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34話:ニンフェア・プラトリーナ

 なんだこの女はっ!?雷の恩恵を使っただとっ!?高ランクの冒険者か?・・・。

 顔以外を白いローブで覆い隠した小柄な女で、年のころは20歳前後くらいか。緑色の長い髪を風にたなびかせ不敵に笑っている。特に武器は見当たらないが恩恵使いなら素手でも油断はできない。こんなに若い高ランク冒険者などあまり聞かないが、貴族の馬車を見かけてちょっかいを出すなど気でも狂っているのか?・・・。


「君たちにはお仕置きが必要だね」


 こちらは帝国の迷宮で神力を得た騎士12人。対してこの女は一人だけ。それなのになんだこの自信は!?いくら恩恵使いと言ってもこの人数に囲まれたら手も足も出ないだろう。


「貴族の馬車が目に入らないのか?今なら見逃してやる。去れ!!」


 しかし女の表情には焦った様子はなく、気軽に「ひーふーみー」とこちらの人数を確認している。


「一斉にいけ!」


 恩恵使いとは言ってもたかが女一人に大げさかとも思うが、念には念を入れて全員で一斉に襲い掛かった。注意すべきは恩恵を使う両手だ。命まで取るつもりはないが、恩恵を使おうと手を上げたら斬り落とさせてもらう!前後左右から一気に距離を詰めて剣を抜き放つが、緑の髪の女は動く気配がない。全員が剣を振りかぶり、柄を握る腕に力を入れた瞬間意識が飛んだ。


「言うのを忘れてたけど、ボクに近寄ると雷に撃たれるよ?」


 地面に叩きつけられた衝撃で意識が戻った。一体何が起こったのだ!?いつの間にか地面に這いつくばっており、全身が痺れて動けない。いつ恩恵を使ったのだ!?女は身じろぎ一つしなかったというのに・・・。俺たち程度でどうにかなる相手ではなかったということか・・・。





「魔法・・・使い・・・」


 すごいです・・・。

 どなたかは分かりませんが10人以上の騎士を一瞬で無力化してしまいました。騎士たちが一斉に襲い掛かりましたが、緑色の髪の女性はただ立っているだけで全身が光り輝き、四方八方へ雷が飛び散りました。そしてその雷に撃たれた騎士たちが全員崩れ落ちたのです。

 貴族の騎士を倒すなんてすごい強さですが、貴族に手を出してただで済むとは思えません。


「逃げて!逃げてください!その者たちは貴族の護衛です!このままではあなたが・・・!」

「一つ聞きたいんだけどいいかな?」


 緑色の髪の女性がわたしではなく、背後にいる若い騎士さんを見て声をかけます。


「彼女をこんな目に合わせたのは君かな?」

「うっ・・・あ・・・」


 わたしの怪我を見てそう問いかけてきました。若い騎士さんは確かに彼らの仲間ではありますが、わたしにはひどいことはしませんでした。むしろわたしの怪我を見て自らの服で包帯を作ってくれたくらいです。


「ちがいます!この方は確かにそこの騎士たちのお仲間ですが、わたしの怪我の治療をしてくださいました!」

「ふ~ん、そっか。【短距離転移(テレトラスポート)1】」


 消えた!?目の前にいた緑色の髪の女性が消え、背後から声が聞こえてきました。


「【雷撃(フルミネ)1】」

「ぐあっ!・・・」


 ドサッ


 振りむくと若い騎士さんが崩れ落ちるところでした。敵とは言えわたしに優しくしてくださった騎士さんが攻撃されて困惑します。この女性はわたしの味方なのでしょうか?・・・


「手加減はしたから死んではいないよ。もちろん向こうで倒れている人たちもね」


 表情を曇らせたわたしに苦笑しながらそう言いました。助けていただいたことはありがたいのですが、この女性の正体が謎すぎて素直に喜べません。


「ここで話をするのは難だし、場所を変えようか」

「え!?」


 緑色の髪の女性が近寄ってきて、わたしを背後から抱きしめました。そして次の瞬間足が地面を離れたのです!


