15話:ジーリオ様とロズリーヌ
「不器用の恩恵のせいで、一日1回しか命中しません・・・」
ロズリーヌさんは小さく「そうなのね・・・」と呟きました。
これで4人の紹介が終わりました。これからが商談です。
「大まかな紹介は以上となりますが何か質問はおありですか?」
ジーリオ様がわたしをチラッと見てからお二人に話しかけます。話を聞くのに集中しすぎてお茶をお出しするのを忘れていました。
お二人の前にティーカップを置くとロズリーヌさんが笑顔で「ありがとう」っとおっしゃいます。クラウスさんはさっそく口にしていますが。
「必中の子はおしいが今は回復ができる子がほしい。黒髪の子のどちらかじゃないか?」
クラウスさんはソフィアかサクラですか。ロズリーヌさんは?
「質問いいかしら?」
「どうぞ」
ロズリーヌさんの問いにジーリオ様が手を差し出しておっしゃいます。
「この中に魔物を倒した経験のある子はいるかしら?」
いるわけがありません。みんな奴隷商に来てからはスキル鍛錬と勉強の日々です。その前は生きることに必死で魔物退治なんて・・・
それなのにジーリオ様が中々お返事をいたしません。どうしたのでしょうか?
「奴隷商に来る前はわたしの関知するところではありませんが、うちに来てからは経験のある子はいません」
それを聞いてロズリーヌさんとクラウスさんまで不審な顔つきになりました。
「どういうことですか?それではこの子たちは一体どうやって恩恵を?」
クラウスさんが身を乗り出してジーリオ様に尋ねます。
「教会は浄化の助けになった者、つまり魔物を多く倒した者が恩恵を授かると説いています。俺たち冒険者はそんなことは信じていませんが、実際魔物も倒さずに恩恵を得た者なんて聞いたことがありません」
え?え?どういうことでしょう?勉強すれば恩恵、スキルを得ることができるのではないですか?
「そうね。わたしも聞いたことがないわ。長年冒険者をやっているけどわたしが持っている恩恵はたった3つ。攻撃の恩恵3つだけだわ。それなのに魔物もたおさずに回復2まで持っている子がいるなんて」
お二人がジーリオ様を見つめます。しかしジーリオ様は何か考えこんでいるのか、じっと動かず口を開きません。
「まさか、回復の恩恵を持っているなんて嘘・・・「クラウスッ!!」」
疑問を口にするクラウスさんに対してロズリーヌさんが怒声を発しました。腹の底から響くような声にわたしの足が震えて立っていられなくなりました。
「あっ!ご、ごめんなさい!みんなに怒ったわけじゃないのよ。ごめんなさいね」
ロズリーヌさんが慌てて謝罪をされましたが、「みんなに」と言ったので横を見ると4人共座り込んでいました。膝ががくがくと震えています。ソフィアのスカートが湿って色が変わっているのは内緒です。
「ジーリオ様にも失礼なことを申し上げました。申し訳ありません。どうか謝罪を受け入れてください」
見ていた4人から視線を戻すと。頭を深く下げ謝罪するロズリーヌさんと、ロズリーヌさんの太い腕で頭を押さえられ、地面に顔を押し付けられ土下座しているクラウスさんの姿がありました」
「す、すびばせん・・・」
鼻が潰れてしゃべりにくそうです。
「いえ、謝罪には及びません。疑問に思うのはもっともですし答えなかったわたしが悪いのです。どうか顔を上げてください」
「ありがとうございます」
ジーリオ様の言葉にロズリーヌさんの太い腕がクラウスさんの頭から離れていきます。頭を上げたクラウスさんの鼻から一筋の血が垂れていました。
「疑問にはお答えいたしましょう。ただし、門外不出の秘術に関することでもありますのですべてをお話しすることはできません。そこはご了承ください」
お二人が頷きます。
「お話しする前にまずは疑問にもたれた回復2をお見せしましょう。かなりの重傷を負われているようですし」
「あら?ばれてましたのね。少し大きな声を出し過ぎましたわ」
ロズリーヌさんが何気なくわき腹のあたりに置いていた手をどけると、服が血で真っ赤に染まっていました。
「ソフィア。お客様に回復をしてさしあげて」
「は!はいっ!・・・」
座り込んでいたソフィアが慌てて立ち上がります。スカートだけではなく絨毯の色も変わっていましたが、誰も指摘はしません。
「し、失礼いたします・・・」
「おねがいね」
ソフィアがロズリーヌさんの前まで進み、わき腹近くに手をかざすとロズリーヌさんが服をまくり上げました。わき腹は何かに齧り取られたのか大きくえぐれて、傷なんてものじゃありません!重症です!
「か、【回復2】!」
ソフィアの手から緑色の光が溢れえぐれた部分を包み込むと、見る見るうちに内側から肉が盛り上がり傷を埋めていきました。10秒も経つ頃には傷一つないわき腹の出来上がりです。
「すごいわね!間違いなく回復2はあるわ!」
「恩恵の有無については納得していただけましたか?」
ジーリオ様が微笑んで問いかけます。
「ええ、すばらしい恩恵だわ。ありがとうねソフィアさん」
「あ、ありがとうございます」
ソフィアがペコリと頭を下げて元の位置に戻ります。いつのまにか立ち上がっていた3人を見てわたしも慌てて立ち上がります。
「さて、残りの疑問に関してですが・・・」
ジーリオ様が説明を始めようとすると、ロズリーヌさんが手の平をジーリオ様に向けて「いいえ、説明の必要はないわ」とおっしゃいました。
「わたしたちはジーリオ様の秘密を暴きに来たのではなく、奴隷を購入しにきただけなのですから。能力を持っていれば何も問題はないわ」
「そうですか、わかりました。それでは商談に入りましょうか」
ようやく商談に入ります。今までにないゴタゴタがあったせいですでに疲れてしまいました。お茶も冷めてしまったので煎れ直さないとですね。
「もうソフィアちゃんしかないだろう!俺の全財産、金貨70枚だすぜ!」
クラウスさんが立ち上がり、テーブルの上に「ドンッ!」と金貨の入ってるらしき袋を置きました。そうですか、70枚ですか。
「申し訳ありません。説明が不足しておりました。我が奴隷商では恩恵一つに付き最低金貨100枚となっております。回復は貴重な恩恵ですし回復2となると保有している者も少なく、金貨200枚は下りません」
固まっていたクラウスさんは静かにソファーに座ってテーブルに突っ伏しました。出直して来てくださいね。
「わたしも出すわ。全財産金貨150枚よ」
クラウスさんの金貨袋の倍の大きさの袋をテーブルの上に置きました。
「合わせて金貨220枚よ。これで・・・」
ソフィアが売れることが決定しそうです。220枚で足りますか?ジーリオ様?
「これで、サクラさんとイヴォーンさんがほしいわ」
「「え!?」」
【子爵令嬢付与魔術士】一人じゃ何もできないけど、仲間のドーピングは得意です♪もよろしくお願いします。 https://ncode.syosetu.com/n8947hu/