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5話:アウロラ

 とある国のとある町にちょっと変わった奴隷商がある。


 普通の奴隷商の人気は麗しい女性か、屈強な男だ。


 愛玩用か、戦闘や危険な仕事目的だからだ。


 ところがその変わった奴隷商が扱うのは、「未成年の女の子」のみ。


 奴隷商の名前は「フィオーレ」という。



「おはようベアトリス」

「おはようございますジーリオ様!」


 先日ここから売られて行ったブランディーヌからお手紙が届きました。


 家令のリンゲンブルーメさんからのお手紙も読みましたが、今回はわたし宛てでしたのでジーリオ様も見てはいません。


 最初はとても怖かったそうですが、初めてお会いしたその男の子はとても繊細で、ブランディーヌに怯えていたそうです。

 しばらく話をするうちに売られてきたことを告げると、男の子は驚き、帰してあげると言ったそうです。

 何もしないうちに帰れと言われた気がしたブランディーヌは、男の子に説教をしたそうです。

 あなたがしっかりしないからわたしがここにいるのだ、と。




「わたしだって本当は「娼婦」として売られたくなんてなかった!でも、どうしようもないじゃない!わたしは奴隷なんだもん!自分の人生を自分で選べない!それなのに【道標】なんて人を導くスキルを得ているなんて・・・」

「その・・・なんていうか・・・ごめん」

「謝らないでよ!わたしはあなたの物なんだから・・・あなたを立ち直らせないと、蔑んでいた「娼婦」としても失格になってしまう・・・」

「ぼ・・・僕はどうしたらいいの?・・・」

「何よ!たかが数人の悪女に言い寄られたからって、落ち込んで引きこもるなんて!わたしなんてあなたよりはるかに弱くて何も持ってないのに・・・」

「ブランディーヌ・・・」

「考えなさい!ただ落ち込むんじゃなくて!どうしたらいいか、常に考えなさい!」

「考える・・・どうしたらいいか・・・」

「あなたは貴族の跡取りなんでしょ?これから先も多くの女性と知り合うわ。でも、逃げちゃダメなのよ。女性が怖いなら・・・わたしで練習しなさい!わたしが練習台になってあげる・・・さあ、わたしを抱きしめて!」

「震えているじゃないか・・・僕が・・・怖いの?・・・」

「怖いに決まってるじゃない!」

「そんな子に触れるなんて・・・」

「気合を!入れなさい!!」


 パァン!



 お手紙はジーリオ様にもお見せしました。最後まで読んだジーリオ様は。


「はっはっはっは!これはいい」


 ジーリオ様が声をあげて笑うなんて、初めて見ました。いつも微笑んでいるけどこんな風に笑うんですね。


「さすがブランディーヌだ。今回ばかりは人選を間違えたかと思ったけど、ブランディーヌを選んでよかったよ」

「そうですね、形だけとは言えブランディーヌも貴族になるんですね~」

「うらやましいのかい?今からでも女伯爵(アーネス)ナターレの所に行けば貴族になれるかもしれないよ?」


 ジーリオ様がいじわるを言いました。これも珍しいですね。よほどブランディーヌのことを心配していたんですね。安心して機嫌がいいです。


「そうですね~ジーリオ様が腑抜けになったらそうしましょうか?」

「ぷっ、あっはっはっは!それじゃ頑張らないといけないね。午後からめんどうな修道院に行ってみようか」





「また、あなたですか・・・」

「ご無沙汰しております、シスターアウロラ」

「そちらの子は?」

「うちの奴隷商の元商品ですが、今は従業員をしております」

「ベアトリスです!初めまして!」


 緊張します!修道院に着いてから案内のシスターも院長のシスターも怖い目で見てきます・・・院長というので年配の方かと思いましたが、まだ30歳手前でしょうか?ジーリオ様より若く見えます。


「ベアトリスあれを」

「あ、はい!よいしょっと」


 テーブルの上に大量のお野菜の入った籠を置きました。重かったです~


「・・・これは?」

「うちの屋敷内の畑で採れた物です。子供たちに」

「奴隷商の敷地内に畑を?・・・」

「ええ、無駄に広い敷地ですからね。もちろん子供たちの遊び場は残してありますよ」


 訝し気な目で野菜を見ていたシスターアウロラさんがわたしに視線を向け、


「奴隷に作らせた物、ですか?・・・」


 む!ちょっとカチンときましたよ。


「確かにわたしたちが作ったものです!みんな頑張って野菜の育て方を勉強して、一生懸命お世話をして、収穫の時はみんな大騒ぎで、その日の夕食の野菜たっぷりミルク煮込みはみんな大喜びでした!」


