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4話:ベルナデット

 深夜になり子供たちも寝静まったころ、わたしの姿は町の娼館街にあった。

 様々な娼婦たちが街灯の下に立ち、娼館からは女たちの嬌声が聞こえてくる。反吐が出そうだ。


 そんな街中を歩いていると至る所から声を掛けられる。


「ねえ、お兄さん遊んでかない?」

「あら?いい男じゃない?うちにいらっしゃいよ安くしとくわよ」


 曖昧な返事でのらりくらいと断り先に進む。すると薄暗い街灯の下に露出の少ない服を着た女がいた。


「あの女だな・・・【鑑定(バリュータジオーネ)1】」


【ルイーズ】

 人族:女

 年齢:26

 称号:盗賊

 レベル:28

 状態:良好

 スキル:睡眠2、刺突1、農耕1、機織1、娼婦1

 装備:ダガーx1、ナイフx2


 最近娼館界隈で部屋に誘い込んだ客を眠らせ、有り金すべて奪っていく盗賊がいると聞いた。我が奴隷商も娼館と同じ「盗賊ギルド」に所属している。盗賊が盗賊ギルドに手を出せば間違いなく見せしめに殺される。それなのにギルドの客に手を出すと言うことは、元冒険者崩れのギルドに所属していない盗賊ということだ。

 わたしは盗賊ギルドからそういった違反者の取り締まりの命を受けている。わたしにはそれを実行するだけの能力と理由があるのだ。

 ゆっくりとその女に近づいて声をかける。


「女、いくらだ?」

「・・・3枚」


 わたしは女の腰から顔まで視線を動かし値踏みしているように見せる。


「ふむ、まあいいだろう」


 そう言うと女はわたしの腕に両手を絡ませるように抱きつき部屋まで誘導する。

 部屋に着き女がわたしの外套を脱がせハンガーにかけていく。女の視線がチラッとわたしの腰に結ばれた金貨袋にいく。

 女が自らの服のボタンだけをはずし、ベットに横たわりわたしを誘う。

 わたしが上着を脱ぎ女に覆いかぶさると、


「【睡眠(ドルミーレ)2】・・・ふぅ・・・さて、有り金頂いてずらからないと」


 女が上に乗ったわたしを押して抜け出そうとした時、思いっきり抱きしめてやった。


「え!?な・・・なんで眠っていないの!?」

「これがいつもの手かね?わたしには睡眠魔法は効かないよ、耐性を持っているからね」


 女はそれでも冷静に服の下に隠したダガーを抜こうとするが、両手ごと身体を抱きしめているので身動きが出来ない。


「くっ!はなせ!!」

「金貨3枚分は楽しませてもらわないとね」


 そう言って種族特性を発揮させる。()()()()()()()()()であるわたしの魅了の特性を。


「あ、あ・・・あああ・・・」


 女から力が抜ける。抵抗しなくなってきたので女の唇にわたしのそれを重ね生気を頂く。生気(経験値)を。


 暫くして身体を起こすと女はぐったりして動かなくなった。昏睡したようだ。


「さて【鑑定(バリュータジオーネ)1】」


【ルイーズ】

 人族:女

 年齢:26

 称号:盗賊

 レベル:1

 状態:昏睡

 スキル:なし

 装備:ダガーx1、ナイフx2


 今回はれべるが高かった分、かなりの経験値を頂けた。これに懲りたら二度と一人美人局などしないことだね。


 後の始末は盗賊ギルドにまかせ街はずれの屋敷に戻る。いつものように裏口に回り鍵を開けて敷地に入ると、


「と、止まれ!」


 正体がバレないように目深にフードをかぶっていたので気づくのが遅れた。この子は最近うちに来たばかりの、ベルナデットだったか。練習用の木剣を構えて威圧してくる。まあ、手が震えているせいで剣先が動きまくってはいるが。


「も、物取りか!?ここには子供しかいないぞ!」


 子供しかいないとは・・・そう言ってしまっては盗賊が入り放題ではないかね・・・

 フードを取り顔を見せる。


「こんな時間に練習かね?ベルナデット」

「あ!・・・商会長さん・・・はぁ~・・・良かった・・・」


 そう言うと木剣を取り落としへなへなと座り込んでしまった。


「もう遅い、子供は早く寝なさい」

「ご、ごめんなさい・・・早く、強くなりたくて・・・」


 ベルナデットは11歳。うちに来る子としてはかなり年上だ。奴隷として良い扱いを受けるために早くスキルを身に着けたいのだろう。


「もしわたしじゃなく盗賊だったら、戦おうとしてはいけない。大声を上げてわたしを呼びなさい。いいね」

「はい、ごめんなさい・・・」


 いい子だ。ふむ、今日はいつもより多く経験値を頂けたことだし、本物の物取りだったらいち早く発見した功績もある。少しだけサービスしても良いか。


「ベルナデット。スキルを身に着けたいかね?」

「そ、それはもちろん!」

「何のスキルを望む?」

「剣を、みんなを守れる剣のスキルがほしいです!」

「これまでの鍛錬を思い出して祈りなさい。欲しいスキルを思い浮かべるのです」


 ベルナデットは座り込んだまま両手を見つめて、ゆっくりと指を絡ませて組むと目を閉じ祈り始めた。

 ベルナデットの頭に手を乗せ、


「【分配(ディストリブジオーネ)1】」


 わたしの手から何かが抜け出した感触があり、ベルナデットの頭に吸い込まれて行く。


「ああ・・・!なんですかコレ!?」


 レベル1個分のわずかな経験値でスキルが身に着いたようだ。運がいい。


「【鑑定(バリュータジオーネ)1】」


【ベルナデット】

 人族:女

 年齢:11歳

 レベル:2

 状態:混乱

 スキル:剣士1

 装備:木剣


 まあ、こんなところか。


「ベルナデット、木剣を振ってみなさい」

「え?あ、はい!」


 木剣を正眼に構え、ゆっくりと振りかぶり一気に振り下ろす。


「やぁっ!」


 ビュッ!!

 空気を切り裂く良い音がする。


「え?・・・」

「もう一回」


 呆然としているベルナデットに再度素振りをさせる。


「やぁっ!やぁっ!やぁっ!!」


 ビュッ!ビュッ!ビュッ!!


 なかなか鋭い振りだ。まだまだ実戦で使えるレベルではないが、何かのきっかけくらいにはなるだろう。


「これは・・・?」

「おめでとう。【剣士1】スキルが身についている。初めてのスキルだね」

「あああ、わたしに・・・スキルが!?」


 ベルナデットは手を握ったり開いたりして、スキルの感触を忘れないようにしているようだ。


「だがまだまだレベルが低い。これからも精進しなさい」

「あ・・・ありがとうございます、商会長さん・・・」


 ベルナデットは涙でぐしゃぐしゃになった顔でお礼を言った。わたしは彼女の頭をぽんぽんと軽く叩き屋敷に誘導する。


 ベルナデットはこれから強くなっていくだろう。


 いずれこの奴隷商の用心棒をしてもらうのもいいかもしれないね。

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