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28話:ジーニャ

 プルーニャさんが出て行ってから1時間が経過しました。その間わたしは、お客様の接待をしています。こんなことをしていていいのでしょうか?いえ、決してお客様をないがしろにしろと言う意味ではなく、遊んでていいのかと言う意味です。


「お姉さん、このココアおいしいです」

「そう?それなら良かったわ」


 振り返ったジーニャ君が満面の笑顔を見せてくれます。この奴隷商には女の子しかいないので、幼い男の子をどう扱ったらいいか分かりませんでしたが、わたしが読んで聞かせている絵本を気に入ってくれたみたいです。そうです。わたしの目の前には黒い猫耳が揺れています。ついでに膝の上に座っています。ジーニャ君が。


「すいません、息子の相手をさせてしまって」

「い、いえ!ジーニャ君はかわいいのでわたしも楽しいです!」


 思わず声が裏返ってしまいます。決してやましいことをしているわけではないのですが、後ろからギュッとしたいのを我慢しているのです。


「なるほど、女伯爵カウンテスナターレがこんな辺境の奴隷商を気にかけるのはそう言うことですか」

「わたしも詳しいことはわかりませんが、帝国は女伯爵カウンテスナターレを拉致しようと数々の謀略を張り巡らせています。先日も強行手段に出たようですがナターレ最強の護衛が撃退したようです。ただ、これ以上エスカレートすれば最悪の場合帝国と戦争になる可能性があります」

「それを阻止するためにベアトリスの【円満】スキルが必要なのですね」


 あれ?わたしの名前が出ましたか?ジーニャ君に集中していて話を聞いていませんでした。わたしの【円満】スキル?


「しかし、正直言ってそこまでの効果があるスキルなのでしょうか?先日も【円満】スキルの効果は感じましたが、解決するわけではなく、話を聞いてくれる状態になる、という程度のものでした」


 これは、ローズさんの件でしょうか?確かにあの時はジーリオ様を刺し殺そうとしていたローズさんが、わたしに解決策を提示するようにおっしゃいました。そしてわたしのとんでもない提案を受け入れてこの奴隷商で働き始めたのです。


「その、話を聞いてくれる状態に持っていくのが国が違えば難しいのですよ。ましてや相手は帝国の・・・」

「お父さん。お母さんが帰って来たよ」


 突然ジーニャ君が話に割って入りました。目の前の猫耳が横を向いてピクピクしています。


「そうか。何人だい?」

「お母さんを入れて4人」


 ジーニャ君の耳は伊達ではないようです。まだお屋敷にも着いていないのに人数までわかるみたいです。そして程なくして全員無事に戻ってきました。


「プルーニャ殿、うちの者を助けていただきありがとうございます」

「気にしにゃくていいニャ。いい経験値稼ぎににゃったしニャ」


 応接室に戻って来たプルーニャさんにジーリオ様が頭を下げてお礼を言いました。マンティコアって昔話でよく敵として登場する伝説の魔物だと思うのですが、プルーニャさんは事も無げにおっしゃいます。


「わたしからも改めて感謝を。怪我も治してくれてありがとうございます」

「「あ、ありがとうございます!」」


 ローズさんに続きベルナデットとファイエットも深く頭を下げました。


「それに、ベアトリスちゃんに死なれると困るからニャ」


 ちらっとプルーニャさんがわたしを見て視線が合いました。さきほどジーリオ様とジーノ様でしたっけ?がお話されていた件ですね。わたしは一体何をさせられるのでしょうか?・・・


「まあ、今回はただの挨拶だけニャ。行商の途中だしニャ。正式な使者は商会長さんの昔の知り合いが顔を出すはずニャ」

「はて?どなたでしょうね?あまり知り合いは多くないはずですが」

「そのうちわかるニャ」


 プルーニャさんは御使者の方のことはあまり話さず、女伯爵カウンテスナターレからのいくつかの伝言を伝えると奴隷商を後にしました。馬車の後ろから手を振ってくれるジーニャ君にわたしも精一杯手を振ります。残念ながら結局ジーニャ君を抱きしめることはできませんでした。





「ジーノ、先ぶれに来てた者の遺体を見つけたニャ」

「誰かに殺されてたのか?」

「マンティコアだろうニャ。食われてたし」


 お父さんとお母さんが御者席でこそこそと内緒話をしてる。僕には丸聞こえだけどね。それにしてもマンティコアだって!見てみたいなぁ~カッコイイんだろ~な~。この前アルクと遊んだときはゴブリンしかいなかったからな~もっと強そうな魔物を倒してみたい!お母さんたちには内緒だけど、ナターレに来るたびにアレクおじさんのとこのアルクと一緒に魔物狩りをしている。二人だけの秘密だったんだけど女伯爵カウンテスナターレ様のお屋敷に行った時にあっさりバレてしまった。


「ふ~ん。プルーニャには内緒にしておいてあげるけど、あまり強い魔物退治はしちゃダメよ」


 女伯爵カウンテスナターレ様はなんで僕たちが魔物退治してたのが分かったんだろう?文字通り猫をかぶっていたのに見破られてしまった。あの光の輪に何か秘密があるのかな?いい子の振りをするのも疲れるなぁ。


「お前な・・・ジーニャに聞こえるだろ。もっとオブラートに包めよ」


 オブラートに、ね。お父さんが昨日の夜お母さんに頼んでいた次の子のことだけど、ベアトリスさんみたいなお姉ちゃんでお願いします。

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