなたのことを想っているというのに」


「何度も迷惑だとお伝えしています」


「だが、いずれ私だけの姫とあなたはなられます。東辺境伯様も、すぐにお認めくださるでしょう。そうなればあなたも私のプロポーズを受けることになるでしょう」


 奴ヘイゼルは言葉が通じても会話が通じないタイプの人間だった。芝居がかったオーバーリアクションで髪をかきあげる姿が見ているだけでで腹立たしい。


 以前に、ユリーズ東辺境伯から、俺とレイレの婚約の許可はもらった際に、発表にはまだ少し早いと言われていたが、おそらくは目の前のヘイゼルとやらがその原因の一端だろうと思われた。


「レイレ姫、本日は我が居城へとご招待しましょう。どうかそちらで、ゆっくりとおくつろぎいただきたい」


 そう言ってヘイゼルは、ニタリと笑う。本人的には爽やかな笑顔のつもりもかもしれないが、下心が全く隠せていない。俺のイライラ度がさらに高まっていく。


「お断りします」


「ほう、断わると。それですと、私はあなたを説得するために、私の手の者を使うことも考えねばなりませんねぇ」


「なぜ、そうまでして…」


「いえ、少し私も気が急いていましてね。あなたは、どんどん美しく、そして有名になられていく。ところが、東にはなかなか帰ってこられない。お会いする機会も減ってしまうとなれば、少しでも仲良くさせていただきたいと思う気持ちにもなろうというものです。…最近では変な虫が、あなたの周囲を飛び回っている様子。その虫に噛まれてしまってからでは遅いでしょう?」


 そう言って、ヘイゼルとやらは俺をちらりと見る。あぁ、こいつ俺のこと知ってるんだと思うのと同時に、今日レイレがこいつの城まで行ったら、何かしらのアクションをするつもりだと理解できた。レイレ本人は強い。だが、仲間や無関係の人を人質にとられて体の関係や婚約を迫られたりすれば、どうなるだろうか。そしてこのヘイゼルと言う男は、そういうことを平気でやりそうだ。


 今まで強引な手を使ってこなかったのが、ここにきて強硬手段に出たのは、『スタープレイヤーズ』の名前が広まっており、俺が隣にいるため、手出しをできる最後のタイミングだと踏んだのだろう。


「レイレ、相手をする必要はない」


「なんだ貴様は。無礼なやつめ。平民の分際で、貴族の会話に割り込むとは

死罪にでもなりたいのか」


「俺はこの『スタープレイヤーズ』のリーダー、リュードだ。今パーティの行動の決定権は俺にある」


「それがどうした。私はレイレ姫をお誘いしている。貴様には関係がない」


「そのレイレ本人が嫌がっていると言っている。そして今はパーティーとして活動している。関係はあるな」


「ふん、才腕御免状をもらったことで調子にのり、身分不相応な夢をもった虫めが」


「レイレはお前の城には行かない。無理やりと言うなら、俺達は抵抗する。レイレ、文句を言わせない」


 何事かを言おうとしたレイレを黙らせる。そして俺達は、全員同時に武器を抜いた。それを見てレイレも、一瞬とまどいを見せてから、双剣を抜いて嬉しそうに笑った。


「リュード、皆、ありがとう。一緒に」





 俺がここまで好戦的になっているのは、この男がむかつくだけではない。話しながらも、俺はものすごく嫌な気配をヘイゼルの後ろから感じているからだ。


 ヘイゼルの連れている集団は2種類いた。兵士とガラの悪いチンピラ、もしくは不良冒険者のようなやつらだ。兵士はそうでもないが、チンピラ側に腕の立つのが何人かいる。その中の1人、ローブを着てフードを深く被って顔を隠している奴が、その気配の持ち主だ。


「守るべき姫を戦いに巻き込もうとする愚かな虫め。野蛮だけが取り柄の下賤の輩がっ…!」


「なんとでも言え、俺達は街を出る。何かするなら抵抗する。」


 そのまま俺は後ろのチンピラと兵士達に声をかける。


「おい、殺るなら俺達だけでなく、この辺りの住民を全員皆殺しにしないとな。東の姫君に手を出したとあっては、ただでは済まない。噂でももれたら不味い、目撃者は全員消されるかもしれないな。ちなみに……」


 チンピラや兵士達が俺に飲まれていく。誰かのごくりと唾を飲む音が聞こえた。


「俺達は強いぞ。最低でも半分は覚悟しろ。死ぬ方に入ってなければいいな」


 こういうときは、先に覚悟を決めたものが強い。そして、俺は襲ってきたなら兵士であっても躊躇なく殺すつもりだ。


「き、貴様…」


「どうする?」


「ぐぬ……」



「いやいや、何とも物騒な話になっておるのう。大変に失礼した。愚息に変わってお詫びいたしますぞ」


 そこに割って入ってきたのは、でっぷりとした腹を抱えた貴族だった。信樂焼のたぬきのような感じだが、その顔にかわいさはなく、瞳は暗く淀み、感情の類を一切映していない。


「私は、この地を治めるクラカサル伯爵ハニバルだ。冒険者リュード、そして『スタープレイヤーズ』の高名はかねてより聞いている。剣を収めてはくれまいか?レイレ姫もご無理を言って申し訳なかった。改めて非礼をお詫びする」


「謝罪を……、受け入れます。リュード?」


「…はい、謝罪を受け入れます」


「ち、父上」


「ヘイゼルよ、かねてよりお前には言っておろう。女性に対して、決して無礼なことなどないようにと」


「で、ですが!」


「ヘイゼル、貴族は欲するものがあるときどうするものだと、私はお前に教えてきた?お前は忘れたのか?私がどうやって今を築いてきたかを」


 ヘイゼルがこちらを嫌な目で見る。父親が来たことで、余裕ができたのだろう。その目は欲望にまみれた嫌な濁り方をしており、それが正しくこの2人が親子であることを示していた。


「レイレ姫、冒険者リュード、私からも先ほどまでの非礼をお詫びする」


 何も感情のこもっていない、ただ言葉だけを並べたものだが、言われてしまえば受けざるを得ない。受け入れた旨の言葉をそれぞれ返す。


「さて、改めてだ。私は幾度かレイレ姫にプロポーズをしているが、いまだ姫から承諾の返事はいただいていない」


 当たり前だろう。何を言ってるんだこいつは。


「私は姫の伴侶となるべく、日々の鍛錬をしてきたが、そんなとき、嫌な噂を聞いた。愚かな平民が、身のほどもしらず、姫を狙っているというものだ。冒険者リュードとやら、貴様のことだ」


「それで?」


「冒険者リュード。私は、ここで、レイレ姫を掛けてお前に決闘を申し込む」






お読みいただきありがとうございます。

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☆評価、ブックマーク、感想いただけましたら嬉しいです。

どうぞよろしくお願いいたします。



今日の/明日の、あなたに、ちょっといいことがありますように。

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