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17話:スキルの秘密

 とある国のとある町にちょっと変わった奴隷商があります。

 普通の奴隷商の人気は麗しい女性か、屈強な男です。

 愛玩用か、戦闘や危険な仕事目的だからです。


 ところがその変わった奴隷商が扱うのは、「未成年の女の子」のみ。

 と言っても愛玩用ではなく、その能力を伸ばし政治や軍事、商売にと、女性に活躍の場を提供することを目的としています。


 この奴隷商出身の子は、ある者は大陸を又にかける大商人の片腕に、またある者は貴族の跡取りの正妻に、またある者は貴族のお屋敷の料理人と様々な職業、立場になっていきました。

 そして先日、サクラとイヴォーンさんは冒険者として奴隷商を旅立ち、フリージア王国の迷宮に向かったそうです。活躍できなくてもいいです。どうか無事でありますように。


 朝の身支度をして鏡で最終チェックをします。メイド服よし!ホワイトブリムよし!ヒールは・・・初めて履いてこけてしまいましたので、踵がほんの少し高いだけの靴です。廊下を歩いて食堂に向かうともぬけの殻でした。


「え?誰もいないなんて?・・・朝食の時間を間違えましたか?」


 テーブルを見ると一枚の紙が置いてあり、「大広間に来なさい。ジーリオ」と書いてありました。

 朝食はあちらでとるのでしょうか?


 大広間はこのお屋敷が元貴族のお屋敷であった頃、夜会などでダンスパーティをするための場所です。あまりに広いので普段は使うこともないのですが。疑問に思いつつも大広間に着き扉を開けると、


「「「誕生日おめでとう!ベアトリス!!」」」


 パパパン!


 とクラッカーのなる音と奴隷商のみんなの祝福の言葉が聞こえました。

 え?え?え?

 驚いてぼーっとしているとジーリオ様が近づいてきて、「誕生日おめでとうベアトリス」とジーリオ様からも祝福のお言葉と花束が贈られました。


 そうでした。今日はわたしの誕生日、今日で13歳になったのです。


「お姉ちゃんおめでとー!」

「おめでとうございます!ベアトリス様!」


 小さな子たちがわーっと駆け寄ってきてもみくちゃにされます。


「みんな、ありがとう!ジーリオ様もありがとうございます!」


 大広間には手作りの飾り付けがされていて、色とりどりな紙で作った輪っかやお星さま、道端に咲いているお花を集めた花瓶など、それはもうガタガタでしたけど温かみのあるダンスホールになっていました。

 テーブルの上には野菜のミルク煮にベーコンエッグ、ポトフにグラタンなど、様々な料理が並んでいます。そしてそのテーブルにもいろんな飾り付けがされています。こんなものいつの間に用意したのでしょう?


 あ!そうです、修道院に行った日ですね!なるほど、これの準備のためにわたしを修道院に泊まらせたのですね。みんな何日も前から準備で大変だったでしょう。小さな子たちがほめて欲しそうにわたしを見上げてきます。


「みんなありがとう。こんなにお祝いされてお姉ちゃんとってもうれしいわ!」


 頭を撫でてあげるとみんな喜んではしゃぎまわります。


「さあベアトリス席について、せっかくみんなが作ってくれた料理が冷めてしまうよ」


 ジーリオ様に促されて奥に用意されたお誕生日席に座ります。


 朝から豪勢なお料理が並び、みんな笑顔で楽しい朝食でした。


 セパヌイールさんを除いては。




 セパヌイールさんは15歳。16歳になるまでに買い手を見つけて奴隷商を出ていかなければなりません。

 現在所有しているスキルは0。背が高く男性の平均身長も越えています。決して容姿は悪くはないのですが、痩せているせいで女性らしい丸みには欠けています。セパヌイールさんもがんばって食べているのですが、太らない体質なのか一向にお肉がつかないのです。


 スキルも取得できるようにと頑張っていて、毎日お料理の技術を磨いています。


 頑張ればスキルを得ることが出来るのですよね?ジーリオ様・・・


 クラウスさんとロズリーヌさんのおっしゃっていたことが頭から離れません。


『魔物も倒さずに恩恵を得た者なんて聞いたことがありません』

『長年冒険者をやっているけどわたしが持っている恩恵はたった3つ』


 わたしは物心つく前からここにいます。魔物を倒したことなんて一度もありません。


 なのにわたしは、()()()()()()も持っています・・・


「帝国語」「連合国共通語」「フリージア王国語」「円満」「祝福」・・・


 どれもある日朝起きると覚えていました。語学の勉強は毎日していましたし、毎日寝る前にお祈りしていたから得ることが出来たと思っていました。


 違うのでしょうか?・・・


 そういえば少し気になることがあります。

 ジーリオ様は時々夜中に外出されます。先日もベルナデットが裏口から帰ってくるジーリオ様を見かけたと言っていました。その時少しジーリオ様に剣術のコツを教えていただき、その直後にスキルを得たとか。そして数日後の朝、21人もスキルを得ていました。


 ジーリオ様がお出かけしたあと、わずか数日で22人もスキルを得ています。


 これはどういうことなのでしょうか?・・・「門外不出の秘術」と無関係だとは思えません。


 魔物を倒していない子たち22人が覚えたスキル。それどころか過去に奴隷商から売られて行ったみんなの覚えたスキル。


 これはどこから手に入ったものなのでしょうか?・・・


 ジーリオ様にお聞きすることはできませんが、何か嫌な感じがするのは気のせいでしょうか?・・・




 その日の夜。裏口から出ていくジーリオ様の姿がありました。


 奴隷商のみんなは【隷属】スキルの「夜は屋敷で寝る事」のルールに縛られ、夜に屋敷の敷地から出ることはできません。


 わたしを除いては。


 わたしはジーリオ様に買っていただいた時、再契約を結んでいます。


【奴隷期間は10年】【奴隷商の仕事で知った秘密を洩らさない】以上の2点です。


 わたしは急いで着替えて外套を羽織り、ジーリオ様を追って裏口から外にでました。

 丘を下り篝火の見える町を目指します。

 ジーリオ様はランプを持たずに町へ向かいました。この暗闇でランプもなく見えるのでしょうか?わたしがランプを使うとジーリオ様を追いかけているのがバレてしまうかもしれません・・・

 わたしは悪いことをしていますね。でも、わたしたちが手に入れたスキルが気になります。何か嫌な感じが消えないのです。知らない方が幸せなんだと思います。それなのにわたしは・・・


 真っ暗な道をゆっくりゆっくりと下って町に向かうのでした。

夕方くらいに【子爵令嬢付与魔術士】の幕間14話を投降予定です。

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