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16話:サクラとイヴォーン

「金貨220枚。これで、サクラさんとイヴォーンさんがほしいわ。いいわよねクラウス?」

「まかせるよ」

「「え!?」」


 ロズリーヌさんの言葉に諦めていたサクラとイヴォーンさんが驚きの声を上げました。わたしの心の声もかぶっています。


「いかがかしら?ジーリオ様」


 ジーリオ様がじっとロズリーヌさんを見つめます。あまり見つめないでください・・・


「サクラとイヴォーン。二人で220枚。ですか・・・ご存じのようですが、必中は弓士最高恩恵の一つです。過去に必中を持っていた弓士はことごとく伝説や英雄になるほどの恩恵」


 ジーリオ様は暗に足りないとおっしゃっているようです。


「ええ、知っているわ。確かに狩人として生きるなら一日一回でも生活はできるでしょうね。でも、冒険者に売り込むなら不器用は致命的だわ。それなのにジーリオ様はわたしたちにイヴォーンさんを紹介した。それはなぜかしら?」


 なぜなんでしょうかジーリオ様。


「逆に300枚を出されたら不器用の恩恵を盾に売らなかったんじゃないかしら?器用の恩恵を得るまでは」


 え?え?どういうことなんでしょう?ジーリオ様が珍しくニヤリとした笑顔を浮かべます。ロズリーヌさんと分かりあっているようで歯がゆいんですけど!!


「ご明察です。さすがは()()()()()()()()()()()()()ロズリーヌさんですね」

「わたしのこと知ってたのね?それなのに黙ってるなんて案外腹黒いのねジーリオ様」


 誰か説明してください!意味がわかりません!!


「意味がわからないって顔をしているね、ベアトリス」

「ジーリオ様は最初からイヴォーンさんをわたしたちに売りたかったのよ、ベアトリスさん」


 ロズリーヌさんがジーリオ様の言葉を引き継いで説明を始めてくださいました。


 イヴォーンさんのスキルは本来金貨300枚以上の価値があるものらしく、100枚程度の価値ではないそうです。

 しかし奴隷として売る場合、狩人を生業とする人がイヴォーンさんを買うことはあり得ません。本職の狩人さんは一日一匹では商売にならないからです。10発はずそうと2発当たり毎日2匹仕留められる人の方が価値があるのです。


 そして冒険者をする場合迷宮で一匹仕留めても帰りに魔物に襲われるとおしまいです。どうしてもサポートしてくれる存在が必要になります。

 ロズリーヌさんが後衛の魔法使い、クラルスさんが前衛の剣士、そして回復職のサクラが加われば安定したパーティになります。最悪イヴォーンさんが一匹しか仕留められなくても崩壊することのないパーティです。


「イヴォーンさんは一回だけなら必中するのよね?それなら普段は攻撃に参加せず、いざという時のパーティ救命のジョーカーでいてくれれば心強いわ。先日わたしはサーベルタイガーに負傷させられたけど、その時にサクラさんがいれば怪我は治るけど、サーベルタイガーを倒せるとは限らない。わたしが戦線離脱している間にクラルスまでやらたかもしれないしね。でも、イヴォーンさんがいればサーベルタイガーは、一匹は必ず仕留められるわ」


 なるほど・・・


「だからわたしたちがイヴォーンさんの欠点を承知の上で仲間に迎え入れてくれるか、育ててくれるかどうか試されたのよ」


 ふふふ、とジーリオ様が笑い両手を上げて降参のポーズをされました。


「必中の恩恵は本当に金貨300枚の価値がありますが、今の状況でその値段で売ってしまうとその金額分の仕事を期待されてしまいますからね。かと言ってわたしから大切なイヴォーンに安値をつけるわけにもいきません。何か理由がありませんと」


 限定的な使い方しかしないから、が理由なのですね。日によっては使うことなく終わるから安くする、と。

 使うことのない奴隷に金貨100枚は高いですが、この先器用スキルを取ることが出来ればロズリーヌさんたちにとっても最高の弓士を得るチャンスもある。そういう取引ですか。


 わたしはまだまだですね。そんなこと考えつきもしませんでした。


「商談成立、ってことでいいのかしら?」

「わかりました。サクラとイヴォーン二人を金貨200枚でお売りしましょう」


 ん?金貨220枚ではないのでしょうか?


