6話:セパヌイール
「【分配1】・・・」
今日はここまでにしよう。
先日手に入れた27レベル分の経験値をすべての子供たちに分配した。レベルの低い子は4レベル上がった子もいる。明日の朝食が楽しみだ。どれだけスキルを覚えてくれることか。
そういえば、ベアトリスはもうすぐ13歳か。あの子は面白い。
円満スキル、パッシブスキルだが周囲の争いを鎮める鎮静効果がある。そして祝福スキル、その者の行動の正当性を認め説得力を持たせる。具体性を欠くスキルだがこのスキルを受けた者は成功しやすい。不思議な子だ。唯一の従業員ではあるし・・・何かサプライズでも用意しようか。
「「「「「おはようございますっ!!」」」」」
「ああ、みんなおはよう」
今日も子供たちは元気だね。聞いてほしそうにしている子が多いな。スキルを得た子が多そうだ。
「今日はスキルを得た子はいるかな?」
「「「「「「はい!はいっ!はいっ!!」」」」」」
思った以上に多いな。あのルイーズとかいう女もこれだけの子供たちの役に立てたのだ、喜んでくれるだろう。
「今日はすごいですね~こんなにたくさんの子たちがスキルを得るなんて!」
「そうだね。今日は午後から修道院の子の受け入れもあるし、午前のうちに鑑定をしようか。みんなの食事が終わったらスキルを見てあげよう。後で私の部屋に来なさい」
「「「「「「はぁい!!」」」」」」
「ふぅ~大変でしたね~まさか21人もスキルを覚えるなんて・・・」
「そうだね。さすがに魔力が持たないな」
ジーリオ様の手には魔石が握られていました。魔力を補うことが出来る石で、迷宮の魔物を倒すと手に入るそうです。それを使ってまで子供たちの鑑定をするなんて。
「魔石って高価な物じゃないんですか?」
「まあ、物によってはそこそこはするね。これは以前話した女伯爵ナターレが贈ってきてくれたものでね。こんな時こそ使うべきだろう」
「ナターレ様が!?・・・わたし、断ってしまって印象が良くないですよね?・・・」
「ああ、言ってなかったね。わたしには弟がいるのだが、そいつが女伯爵ナターレの参謀をしていてね、その関係でベアトリスが欲しいと言ってきたのだよ。断りの手紙を送ったら、今回は無理を言ったと、詫びに魔石を贈ってくれたのさ」
なんか申し訳ないですね・・・断ったのに贈り物をしてくれるなんて・・・
「10年経ったらまた声をかけるそうだ。ふっふっふ」
それ、賄賂なんじゃ・・・受け取っちゃダメですよ・・・
昼食後、わたしとジーリオ様は先日の修道院にやってきました。まず最初の7人の受け入れのためです。
「シスターアウロラ、準備が整いましたよ」
「・・・この儀式だけはあまり見たくありませんわね・・・」
これから行うのは奴隷契約の儀式です。【隷属】スキルでいくつかの制約を行います。
1つ、困ったことがあったら契約者に相談すること。
1つ、夜は屋敷で寝る事。
1つ、奴隷として売られた場合の【隷属】期間は10年。
以上です。
おかしいですか?わたしもこの【隷属】スキルを受けてました。
悩みや困ったことがあったら、みんな夕食後ジーリオ様の御部屋に行って相談します。大抵のことはこれで解決です。
逃げる子も、いないことはないですが・・・夜に屋敷に帰れる距離までしか屋敷から離れられません。みんな屋敷を抜け出しても、夜になると戻ってきてジーリオ様に叱られます。来たばかりの子に多いですね。わたしはまったくそんな気になりませんが。
そして売られた場合は売るときに再度契約を結びます。夜が困りますからね。条件等はその時々で違いますので決まりはありません。10年という縛りがあるだけです。
「子供たちへの説明は?」
「一応は・・・」
「いいことしか言わなかったのでしょう。あいかわらず優しさと甘さを間違えていますね。いいことしか言わないのは甘さです。優しさとは厳しいことを言っても希望を持てるよう諭すことですよ」
