27話:猫耳さん
「まだ諦めちゃダメニャ」
「え!?」
わたしの頭上から女性の声が聞こえマンティコアを蹴り飛ばしました。
「間に合ったようだニャ」
わたしに背中を向け顔だけ振り向いたその女の子には、猫耳としっぽが生えていました。
「逃げて!!マンティコアは超A級の魔物よ!一人でどうにかできるもんじゃないわっ!!」
誰!?マンティコアを蹴りつけるなんてすごいことだけど、A級冒険者だってチームを組まないと勝てる魔物じゃないわ!
グルルルル・・・
ダメだわ!マンティコアを怒らせただけ!目は血走り、唸りを上げて猫耳ちゃんを睨みつけている。身体の毛は紫電の糸が這いまわり逆立っている。
「相手してやるニャ。かかってくるニャ!」
猫耳ちゃんの気合の声でマンティコアが飛び掛かって来る。猫耳ちゃんはダガーを構えているけど触れてしまっては雷撃の餌食になる!
「ダメよ!避けて!」
わたしの忠告の声が届くかどうかのタイミングで、猫耳ちゃんは腿に差していたナイフの一本を投擲した。マンティコアは寸でのところで爪でナイフを弾いたけど、雷撃がナイフを伝い近くの木に避雷した。
「よっと」
猫耳ちゃんが再びナイフを投擲するとマンティコアの前足の付け根に突き刺さった。そのナイフの柄の部分からは細い糸のような物が繋がっていて、地面に垂れ下がっている。あれは?鋼鉄の糸?マンティコアは細いナイフを気にすることもなく、再び雷撃を放とうと身体に力を入れるが、鋼鉄の糸を辿って紫電の糸が地面に消えていく。
「知り合いに雷撃使いがいるからニャ。対策はバッチリニャ!」
ボオオオオオオオオオッ!!
「おっとっと」
雷撃が効かないと分かるとマンティコアは迷わず炎のブレスを吐いてきた。猫耳ちゃんは飛び上がって躱すと木の枝に掴まってスルスルと上に登っていく。
「あぶにゃいニャ~森が焼けちゃうニャ」
マンティコアは猫耳ちゃんを追いかけるように炎のブレスを吐き続ける。何本もの木が燃え上がり暗い森が照らし出される。その炎の中を掻い潜り猫耳ちゃんはダガーを構えてマンティコア目掛けて落下してきた。いけない!マンティコアには毒蛇の尻尾があるわ!猫耳ちゃんがマンティコアと接触しようとした時、身体の後ろから毒蛇が猫耳ちゃん目掛けてその牙を剥く。わたしは咄嗟に自害用のナイフを投擲した。足を潰された姿勢からでは力ない投擲になったけど、なんとかマンティコアの身体に命中してわずかに気を逸らすことに成功した。その隙を見逃さず猫耳ちゃんのダガーが眉間深くに突き刺さった。猫耳ちゃんはマンティコアの顔を踏み台にしてダガーを引き抜くと空中でクルクルと回って地面に着地した。マンティコアはフラフラと左右に揺れるとゆっくりと眠るかのように地面に横たわった。
「え?マンティコアを・・・一撃で倒したの?」
「こんにゃもんか。たいして強くはにゃかったニャ」
猫耳ちゃんから余裕のある声が聞こえてくる。わたしの援護なんて必要なかったのね。次の瞬間わたしの身体が明滅し、かつてない勢いでレベルがあがるのでした。
「【回復3】ニャ」
レベルが上がって体力やかすり傷は元通りになったけど、潰された足は完全回復はしなかった。でも猫耳ちゃんの回復スキルによって無事完治したのです。
「ありがとう助かったわ。えっと・・・」
「わたしはプルーニャですニャ。あにゃたがローズさんでいいのかニャ?」
わたしの名前を知っていました。ファイエットとベルナデットが助けを呼んでくれたのでしょうか?
「ええ、あなた、いえ、プルーニャちゃんは強いのね。マンティコアを倒しちゃうなんて」
「昔ちょっと迷宮に潜ってたことがあってニャ。でも、ちゃんはやめてニャ。もういい歳だし・・・」
少し肩を落として落ち込んでいるように見える。昔って言うけど小さくてかわいらしいし、成人したばかりに見えるけど?
「これでも31歳ニャ・・・」
「えっ!?年上!?」
生命の神秘!コレで31歳ですって!?肌なんてわたしより若々しく見えるわ!?この若さといい、頭の上の猫耳といい、ジーリオの言っていた獣人さんなのかしら?プルーニャさんは上を見上げ燃え盛る木々を見つめている。
「ちょっと離れててニャ。ほっとくと森が焼けちゃいそうだから周りの木を切り倒すニャ」
「え、ええ」
プルーニャさんから距離を取ると、火災現場の中心で腰を落としダガーを構える姿が見えました。
「ふぅ~猫式抜刀術。螺旋飛翔斬ニャ!」
ブワッ!
プルーニャさんを中心に周囲に一瞬の強風が吹きつけた。わたしの髪が風に舞い服の裾がはためく。すると一瞬の間を置いてプルーニャさんの周囲の木が1mほどの丸太になって崩れ落ちた。わたしの目の前の木にも斧で斬りつけたような切込みが走り、ゆっくりと倒れていった・・・あっぶなっ!!木がなかったらわたしが真っ二つになってたんじゃないのっ!?崩れて火の勢いが弱まった中からプルーニャさんがひょいひょいと飛び跳ねてやってくる。
「あ~ごめんニャ。久しぶりで加減がわかんにゃくにゃってたニャ」
呆然と立ち尽くすわたしに頭を掻きながら気楽な口調で笑顔を向ける。この子・・・いえ、このお姉さん、とんでもない実力者ね。