表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/36

19話:門外不出の秘術

「ロズリーヌは、わたしの昔の冒険者仲間なのよ」


 驚きました。本当に元冒険者の方だったんですね。


「ロズリーヌと一緒に魔物狩りをしていたんだけど、わたしが森の中で一人になった時背後から人型の魔物に襲われてね・・・」


 森の中で、一人?わたしの疑問が顔に出ていたのかローズさんは苦笑しながら「トイレはさすがに男性の側じゃ、ね」と、教えて下さいました。あああ、もう少し頭を働かせるべきでした・・・ローズさんに余計な事を言わせてしまいました・・・


「それでわたしは神力も恩恵もすべて失って、足手まといになりたくないから冒険者を辞めてロズリーヌたちと別れたのよ。今じゃ娼婦に成り下がっちゃったけどね」


 容姿も才能の一つです。そんなに卑下するものではないです、と訴えましたが頭を撫でられ「わたしみたいにならないようにね」と優しく諭されてしまいました・・・いろいろ苦悩や葛藤があったのでしょう。


「クラウスはまだ一緒にいたのかしら?」

「ええ、ロズリーヌさんとクラウスさんのお二人でした。それで・・・」


 言っても大丈夫でしょうか?【隷属】スキルに抵触しなければ良いのですが・・・


「・・・【回復】の恩恵を持っている子と、弓士の奴隷をお買上になりました」

「そう。わたしの居た頃よりバランスがとれてるわね・・・」


 話が一段落した頃、廊下からパタパタと走ってくる音が聞こえ、扉をあけてエマさんが帰ってきました。


「ベアトリスちゃん、お水よ!」

「ありがとうございます」


 もう頭痛はすっかり良くなりましたが、せっかく持ってきてくださいましたので頂く事にしました。





「お世話になりました。このお礼は必ず」

「気にしなくていいわよ。早く表の通りにお帰りなさい」


 お店の外までローズさんが見送ってくれました。お礼を言って去ろうとすると、ドスドスと足音を立ててデーボックさんが現れました。


「表の通りまで、送っていきます」


 低いドスの効いた声ですが、優しい方のようです。


「そうね、そうしてちょうだい。それじゃベアトリスちゃん、またねって言いたいとこだけど、ここは危ないからもう来ちゃダメよ」

「・・・はい。ありがとうございました」


 わたしはカーテシーをしてデーボックさんと一緒に薄暗い横道を表通りに向かい歩き出しました。


「デーボックさんもありがとうございます。優しいんですね」

「・・・俺の娘も、生きていたら君と同じくらいの年なんだ。もうここには来るなよ」


 デーボックさんの寂しそうな顔を見ると思わず手を握っていました。デーボックさんはびっくりしてわたしを見ます。わたしにお父さんの記憶はありませんが、お父さんってこんな感じなのでしょうか?


「ありがとう。お父さん・・・」


 表通りに出るとそう言ってデーボックさんと別れました。手を振って歩き去ると、デーボックさんは柔らかい笑みを浮かべながら手を軽く上げて見送ってくださいました。





 結局ジーリオ様を見つけることが出来ず、トボトボと奴隷商に帰ります。その頃には月が昇り、月明りで道が良く見えランプがなくても問題なく歩けました。


 暗い夜道を歩きながらローズさんとの話を思い出します。

 スキルを失ったローズさんとスキルを得たわたしたち・・・スキルを奪う人型の魔物とスキルを与えてくれるジーリオ様・・・考えないようにしてもこの2つが無意識に結びついてしまいます。

 ただの偶然と思いたいのですがジーリオ様はどこで何をしてらっしゃるのでしょう・・・


 そして2日後の朝、朝食のために食堂に行くとみんながざわざわとしていました。


「やったよ!わたしにもスキルが手に入ったの!」


 セパヌイールさんがわたしに抱きついて喜んでいます。その他にも10人ほどスキルを得たそうです。


「まだ何のスキルかわからないけど、早く商会長様に教えていただきたいです!」


 涙を流しながら喜ぶセパヌイールさんは、ようやく奴隷見習いから奴隷としての生きる道が見えてきました。わたしも一緒に喜びますが心に刺さったトゲがちくちくと痛みます。


 ジーリオ様が出かけた2日後に一斉に11人もの子たちがスキルを得ました。交代で食事をするためこの後の子たちにも同じくらいスキルを得る子が出てくるはずです。


 魔物を倒さないと得ることが出来ないスキルが、魔物も倒さずこんな大勢に得られるなんて・・・


 結局午後からスキルを得た子の鑑定の時間になりました。全部で18人です。セパヌイールさんは予想通り【料理1】スキルを得ることができました。今日からは一日三食の食事を率先して作るそうです。


「ふぅ、18人の鑑定は魔力が持たないね」


 そう言ってジーリオ様が魔石を握りしめています。


「ベアトリス、元気がないようだけど何かあったのかい?」

「い、いえ!何でもありません・・・」


 平静を装いますが動揺が隠せません。わたしが知らないだけでスキルを得る方法があって、それが「門外不出の秘術」なのかもしれないのです。

 18人もの子が一斉にスキルを得たことと何の因果関係もないかもしれません。


 それでも・・・


 わたしの中でそう結論が出てしまいました・・・

 ベルナデットは何と言いました?


『ジーリオ様に剣術のコツを教えていただき、その直後にスキルを得た』と。


 今までは朝起きたらスキルを得ていたのです。ところがベルナデットはジーリオ様から与えられた可能性が高いのです。

 ジーリオ様は何をなさったのでしょう?

 神力を、レベルを上げないと得ることが出来ないスキル。それならばベルナデットがジーリオ様から頂いたのは「レベル」。

 レベルを上げないとスキルが得られないなら、レベルを失えばスキルも消える・・・ローズさんが失ったのは経験なのではないでしょうか。


 そしてジーリオ様の「門外不出の秘術」は他人から経験を奪い、それを奴隷商の子たちに分け与えることが出来るもの・・・


 答えが出た気がします・・・


 ジーリオ様に確認しないといけません。間違っているかもしれません。むしろ間違いであってほしいと思います。

 ですが、もし本当にそんなことをジーリオ様が行っているなら、ローズさんのように不幸な目にあっている方が他にもいるはずです。


 レベルを失い冒険者を辞めなくてはならなくなった人たち。

 仲間と一緒に頑張っていたのに、足手まといになりたくないからと別れなくてはならなくなった人たち。

 望まぬ仕事を、娼婦になるしかなかった人たち。


 わたしたちはそんな不幸になった方たちの「長年の経験を盗み取り」スキルを得ていることになります。


 わたしのスキルは本当にわたしの努力の結果なのでしょうか?・・・


 わたしはギュッと拳を握りジーリオ様の前に歩み寄ります。


「ん?ベアトリス、どうかしたのかい?」

「ジーリオ様、お話があります」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