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9話:ベアトリスとアウロラ

明日は「【子爵令嬢付与魔術士】一人じゃ何もできないけど、仲間のドーピングは得意です♪」の43話と幕間8話を投降予定です。そちらもよろしくお願いします。

 ロクサーヌが奴隷商を出て行きました。


 持って行ったのはジーリオ様から頂いた餞別の本と、奴隷の皆が作った花の首飾りだけです。

 ソリテールさんに手を引かれ、馬車に乗り込む姿が目に焼き付いています。だって、とても幸せそうに笑っていたから。

 ロクサーヌは先ほど【隷属】スキルを解除されています。今までに売られて行った子たちは【隷属】スキルを上書きされて行きましたが、解除されたのを見るのは初めてです。どんな気持ちなのでしょうか?平民になるということは・・・

 ロクサーヌは譲渡という形で平民になりましたので、金貨400枚は商会が売れてからの寄付になります。


 遠ざかっていく馬車を見送ってから皆はいつもの作業に戻りました。寂しくて泣きだす子もいましたが、ほとんどの皆は笑顔でお別れができました。どうかお幸せに。


 今日は午後から小部屋の大掃除です。修道院から来る追加の4名用のお部屋にするためです。

 お昼まであまり時間がないので大急ぎで昼食の準備をします。皆で手分けして作っていきますが、やはりまだセパヌイールさんたちは時間がかかりますね。

 それでも一生懸命作られていますからきっとおいしく出来るでしょう。


 昼食を食べ終わり皆で片づけを始めると、ベルナデットがジーリオ様が呼んでいると伝えてくれました。


「みなさん悪いですが後お願いします」

「「はぁい」」


 ご用事はなんでしょう?わたしはジーリオ様の執務室に急ぐのでした。




 夕方になり、わたしの姿は修道院にありました。ジーリオ様から新入りのお迎えを命じられたからです。いつものメイド服に大きな背嚢を背負って。

 修道院の客間に案内され暫く待つとシスターアウロラさんが現れました。わたしは立ち上がって挨拶をします。


「こんにちわシスターアウロラさん」

「いらっしゃいベアトリス。アイツは来てないの?」


 アイツと言うのはジーリオ様のことです。昔ジーリオ様と付き合っていた・・・のですよね。


「ジーリオ様からお迎えを命じられました。わたしでは不都合でしょうか?」


 無意識にキツめの言葉になってしまいます。しかしシスターアウロラさんはそれを軽く受け流し。


「いいえ、あなたには聞きたいこともあるしちょうどいいわ。どうぞ、座って」


 ソファーに促されてわたしは背嚢を降ろして無言で座りました。シスターアウロラさんは向かいに座り、別のシスターさんがお茶を運んでくれました。


「あの、コレ、ジーリオ様からです」


 お茶を運んでくれたシスターさんに背嚢を開け中を見せます。大根に白菜に人参など前回とほぼ同じ奴隷商で採れたお野菜です。


「ありがとうございます。アウロラ様?」

「ありがたくいただきましょう。ベアトリスさん、商会長様にお礼を伝えておいていただけますか?」


 別のシスターさんがいるととたんに口調が丁寧になります。


「・・・承りました」


 背嚢ごとお野菜を持ってシスターさんが部屋を出ていくと。


「冷めないうちにどうぞ。口に合うといいのだけれど?」


 シスターアウロラさんが先にお茶に口を付けます。わたしもカップに手を伸ばし・・・なんでしょう?茶色いお茶です。初めて見たお茶ですがシスターアウロラさんは平気で飲んでますし、おいしいのでしょうか?一口飲んでみて・・・


「うあっ!にが・・・」


 吐き出すわけにもいかないので我慢して無理やり飲み込むと。


「ふふふ、タンポポコーヒーは口に合わないかしらね。ごめんなさいね。うちの修道院にはお茶を買うお金もないのよ」


 寂しそうに笑うと、シスターアウロラさんは先にうちにやってきた7人の様子をアレコレ聞いてきました。


「・・・そしてイヴォーンさんはあれから毎日弓の練習をしていますね」

「そう・・・みんな元気そうで安心したわ」


 シスターアウロラさんの目には薄っすらと涙がにじんでいました。本当に心配してらしたのですね。


 コンコンコン


 扉がノックされました。どなたでしょう?