「いいのかしら?」

「ええ、その代わり残りの20枚でサクラとイヴォーンのための衣食住を確保してください。全財産なのでしょう?」




 サクラとイヴォーンさんに奴隷商を出るために再契約の儀式を行いました。そしてわずかな持ち物と着替えのために部屋に戻ります。

 するとロズリーヌさんがコランティーヌの前に進み、視線を合わせるためにしゃがみ込みました。


「コランティーヌさん、今回は縁がなかったけれど貴女の恩恵は治癒と攻撃、一人で二役こなせる素晴らしいものだわ。わたしたちに財力が足りなかっただけ、自信をもっていいわ」

「あ、ありがとうございます!」


 ロズリーヌさんが落ち込み気味のコランティーヌを慰めてくださいました。続いてソフィアの前に進み、


「ソフィアさん、傷を癒してくれてありがとうね。貴方の回復の恩恵はこれから引く手あまたになるわ。わたしが保証する。頑張ってね」

「は、はい!」


 ソフィアも上を見上げていい返事をします。ロズリーヌさんはしゃがんでいますがそれでも頭一つ高いですね。


「ベアトリス、コランティーヌとソフィアを修練に戻らせてください」


 奴隷契約の儀式用の道具を片付けながらわたしに指示をだされました。


「かしこまりました、ジーリオ様」


 扉の前でコランティーヌとソフィアが一礼し部屋を出ていきます。わたしも二人と同じように一礼して扉を閉めました。


 1時間後準備が整ったサクラとイヴォーンさんが屋敷の外に出ました。簡素な麻のワンピースを着ており、荷物を詰め込んだはずの背嚢はぺったんこです。雨はすでに止んでいて、雲の合間から天使の梯子と呼ばれる光が差し込んでいます。奴隷商のみんなが急いで作った花の冠を祝福の言葉と一緒に二人の頭にのせます。


「「ありがとう。みなさん、お世話になりました」」


 ペコリと頭を下げ特に親しかった子たちと最後の別れを惜しんでいます。


「セパヌイール」

「イヴォーン」


 セパヌイールさんとイヴォーンさんが抱き合います。身長差からお母さんと娘のようです。


「セパヌイール、まだ日はあるわ。諦めないで頑張ってね」

「うん、ありがとうイヴォーン。頑張るね」


 最後に強く抱きしめて離れます。そして二人は振り返らず正門で待つロズリーヌさんとクラウスさん、そしてジーリオ様の元に向かいます。

 わたしは無意識に二人の元に駆けより背後から二人を抱きしめました。


「ベアトリスさん?」

「お二人にこれから先も【祝福】がありますように」


 わたしの言葉で【祝福】スキルが発動し二人を淡い光が包み込みます。


「「ありがとうございます。お世話になりました」」


 そしてジーリオ様とも最後の挨拶をし、ロズリーヌさんとクラウスさんと一緒に奴隷商を出ていきました。

 サクラ、イヴォーンさん、どうか幸せになってください。



 後日ジーリオ様からロズリーヌさんのことを教えていただきました。ロズリーヌさんは以前、東のネルケ諸島連合国の10人いる評議員の一人だったらしく、次期評議長という噂もあったほどの人だそうです。なぜか今は評議員を辞職されて冒険者をされているようですが。


 二人がいなくなった奴隷商は少しの寂しさと少しの謎を残していきました。


「ジーリオ様がおっしゃっていた()()()()()()()とは一体何なのでしょうか?」

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