「うるさいですわ!」
シスターアウロラさんの気持ちも分かりますが、黙っていても食べ物がもらえると思われても困ります・・・。
その時ドアがノックされました。
シスターアウロラさんがジーリオ様を見てから声をかけます。
「どうぞ」
入ってきたのは7人のこど・・・も・・・背高っ!一人とても背の高い子がいます。わたしより30cmは高そうですね・・・
ジーリオ様がその子を見て少し眉が動きましたが、何もいいませんでした。この子が15歳のヌイって子ですね。
「初めまして。わたしは奴隷商「フィオーレ」の商会長ジーリオといいます。これから君たちにはうちの商品になるために、勉強をしてもらいます」
みなさん無言です。
「しっかり勉強をすれば毎日3回の食事を出します」
「「「「・・・え?」」」」
少しざわざわしました。小声で3回と、呟いている子もいます。今のこの修道院では一日2回の日も少ないでしょう。育ち盛りの子供たちにとって、一日1回の食事では生きるだけでも精一杯です。
シスターアウロラさんは申し訳なさそうに顔を背けます。
「ごはん3回も・・・食べさせてもらえるの?」
震える声で一番背の高いヌイが言いました。
「ええ、勉強する子にはちゃんと3回出しますよ」
ごくっと喉の鳴る音が聞こえました。スカートの裾を握りしめて、空腹に耐えている表情を浮かべている子も。皆瘦せていて痛々しく、早く連れて帰ってご飯を食べさせてあげたくなります。
「条件は一つ。わたしと奴隷契約を結ぶことです」
数人がビクッっとしました。奴隷になるということに抵抗があるんでしょうね。正直、ジーリオ様の奴隷商以外は想像通りの所でしょう・・・売り物になる女の子はごく一部の容姿のいい子だけ。それ以外の女の子は・・・口に出すのも憚られます・・・
スッとヌイが一歩前に出ました。
「わたしみたいな・・・かわいくもなく、背も高く、痩せていて・・・胸もない、女として売り物にならなかった、こんなわたしでも奴隷契約を結んでくれるのですか?・・・」
15歳で成人しているのに修道院にいるのです・・・最後の、最後の手段で、身売りも試したのですね・・・
「わたしは、生きるための努力をする子が好きです。能力に男も女もありません。しかし今のこの世界は、女の子に努力をする機会すらも与えてはくれません。わたしはそれが許せないのです。君は容姿に自信がないようですが、容姿とは内からにじみ出るものです。まずは外見ではなく内面の能力を高めてください。努力して能力を高めれば、おのずと道は開けます。わたしはその手助けをするだけです」
ジーリオ様が一度言葉を切ってみんなを順番に見ていきます。
「君たちが奴隷契約を結びうちに来ることになったら、毎日勉強し3食のごはんが食べられます。そのお金は、うちを巣立っていった君たちのお姉さんたちが稼いだ物です。頑張って能力を磨き、高値で引き取られて行ったお金で君たちを教育できるのです」
ヌイが涙を流しています。必死に泣き声を我慢しているみたいで、唇がへの字になって震えています。
「君たちに望むことは、お金を出してくれたお姉さんたちに恥じないように、一生懸命勉強することです。そして君たちの妹たちにも勉強が出来る機会を与えてあげてください」
ジーリオ様の言葉が途切れると、数人のすすり泣く声が聞こえてきました。ヌイは泣きそうな声で、
「わ、わたしを、奴隷にして、ください・・・」
「・・・いいでしょう。奴隷契約を望む子は一歩前に出てください」
ザッっという足音がして、全員ヌイに並びました。
「君、名前は?」
ジーリオ様はヌイに声をかけました。15歳ですから、名前を憶えていなかったのですね・・・やっぱりジーリオ様はロリコ・・・いえ、いいんですけどね。
「名前は忘れました・・・ここではヌイと呼ばれています・・・」
「では、今日から君の名はセパヌイールです。古代語で”花が咲く”と言う意味です」
「はいっ!」