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26話:マンティコア

 プルーニャさんとおっしゃる方の頭には猫耳が生えていました。種族名がよくわかりませんが、猫獣人さんでよろしいのでしょうか?


「弟から伺っています。ナターレ最強の戦士で、女伯爵カウンテスナターレの義姉であり右腕であると」

貴方あにゃたのことも聞いてるニャ。コルニオロとおにゃじらしいニャ」


 同じ。おそらくインキュバスハーフであることでしょうか?わたしが知らないかもしれないと思って、ぼかしておっしゃられてるのですね。


「ベアトリスは知っていますのでお気遣いなく。弟は元気にやっていますか?」

「コルニオロは今やナターレの頭脳の片翼をににゃってるニャ。()()には少し困りものだけどニャ・・・」


 病気?ジーリオ様の弟様は何か持病をお持ちなのでしょうか?話を聞きながらお茶の用意をいたします。お子様にはココアでも煎れてあげましょうか?


「それは・・・ご迷惑をおかけしています」


 猫耳の少年を横目で見てみると耳がピクピクと動いています。あの大きなお耳です。きっと人間より耳がよろしいのでしょうね。


「にゃにかあったようだニャ」


 プルーニャさんがふいに立ち上がりました。少年と同じく入口の方を見ています。


 ざわざわ・・・


 ん?なんでしょう?入口の方が騒がしくなってきました。廊下を走る足音が微かに聞こえます。足音は部屋の前まで響くとそのままの勢いで扉が押し開かれました。


「商会長様!!大変です!森で魔物がっ!!」

「落ち着きなさい。来客中ですよ」


 その時やっとプルーニャさんたちに気づきファイエットは勢いよく頭を下げます。


「ごめんなさい!でもローズさんが!」

「ローズさんならこの辺の魔物はどうとでもなるはずですが、大群なのですか?」

「い、一匹です!でもローズさんが逃げろって!」


 ファイエットは今にも泣きそうで「ベルナデットも置いてきてしまって・・・」と膝をついてしまいました。


「ヤバそうにゃのが出てきたようだニャ」

「おい、プルーニャこんなとこで・・・」


 プルーニャさんは旦那様の制止も聞かず紅色のドレスを脱ぎ捨てました。その下には革のチューブトップに腿も露わなミニスカートを履いていました。


「お母さん僕も」

「ジーニャはお父さんとお留守番ニャ」


 プルーニャさんはお尻の上に差していたダガーを少し引き抜いて確認するとカチンとしまいました。


「それでファイエット。ローズさんは魔物のことを何かいっていましたか?」


 ジーリオ様がプルーニャさんの戦支度を見ながらファイエットに問いかけます。


「えっとえっと・・・確かまんてぃ・・・なんとかって・・・」

「「マンティコア!?」」


 ジーリオ様とプルーニャさんの声がはもりました。


「なぜこんな所にマンティコアが・・・超A級の魔物ではないですか・・・」

「久しぶりに歯ごたえのありそうにゃ魔物だニャ。ファイエットちゃん、道案内みちあんにゃい頼めるかニャ?」


 プルーニャさんが助けに行ってくれるようです。でも、超A級の魔物なんてプルーニャさん一人じゃ・・・


「お一人では危険です。ナターレ最強の戦士と呼ばれる貴女でも・・・」

「大丈夫ニャ。旦那だんにゃとジーニャにお茶でもお願いニャ」


 プルーニャさんはわたしに向き直りお茶を頼んでファイエットと出ていきました。


「申し訳ありません。こちらのゴタゴタに巻き込んでしまって」

「いえ、そんな強い魔物が現れたのなら被害が出る前に退治してしまわないと」


 ジーリオ様がプルーニャさんの旦那様に頭を下げます。ジーニャ君の頭を撫でながら席に座り直した旦那様は、手でジーリオ様の謝罪を必要ないとおっしゃいました。


「それに、行商のついでに魔物の駆除をすることは女伯爵カウンテスナターレにも頼まれている事ですので。死んでさえいなければプルーニャがなんとかしてくれます。お茶でも飲んで待っていましょう」





 奴隷商に戻って商会長様に魔物のことを告げるとお客様の女性がついて来てくれました。商会長様はナターレ最強の戦士とおっしゃっていましたけど、ナターレとはどこにあるのでしょうか?それに頭にある獣耳は・・・いえ、今考えるのはそんなことじゃありません!一刻も早くローズさんの所に戻らないと!


