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21話:奥様

 ジーリオ様とのお話しから数日が経ちました。

 ジーリオ様も奴隷商も変わらず毎日が過ぎていきます。

 わたしが悩んでいる間にも数人の子たちが奴隷として売られて行きました。そして新たに奴隷商に来た子たちも。

 今更ですが我が奴隷商から売られて行く子たちはみんな笑顔で正門を出ていきます。泣く泣く売られて行く子を見たことがありません。

 奴隷になると言うのに皆未来を見ています。未来を見ることが出来ているのです。

 手に入ったスキルが可能性を広げてくれます。未だセパヌイールさんは売れていませんが毎日笑顔で頑張っています。それは【料理】スキルが未来を見せてくれたからです。


「まだ【料理1】だけどわたしでもやればできるんだってわかったの。16歳になるまでは諦めずに頑張るわ!」


 確かに料理スキルがあれば最悪でも町の酒場で働くことも可能でしょう。孤児院を出たばかりのスキルをもってない子でも働くことができるくらいです。スキルをもっているセパヌイールさんは重宝されるはずです。


 わたしはあの日以来となるジーリオ様の執務室の前に来ています。毎日ジーリオ様の執務のお手伝いをしていましたが「数日休みなさい」と言われ、今日までこの部屋にはやってきませんでした。

 しかしいつまでも休んでいるわけにもいかず、ジーリオ様が行っている事についての結論も出ず、もやもやしています。


 コンコン


「どうぞ」


 部屋の中からはいつもと同じジーリオ様のお声がします。


「失礼します」


 扉を開けて中に入るとジーリオ様とシスターアウロラ様の姿がありました。


「アウロラ様!?」

「ベアトリス、風邪をひいていると聞いたんだけど寝てなくて大丈夫なの?」


 あ・・・わたしがお茶も出さずこの部屋にもいないので、ジーリオ様が気を使ってそういうことにしておいてくださったのですね。


「だ、大丈夫です!もうすっかり良くなりましたので・・・」


 急いでお茶の用意をします。魔石を使った魔道コンロでお湯を沸かし、とっておきの紅茶の茶葉を使います。

 ここに来られたと言うことはお引越しの話でしょうか?ご結婚の話はまだ聞いていませんがいつ公表されるのでしょう?


「アウロラの為に用意したのは屋敷の東側だよ」

「あんな日当たりのいい場所を!?本当にいいの?」


 東側。あの角部屋ですか。確かに日当たりはいいですが奥様のお部屋としてはいかがなものでしょう?


「少し荒れているけど広さは十分だと思うよ」


 一応使っていない部屋も掃除をしていますので、そんなに荒れてるわけではないのですけど。むしろお部屋としては狭いのですが・・・


「ありがとうジーリオ。これで冬を乗り越えられるわ!」


 修道院は隙間風が多かったですが冬を乗り越えるのも困難なほどなのでしょうか?・・・


「アウロラ様、いつからお越しになるのでしょうか?」

「明日からすぐに来ようと思っているのだけれど。一刻も早く冬の備えをしなければならないしね」


 明日!?さすがにすぐにお部屋の掃除をしなければなりませんね!


「おや?ベアトリスに話していましたか?」

「す、すみません。以前修道院でジーリオ様とアウロラ様の会話が聞こえてしまって・・・」


 そうでした。あれは盗み聞きでしたので正式にお聞きしたわけではなかったのです・・・


「そうなのね、恥ずかしいことを聞かれてしまったのね」


 アウロラ様が両手で顔を覆い、赤くなる頬を隠しています。

 お茶をお二人の前に置くと一礼して部屋を出て行こうとします。すぐに部屋の大掃除をしなければなりません。


「それではジーリオ様、奥様、これからお部屋の掃除をして参りますのでこれで失礼させていただきますね」


 ペコリと頭を下げると、


「お!奥様っ!?・・・」

「部屋の掃除?一体どこを掃除するんだい?」


 え?


