表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/162

0◆プロローグ◆



「つ、ついに完成した…」


 俺は深く息を吸いこんで、ゆっくりと吐き出した。吐息と共に感じる疲れと、やりとげた充足感が胸を満たしていく。


 7歳のときに、異世界おもちゃ道を進む、そう志をたてた。それから約18年、俺の思うおもちゃの完成形の1つを、ようやく作り上げることができた。目を閉じると、これまでのつらくも楽しい日々の記憶が浮かんでは消えていく。


…ここまで来るのに長かった。


 作業台の上にあるのは、握り拳ほどのサイズの、平べったい白いたまごだ。絹のような不思議な光沢のたまごの中央には、淡いグレーの四角い画面がある。その画面の下にはタッチボタンが5つついている。


 パッと見ると、それは、一時期世界的にブームを巻き起こした、たまご型の携帯ペット育成玩具『たまごっぴ』に似ていた。


 1番左のボタンを押すと、四角い画面の中央から光が出て、たまごの正面に数センチ四方の四角い光の画面が現れる。まるでSF映画に出てくる未来ツールのように、その画面は空中に浮かんでおり、中央には上下に揺れる不思議な卵が表示されている。


ピッポーポロロッ!


 音が鳴って画面の中の卵が明滅しながら割れると、中からボールに目とくちばしをつけたような、何ともかわいらしい謎生物が生まれ出てくる。ひょこひょこと上下に揺れる謎生物は、左右を見て、次にこちらを向くと、親を見つけたかのようにピーピーと鳴き始める。肉のマークの吹き出し付きで。


 俺が2番目のボタンを押すと、画面の左に骨付き肉が表示されて、謎生物がバクバクと食べる。心の中で、生まれたばかりで骨付き肉かよと突っ込み入れながら、しばらく肉を与えていると、謎生物は、ピュッピューと鳴いて体を震わせ、うんちをぷりっとする。俺は慌てることなく、3つ目のボタンを押す。すると画面の右からスライムがわさわさ出てきて、うんちが押し流されていく。


「フフッ…ようやくここまで出来たなぁ」


 しみじみと呟く。ここが地球なら、『たまごっぴ』に似たものがあるのは不思議ではない。だがここはアムリリア王国、剣と魔法のファンタジーな異世界だ。その王国の東の端に位置するユリーズ辺境伯領の領都ユーガッズ。その近郊にある研究施設、工場を併設した俺と仲間の商会『スタープレイヤーズ』の本拠地だ。


ピョロロン!ピョロロン!


「お、進化した。よし設定どおりだ!」


 謎生物はビカビカと光を発しながら、その姿を一回り大きくした。謎生物が肉マークの吹き出しをさらに出して、エサを要求してきたので、肉をなおも与える。落ち着いたところで、俺は4つめのボタンを押して、画面に手のアイコンを表示し、ボタンを連打して謎生物をなでる。ピュルッポーと喜ぶ謎生物が、やたらと可愛い。


「これ幾らにするかな…。また皆と相談しないとなー」


 このおもちゃは、この世界における最新技術の数々が搭載された、俺たち以外には絶対に作れないものだ。魔物由来の厳選素材をふんだんに使っている上に、俺達が汗水流して研究・開発してきた技術だ。相当な金額になるだろう。


「誰に渡すかな。また3辺境伯と国王様かな。どうせ渡すなら小さい女の子がいる人に渡したいんだけどな。でも、同時に渡さないと、絶対にもめるしな…しょうがない、あと何個か作るかな。あぁ、その前に、皆にも1度遊んでもらわないと」


 俺は5つ目のボタンを押して、画面を薄暗くする。すると謎生物は鼻ちょうちんを出しながら、すやすやと寝始め、少しして空中に浮かんでいた画面も消える。つられたように俺もあくびをし、作業台の上の魔石ランプの光を消した。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