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18話:ローズ

 いつも夜は早く寝てしまうので賑わっている夜の町を見るのは初めてです。

 先日のウジェニーの病気の時はもっと遅い時間で寝静まった町でした。


 酒場からは笑い声が響き、道端で寝ている人もいます。風邪を引かれますよ・・・

 しばらく歩きましたがジーリオ様の姿を見つけることができません。一体どちらにいかれたのでしょうか?

 一本裏の通りにも表通りほどではないですが明かりが見えます。あちらにもお店があるのでしょうか?行ってみますか。


 薄暗い横道を抜けると何だか甘い匂いが漂ってきます。お店がたくさん立ち並び、どのお店の前にも薄着のお姉さんたちの姿が見えました。


「あら?お嬢ちゃんどうしたのこんなとこに」


 周りをキョロキョロ見回していると、隣のお店の前でキセルをふかしているお姉さんに声をかけられました。サクラと同じ黒髪のロングで、肩が見えている赤いドレスは何だか艶めかしく、スカートは長いですが横が裂けていて片足がももまで見えてしまっています。


「あ、あの!人を探してまして・・・」

「そうなの?・・・でもね、こんな時間にお嬢ちゃんみたいな子はココに来ない方がいいわよ?」


 ここってまさか?・・・


「おお、えらく若い子だな!この店の新入りかい?いくらだ?」


 えええええええっ!?いきなりお酒臭いおじさんに肩を触られ声をかけられました。


「この子は商売女じゃないよ!こんな子供に粉かけるなんてアンタの目は節穴かいっ!?一昨日来なっ!」

「ひぃっ!」


 お姉さんは持っていたキセルでおじさんの額を強打すると、お尻を蹴り飛ばして追い返してくれました。

 わたしはへなへなと座り込んでしまいました。混乱と恐怖で腰が抜けてしまったようです・・・ここって娼館街なんですね。来るのは初めてで驚きました。


「お嬢ちゃん大丈夫かい?ほら、立てる?」

「すみません・・・腰が抜けちゃって・・・」


 お姉さんに手を引かれますが足が言うことを聞きません。


「しょうがないね。デーボック!この子を休憩室に運んでくれる?」


 お店の中からぬっと出てきたのは上半身裸で筋肉の塊みたいな男性でした。


「ひっ!」

「大丈夫よ。お店の用心棒の奴隷だから変な事はしないわ」


 デーボックさんはわたしを軽々と抱え上げるとお店の中に入っていきました。中に入ると女性の嬌声が響き渡り、香水の匂いで頭がクラクラしました。

 入り口を入ってすぐの所の扉を開け中に入ると、少し廊下があってまた扉がありました。


「あら?どうしたのその子」

「ちょっと娼館街に迷い込んだみたいでね、おっさんに粉かけられて腰抜かしたのよ」


 改めて説明されると情けなさ過ぎて顔が真っ赤になります。部屋の中には一人の女性がゆったりとソファーに寝そべっていました。布面積の少ない服を着ていて胸の谷間やおへそまで見えています・・・スカートは腿が丸出しでほとんど裸みたいです・・・


 わたしを降ろした男性が無言で部屋を出ていこうとしました。


「あ、あの!デーボックさん、ありがとうございました」


 男性はびっくりしたように顔だけ振り向くとコクッと頷いて出て行かれました。


「育ちのいい子ね~。こんなとこに長居しないほうがいいわよ~」

「はい・・・すみません」

「お嬢ちゃん、お名前は?わたしはローズ、そっちで寝そべってるのはエマね」


 エマさんが手をひらひらさせて「よろしくね~」と言いました。最初に声をかけてくれたお姉さんはローズさんとおっしゃるんですね。ロズリーヌさんによく似たお名前です。


「申し遅れました。奴隷商「フィオーレ」の従業員をしています、ベアトリスです。助けていただいてありがとうございます」


 わたしは姿勢を正して頭をさげて挨拶をします。本当は立ってカーテシーをしなければなりませんが、まだ腰が抜けているのです・・・


「あ~噂の奴隷商の子なんだ~。みんな恩恵をもってるって有名だよね~?」

「・・・恩恵ね・・・わたしも昔持ってたけど・・・」


 エマさんが感心したように頷きますが、ローズさんは苦々し気な顔になります。『昔持ってた』?今は持ってないのでしょうか?スキルが消えるなんて聞いたことはありませんが?