「ここから森に入ります!」

「了解ニャ」


 森に入ってから茂みを飛び越え木の枝を伝って空中を走ります。地面は茂みや草に覆われていて凹凸が分かりにくいため、足を取られて全力で走ることが出来ません。わたしは生まれながらに森のことが手に取る様に分かったので空中を移動する方が速かったのです。あ!そうです、いつもの調子で移動をしてしまいました。これでは獣耳の女性がついて来れない・・・


「まだスピードを上げても大丈夫ニャ」


 真後ろにいました!?わたしと同じことが出来るなんてこの人もわたしのように森のことが分かるのでしょうか!?しばらく走るとベルナデットを見つけました。大木を背にして何かと戦っています!


「ベルナデット!」

「ゴブリンだニャ。ひーふーみー、6匹か。よっと」


 地面に飛び降りながら獣耳の女性がナイフのようなものを投擲しました。それは今にもベルナデットに飛び掛かろうとしたゴブリンの首筋を直撃し絶命させます。それからは一瞬の出来事でした。地面に着地したところまでは見えましたが、次の瞬間には姿が掻き消え5匹のゴブリンを瞬殺しました。強い!


「ベルナデット!怪我はない!?」


 ベルナデットの服は所々が切り裂かれ血が滲んでいます。


「ファイエット、わたしは大丈夫かすり傷だよ。それよりこのお姉さんは?」

「わたしはプルーニャだニャ。これからローズさんを助けに行ってくるから貴女あにゃたたちは奴隷商に戻ってニャ」


 プルーニャさんと名乗った女性は「ファイエットちゃんがいれば安全に戻れるニャ」とおっしゃいました。確かに空中で安全確認しながら戻れば大丈夫でしょうけど、ローズさんのところまではまだかなりの距離があります。


「大丈夫ニャ。魔物の気配にゃらもう見つけたニャ」


 そう言うとわたしと比較にならない速度で森の奥に消えました。





「あああっ!!」


 わたしの隠れていた大木に落雷し木が真っ二つになりました。わたしは転げるように大木から離れ別の木の陰に隠れます。マンティコアの攻撃は主に炎のブレスと雷撃。近くに寄ると爪による攻撃と尻尾の毒蛇から毒攻撃を受けます。逃げ隠れするわたしに雷撃が雨のように降り注ぎますが、木の多い森の為雷撃が逸れて木に落雷します。炎のブレスを吐くと森の木々に引火し自らも火に巻かれるため躊躇しているようです。しかし足場の悪い森の中を闇雲に走ったため、足を挫いて全力で走ることができません。現在地も分からなくなったし逃げ切ることはできないでしょうね。でも思ったより時間を稼げたしファイエットもベルナデットも逃げ切ることが出来たでしょう。超A級の魔物相手にここまで出来れば上出来です。


 ドンッ!


「がはっ!」


 マンティコアが体当たりをしてきてわたしが隠れていた木がへし折れました。背中から木に強打されたわたしはぼろきれのように転がります。そこに折れた木が倒れてきて・・・


「あがああっ!!」


 あ、足が!?倒れた木に足が潰されてしまいました。これでは逃げることも隠れることも・・・ここまでのようですね。昔のわたしだったら・・・いえ、ジーリオにレベルを取られていなくても結果は変わらなかったでしょう。それどころかロズリーヌやクラウスがいても結果は同じ。それくらいの力量差のある魔物です。わたしが重傷を負って動けないのが分かっているのでしょう。マンティコアはゆっくりとわたしに近づいて来ます。その顔は人間の男性の物。30代から40代前半の顔に見えます。醜悪に歪んでいなければ。


「あなたは人間の言葉がわかるのかしらね?・・・出来れば一思いにとどめを刺して欲しいのだけど・・・」


 舌なめずりをするマンティコアは返事をせずに大きく口を開けます。その口には人間の物とはまったく違う巨大な牙が生えています。さすがに生きたまま食われるなんてごめんだわ・・・まだ動く手で腰のダガーを引き抜くとマンティコアに向けて牽制します。まだ戦う気があるのかと少しだけマンティコアが身を引きました。その瞬間わたしはダガーを自らの喉に向けて・・・


「まだ諦めちゃダメニャ」

「え!?」


 わたしの頭上から女性の声が聞こえマンティコアを蹴り飛ばしました。


「間に合ったようだニャ」


 わたしに背中を向け顔だけ振り向いたその女性には、猫耳としっぽが生えていました。

本編、【子爵令嬢付与魔術士】一人じゃ何もできないけど、仲間のドーピングは得意です♪が明日で完結です。まだ未読の方は是非一度読んでみてください。


https://ncode.syosetu.com/n8947hu/

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