「シスターアウロラ、夕食の準備が整いました」

「わかりました。すぐに参ります」


 夕食!?いけない、もうそんな時間です!うちに来る予定の子にもまだお会いしていませんし、説明すら何も・・・


「あ、あの!シスターアウロラさん!うちに来る予定の子は!?」

「ええ、夕食の時に紹介するつもりよ。ご一緒にどうぞ。あなたから頂いた食材で作った物だけどね」


 どうしましょう、ジーリオ様には外食する許可も頂いてませんし、食後に説明して連れて帰るには遅くなりすぎてしまいます。


「すみません!こんなに遅くなる予定ではなかったので、ジーリオ様には何も言っていないのです!すぐに帰らなくては・・・」


 そう言うとシスターアウロラさんは不思議そうに、


「アイツからは一晩泊めてやってくれと頼まれてるけど?食材は持たせるからって。てっきりアイツも送りにくるかと思ってたんだけど」


 えええええっ!?聞いていませんよジーリオ様!?


「さあどうぞ。あなたがおいしいと言っていたお野菜のミルク煮よ」


 ウインクしながら言われました。こうやってジーリオ様に近づいたのでしょうか・・・悔しいですが魅力的ですね・・・




 招かれた場所は食堂ではなくシスターアウロラさんの事務室らしい所でした。食堂は子供たちでいっぱいになっているので、うちにくる子だけこちらの部屋で一緒に食事をするそうです。

 臨時で置かれたテーブルには4人の女の子が座っています。貧しい麻のワンピースを着ている子たちが一斉にわたしの方を向き緊張した面持ちで口を開きます。


「あ、あの!今日は夕食を、えっと、ごちそうしてくださりあり、ありがとうございます!」


 そうでした。修道院では食事は日に1度の朝食のみで、よほどのことがなければ夕食を食べることができません。セパヌイールさんたちが初めてうちに来た時のことを思い出しました。


「どういたしまして。お話は後にしましょう。シスターさん、お願いできますか?」


 お腹を空かせているでしょうから、先に食べてからにしましょう。テーブルの上にはお皿が置かれていますが、中身がまだ入っていないのでシスターさんに給仕をお願いしました。


「かしこまりました」


 真四角のテーブルの左右に女の子たちが2人づつ座り、入り口側にシスターアウロラさんが、わたしが奥の上座です・・・メイド服を着て上座に座るなんて場違いもいいとこですが、先にシスターアウロラさんに下座に座られては、空いた上座に座るしかありません・・・


 シスターがお鍋を持ちお玉で一杯づつお皿にミルク煮を注いでいきます。

 注がれるたびに女の子たちの小さな喜びの声が漏れ聞こえます。


「す、すごい。お野菜がこんなに・・・」

「いい匂い・・・こんなの初めて」

「ミルクも入ってるよ・・・」

「ごくっ・・・」


 皆のお皿にミルク煮が用意されると、シスターアウロラさんが両手を胸の前で組んで祈りを捧げました。


「今夜の糧を与えて頂き、神とベアトリスさんに感謝を。ヴァルホルの地で待つ先人に感謝を」


 皆も同じように両手を組んで祈ります。わたしも見よう見まねで同じように祈りますが、わたしの名前が入っているのが恥ずかしいですね・・・


「ではみなさんいただきましょう」

「「「「いただきます!!」」」」


 みんなすごい勢いでミルク煮を口に運びます。よほどお腹が空いていたのですね・・・シスターアウロラさんを責めるわけではありませんが、収容できなくなるまで受け入れて満足に食べることができなくなるなんて、他に方法はなかったのでしょうか・・・うちから持ってきたお野菜も一度の食事で無くなってしまいます。


 ふと顔を上げるとすでに食べ終わった子もいて、必死にスプーンでお皿の表面の残りをかき集めています。

 給仕をしてくれたシスターを見ると、お鍋を斜めにして残りがあることを見せてくれました。


「みなさん、おかわりもありますからいっぱい食べてくださいね」


 歓声があがりました。わたしやシスターアウロラさんは一杯だけで、残りは4人の女の子たちがすべて食べ尽くしました。


 食事が終わり女の子たちも落ち着いたのでお話を始めることにします。


「改めてご挨拶しますね。わたしはベアトリスと申します。奴隷商「フィオーレ」の従業員で、本日は商会長であるジーリオ様より命じられ、みなさんのお迎えにまいりました」




 できるだけ淡々と、ジーリオ様の口調を真似て事実だけを伝えました。奴隷になるために毎日勉強すること。奴隷になるかわりに三食食べられること。奴隷として売られた時の期間は10年であること。皆さん黙って聞いていました。最後に。


「奴隷を希望する方は一歩前にでてください」


 言ってから失敗したことに気づきました。皆さん座って聞いていたのです・・・以前と状況が違ったのにそのままジーリオ様の真似をしてしまいました・・・


 しかし4人全員が席を立ち、わたしの方へ一歩近寄ってきました。これって・・・そういうことですよね。


「「「「わたしたちを奴隷にしてください」」」」


 全員が承諾してくれました。


「わかりました。ようこそ奴隷商「フィオーレ」に。歓迎いたします」


 シスターアウロラさんは寂しそうな顔をしていましたが、できるだけ見ないようにすることにしました。

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