「まぁたローズのその話~?魔物に神力と恩恵を奪われたってやつでしょ~?そんなの聞いたことないわよ~」

「本当なんだって!人型の魔物だったけど、魅了攻撃を受けてはっきり顔を覚えてないのよ・・・あいつはわたしから・・・」


 ローズさんが顔を背けて言葉を切りました。レベルとスキルを奪い取る魔物?・・・そんなのが本当にいるのでしょうか・・・


「あんな目に合わなければ、わたしは今だって冒険者を続けられたのに・・・」

「いい加減あきらめなさいよ~。わたしは娼婦もいいと思うけどね~」


 どうやらローズさんは望んでこのお仕事をされてるわけではないようです。レベルとスキルを奪われて冒険者を引退されたのですね。


「それで~、従業員のベアトリスちゃんも恩恵を持っているの~?」


 エマさんがあっけらかんとした様子で聞いてきます・


「あの、えっと・・・」


 スキルを奪われたと言っているローズさんの前で言うのは躊躇(ためら)われますが・・・


「ああ、ごめんなさい。いつまでも引きずってちゃダメね。わたしも聞きたいわ」


 ローズさんが薄っすら浮かんだ涙を指で拭って笑顔で聞いてきます。気を使われてしまいました。


「私が持っているスキ・・・恩恵は、「帝国語」「連合国共通語」「フリージア王国語」・・・それに「円満」と「祝福」です・・・」


「「えっ!?・・・」」


 お二人が絶句されました。正直にお話しするべきではなかったでしょうか・・・


「・・・わたしは神力10程度で恩恵が2つだけだったわ・・・ベアトリスちゃんはどれだけ神力を得たの!?・・・」

「えっと、それはよくわからなくて・・・」


 神力、レベルを得たという記憶はないのでおそらく1だと思いますが、ローズさんの話し方、ロズリーヌさんたちがおっしゃっていたことから、レベルを上げないとスキルを取得することは出来ないようです。

 ジーリオ様から教えられた効率の良いスキルの習得方法を試してはいますが、5つのスキルと言うことはレベル10以上は確実のようです。


「分からない?魔物を倒した瞬間、神力に気づかなかった?」


 やはり魔物を倒さないとレベルが上がらず、スキルも取得できないようです。

 どうしましょう。正直に話した方が良いのでしょうか?・・・ジーリオ様を裏切ることになりそうな気もしますが・・・


「わたしは魔・・・あぐっ!?」


 頭に激痛が走りわたしは(うずくま)ってしまいました。膝から地面に崩れ落ち凄まじい冷や汗が流れます。


「「ベアトリスちゃん!?」」


 ローズさんとエマさんがわたしを心配して駆け寄ってきました。

 これは一体・・・

 まさか、【隷属】スキルで禁止された【奴隷商の仕事で知った秘密を洩らさない】に抵触するのでしょうか?


「大丈夫?ベアトリスちゃん、エマ!お水持ってきて!」

「う、うん!」


 エマさんが部屋を出て行ったので、ローズさんが空いたソファーにわたしを寝かせてくれます。


「すみません・・・重ね重ねご迷惑を・・・」

「気にしなくていいから、しばらく横になっていて」


 わたしは「魔物を倒したことはありません」と言おうとしました。その瞬間にあの激痛です。もう一度試してみる気にはなれません・・・ロズリーヌさんなら・・・


「ロズリーヌさんなら、何か分かるのかもしれません・・・」

「ロズリーヌ!?」


 思わず声が漏れていました。わたしたち奴隷商のみんなが魔物も倒さずスキルを得ていることは、ロズリーヌさんたちだけが知っています。そう思っていたら思わず呟いてしまいましたが、ローズさんがロズリーヌさんのお名前に反応されました。


「ベアトリスちゃん、ロズリーヌを知っているの!?」

「お知り合い、でしたか?先日うちで奴隷を購入された方です」


 ローズさんが懐かしいような、悲しいような顔をして口を開きました。


「そう・・・ロズリーヌは、わたしの昔の冒険者仲間なのよ」

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