「【飛翔(ヴォラーレ)1】」

「きゃああああああっ!!」


 空を飛ぶと言う現実離れした状況に、足が地面についてないと言う異常事態に、わたしの膀胱は耐えられませんでした。空を飛ぶわたしたちを目撃した人がいれば、その後ろに綺麗な虹が見えたことでしょう。


「ごめんごめん。まさか漏らすとは思わなかった・・・」

「ひ、ひどいです!いきなり空に飛ばされたらっ・・・!!」


 街道から離れた小川に再び腰まで浸かりながら、恐怖と尿意で震える身体を自ら抱きしめます。本当に悪いと思っているのかいないのか、緑髪の女性は含み笑いしながら乾いた小枝を拾い集めています。

 背後からお腹に手を回され、全体重をお腹で支えていたのです。さらに加速していく負荷もお腹にかかっていたため、すでに吐いていなければ上からも遥か下の森に肥料を与えることになっていたでしょう。


「あの、一応助けていただいたことには感謝いたします。わたしはベアトリスといいます。ありがとうございました」


 水から上がって頭を下げてお礼を言います。何はともあれ、奴隷として連れ去られるところを助けていただいたのです。感謝はちゃんと伝えないといけませんね。


「ベアトリス?まあ、よくある名前か。いや、ただの成り行きだからね。ボクも立場があるから他国の貴族に関わるつもりはなかったんだけど」


 そう言いながら火を起こした焚火の側に寄るよう手招きをします。よくある名前って・・・。わたしの名前は古代語で「幸せを運ぶ」と言う意味だとジーリオ様にお聞きしたことがあります。女の子に多い名前ではあるらしいですけど。わたしはそんなことを考えながら焚火側の大きめの石に腰かけ、濡れた服を乾かし始めます。


「あの、お名前をお聞きしてもよろしいですか?」

「ボクのかい?そうだね~、ちょっと訳ありで本名は名乗れないんだけど・・・そうだね、「プルーニャ」とでも呼んでよ」

「プルーニャさん!?」


 急に知っているお名前を名乗られて声が裏返ってしまいました。女伯爵カウンテスナターレ様の非公式の使者として訪れたプルーニャさんのお名前をなぜこの女性はご存知なのでしょうか?


「あれ?プルーニャの知り合いだったのかい?・・・奴隷?・・・もしかして君が奴隷商「フィオーレ」のベアトリス嬢かい?」

「!わたしのことをご存知なんですか!?」


 プルーニャさんのことだけでなく、わたしのことまで知っているこの女性は一体何者なのでしょうか?


「ベアトリス嬢は運がいいのか悪いのか。一応助け出せたんだし運がいいのかな?さすがは【祝福】のスキル持ちってことだね?」


 言葉がでません。わたしのスキルのことまで知っている人なんてほとんどいないはずなのですけど。知っているのはジーリオ様と・・・女伯爵カウンテスナターレ様!?


「おっと、勘違いしないでね。ボクはただの平民だよ」


 そう言って笑顔を見せてくださいます。一瞬、女伯爵カウンテスナターレ様ご本人かと思いましたが、よく考えればそんな立場の方がお一人でこんな所に来るはずがありません。目の前の女性が平民と聞いて少し安心しました。


「ボクはソフィー様、女伯爵カウンテスジプソフィーラ・ディ・ナターレ様の右腕。女騎士団ワルキューレの騎士団長をしているニンフェア・プラトリーナだよ。ベアトリス嬢に会いに来ました。よろしくね」


 頭が真っ白です。全然平民じゃないです!!差し出された手をどちらの手で握ったのかも分かりません!初の女性貴族様は女伯爵カウンテスナターレ様ですが、平民の女性で騎士団長にまで上り詰めた人はこの方が初めてのはずです!


「あ、あの!その・・・わ、わたしはベアトリス・・・です・・・」

「うん、さっき聞いたけどね」


 緊張で言葉が出てきません。ニンフェア様の緑色の瞳から目が離せず、手を握ったままなのにも気づけませんでした。そしてゆっくりとニンフェア様の瞳が近づいてきて・・・近づいて?


「ベアトリス嬢はかわいいね。ソフィー様以外に惚れたのは初めてかも」


 緊張していたのです!先ほどまでお腹を押さえられ空を飛ばされたことも原因の一つです!決して変な意味ではないのですが!ニンフェア様の唇がわたしの唇に触れそうになった時・・・


「うっ!」


 おげええぇぇ・・・


「ぎゃあああああああああっ!!・・・」

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