 両手を組んでその時の味を思い出してうっとりとしてしまいました。


「そ、そうですか・・・」

「これは子供たちが作ったものですが、修道院の子供たちにも分けてあげたいというので、お裾分けです」


 シスターがまたチラッとわたしを見ます。


「はい!喜びは分かち合いませんと」

「そうですか、ではありがたくいただきますね」


 別のシスターさんを呼んで籠を持って行ってもらいました。

 わたしはジーリオ様の後ろに立とうと思ったのですが、ジーリオ様がソファーの隣をポンポンと叩くので失礼して座らせてもらいます。


「それで、今日も同じお話ですか?」

「そうです。シスターのおっしゃることも分かりますが、ここの収容人数は遥かにオーバーしています。このままでは子供たちの食べ物も満足に用意できなくなります。うちによこすのが嫌なら、せめて数人だけでも他の孤児院に振り分けては?」


 ジーリオ様はうちに子供たちを連れ帰るために来られたのではないのですか?


「他の孤児院もいっぱいなのです。受け入れてくれるところがありません・・・」

「・・・そうでしょうね、他の孤児院は上限を決めています。多少余裕があっても受け入れないのでしょう。隣の町では財政破綻してつぶれた孤児院もあります。そこの子供たちがどうなったのか・・・うちにはまだ余裕があります。奴隷とは言え決して無下にはいたしません。毎日生きるための、食べるための術を教えて育てています」


 シスターアウロラさんは無言で考え込んでいます。


「うちから巣立った子供たちは今ではなく、未来を考えることができるのです」

「・・・あなた、ベアトリスさんとおっしゃいましたか?」

「え!?あ、はい!」


 ジーリオ様を無視して急にわたしに話しかけられてびっくりしました・・・何を聞かれるのでしょうか?・・・


「あなたは将来何になりたいのですか?」


 これは、考えるまでもありません!


「わたしは奴隷として「フィオーレ」に買われました。その期間は10年です。その10年でわたしは子供たちに生きるための術と知識を与えたいのです!子供たちがなりたいものになれるように手助けがしたいのです!野菜を育てることに喜びを覚えた子がいました。どの季節に畑を耕し種を植え、どの程度お水を上げればいいのか、病気がでたらどうすればいいのか毎日勉強して頑張っている子がいます。ニンジンを育てたいと言われ一緒に書庫で育て方を調べました。一からニンジン栽培を始め無事収穫ができて、その子は感動で泣いていました。その子の将来の夢は大きな畑で野菜を作ることだそうです。誰も食べ物で困ることがないようにって。今回持ってきたニンジンはその子が作った物です」


 シスターが無言で見つめてきます。


「わたしは「迷宮」語3ヵ国語が話せます。奴隷商では役に立たないかもしれませんが、子供たちに教えることはできます!帝国やフリージア王国に行きたい子供に教えることができます!わたしは将来、教師になりたいんです!」


 シスターアウロラはかけていた眼鏡をはずし目頭を押さえています。


「子供たちが夢を見られるのですね・・・なれるかどうかは別にしても、夢に向かって頑張ることが出来るところですか・・・」


 ジーリオ様が声を掛けようとするとシスターアウロラは手で制しました。


「あーもーいいです!ジーリオは卑怯です。こんな子を連れてくるなんて・・・」


 あ、あれ?シスターアウロラの様子が・・・?


「わたしを振ったただのロリコンのくせに、結果だけは出すなんて・・・」

「そんなつもりじゃなかったんだけどね、すまないアウロラ」


 え?え?え?ジーリオ様が・・・振った?えええええええええええええっ!!


「何人受け入れられるのですか?」

「今すぐは7人。まだ使っていない部屋があるのでそこを掃除してベットを置けば、追加で4人は可能だ」

「11人ですか。それだけ受け入れてもらえればなんとか・・・」

「卒院間近な子は何人いる?」

「・・・14歳の子が3人、それと15歳の・・・ヌイという子も1人いるんだけど・・・」


 ジーリオ様が考え込んでしまいました。シスターアウロラさんもうちのことは分かっているようです。成人している子は受け入れないって・・・うちに15歳までいた子はいません。みんな14歳までには売られて行きます。だって15歳は成人だから・・・


「特例だ・・・16歳になる前に売りに出す。それまでにどれだけ知識を貯めこめるかだ・・・」

「ありがとう。お願いします」


 シスターアウロラさんが頭を下げてお礼を言いました。


 急に物腰が柔らかくなりましたね?何かあったのでしょうか?

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