「いえ、奥様が移られる東の角部屋のお掃除をした方がよいかと・・・」


 アウロラ様が顔を真っ赤にしてプルプル震えています。ジーリオ様はあきれ顔です。


「お、おおおお奥様じゃないわよ!!だ、誰がこんなロリコンなんて!!」

「ひどい言いようですねアウロラ。せっかく日当たりのいい畑を貸してあげようと言うのに、気が変わりそうです」


 畑!?東の畑はジーリオ様が休ませておくようにとおっしゃったので、夏野菜の収穫後は肥料を撒いてそのままにしてありますが・・・


「わたし!勘違いをしてましたか!?てっきりジーリオ様とアウロラ様がご結婚されるのかと・・・」

「けけけけけ結婚・・・」


 アウロラ様の頭から湯気が飛び出したように見えました。アウロラ様はフラフラしてソファーに座り込み、くたっと身体が横に倒れ込みました。頭に血が上り過ぎて失神したようです。


「アウロラ様!?」

「困ったね、しばらく寝かせておきますか」


 そう言ってジーリオ様はアウロラ様をお姫様抱っこで抱え上げると「扉を開けてくれるかい?」と言ってジーリオ様の寝室に連れて行かれました。


「一応言っておくけど」


 ジーリオ様のお部屋から出る時ジーリオ様がわたしに向かってこう言いました。


「わたしがニンゲンじゃないことを知っているのは弟とベアトリスくらいだ。こんなわたしでは普通の人と結婚なんてできないよ。あまりアウロラをその気にさせることは言わないように」

「は、はい。申し訳ありません」


 結局夕方までアウロラ様の目が覚めることはなく、ベルナデットが修道院まで行って、アウロラ様は今晩奴隷商に泊まると連絡しておきました。


 夕食時間になっても起きなかったので仕方なくわたしがアウロラ様を起こしました。


「アウロラ様、ご気分はいかがですか?」

「あ・・・ベアトリス。わたし、気を失ってたの?・・・いけない!外真っ暗じゃない!!」


 アウロラ様が窓から外を見て慌ててベットから起き上がります。


「修道院には今夜はアウロラ様をお預かりすると連絡しておきましたので、ゆっくりなさってください」

「でも・・・」

「セパヌイールさんやマルグリットさんもアウロラ様とお食事をされるのを楽しみにしていますから」


 そう言うとアウロラ様のお腹が「ぐぅ~っ」と鳴りました。


「あっ、やっ!ごめんなさい!恥ずかしいわね・・・」


 アウロラ様の手を引いて立ち上がらせます。


「さあ、食堂へ参りましょう」



「「シスター!」」


 食堂にいたセパヌイールさんとマルグリットさんが立ち上がってアウロラ様を呼びます。

 わたしはアウロラ様をお二人の間の席に案内しました。


「マルグリット、ヌイ、元気そうで安心したわ。あ、今はセパヌイールだったわね」

「ありがとうございます。レネーも元気ですよ。イヴォーンはすでに冒険者になって奴隷商から巣立っていきましたけど」

「そうなのね。元気でいるのならそれで充分よ」

「アウロラ、修道院から来た他の子たちはすでに食事を終えて自由鍛錬をしています。早く食事を終えてそちらにも顔をださないとですよ」


 アウロラ様とセパヌイールさんたちの会話が盛り上がってしまい、他の子たちが食事を待っています。


「ごめんなさいジーリオ。みんなもごめんなさいね」

「では食事にしようか。いただきます」

「「「「「いただきますっ!!」」」」」


 修道院では食事前にお祈りがありましたが、郷に入っては郷に従えなのか、アウロラ様も皆と同じように手を合わせるだけで食事を始められました。

 大人とは言えアウロラ様も一日一食では足りないようで、眼の端に涙を浮かべながらおいしそうにすべて平らげてしまいました。


「畑が出来ればうちの子たちにももっと食べさせてあげられる」


 アウロラ様がポツリと呟いた独り言が聞こえてきました。


 ジーリオ様は修道院の子たちの為に敷地内の畑を貸し出したのですね。


 明日からはわたしも畑づくりを手伝うことにいたしましょう。




 ジーリオ様は半分魔物なのかもしれません。良いこともすれば悪いこともします。


 でもそれは人間も同じことです。


 それならば人間かそうじゃないかは関係ありません。


 必要なのは「悪いことをしたことのお詫び」です。


 もう一度ジーリオ様と話し合ってみることにします。

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