14話:コランティーヌとソフィアとサクラと
「ベアトリスさんね。わたしはロズリーヌよ。よろしくね」
巨人さんが片手で帽子を取りニコリと笑います。身体に似合わず優しそうな笑顔ですが・・・男性ですよね?・・・ひょいっと腕を掴まれ軽々と引き上げられました。
一応お客様はクラウス・・・さんですが、付き添いがダメと言うわけでもないので、雨具は玄関でお預かりしお二人を応接室に案内しました。
クラウスさんと初めて会った時「今日は「迷宮」で仲間が負傷して気分が良くないんだ」と言っていましたが、負傷したというのはこの巨人の方でしょうか?簡素な半袖の服で特に怪我は見当たりませんけど?
「しばらくこちらでお待ちください。商会長様をお呼びして参ります」
「お願いするわね」
ペコリと頭を下げ一旦部屋を退出します。今までにないお客様でわたしはパニック寸前です。ジーリオ様になんて言えばいいのでしょう・・・
「そうですか。中々面白いお客様のようですね。ベアトリス、お茶の用意をお願いします」
ジーリオ様が笑っています。滅多にないことなので少しラッキーですね。祝福スキルに感謝を!
ジーリオ様と応接室の前まで一緒に向かい扉を開けます。
「商会長様がいらっしゃいました」
「ようこそ奴隷商「フィオーレ」に。商会長のジーリオと申します」
ジーリオ様がお二人に挨拶をして席に着きました。わたしは部屋の隅でお茶の準備をします。
「ずうずうしくも足を運ばせていただきましたジーリオさん」
「いえいえ、先日はうちのベアトリスがお世話になりました。ありがとうございます。それで、そちらの方は?」
クラウスさんはジーリオ様の前だと口調が丁寧になりますね。わたしにはぞんざいな扱いなのに。
「はじめまして商会長様。わたしはロズリーヌ。クラウスの冒険者仲間よ」
ロズリーヌさんは立ち上がって胸に手を当てて挨拶をします。頭が天井のランプに当たってしまいそうです。
「ご丁寧な挨拶痛み入ります。それで本日はどのような子をお求めで?」
ゴクッ
いつも緊張する瞬間です。誰が売られて行くことになるのか・・・
「俺は交渉下手でしてね、ロズリーヌ頼むよ」
そう言ってクラウスさんは会話の主導権をロズリーヌさんに譲ります。
「いいわよ。ジーリオ様、とお呼びしていいかしら?」
「ご自由に」
「ありがと。ジーリオ様、わたしたちは冒険者をやってるわ。クラウスが前衛でわたしが後衛の攻撃恩恵職なの。今回わたしが怪我しちゃってね、回復のできる子か、中衛を任せられる子がいないかしらって思ってるの」
巨人さんは絶対前衛だと思っていたら魔法使いさんでした。素手で魔物を倒せそうですけど。
「なるほど、冒険者の仲間をお探しですか・・・」
ジーリオ様が顎に指を当て考え込んでいます。
「ベアトリス、コランティーヌとソフィア、あとサクラとイヴォーンを呼んでください」
「かしこまりました」
回復持ち3人に弓士のイヴォーンですか。誰が選ばれるのでしょうか・・・
4人にお披露目用の揃いの衣装に着替えさせ応接室に向かいます。簡素なドレスで露出は控えめです。愛玩用ではないので。4人にはお客様は冒険者の仲間を欲しがっていると伝えました。みんな緊張しているようですが、イヴォーンだけ青い顔をしています。まだ器用スキルを取れていませんからね・・・
応接室に着き扉をノックします。
コンコン
「ベアトリスです。4人をお連れしました」
「はいりなさい」
ジーリオ様の返事が聞こえたので扉を開きます。わたしが最初に入り4人が続きます。
「まあ、かわいい子たちね」
「「「「ひっ!」」」」
みんなの押し殺した悲鳴が聞こえます。これは仕方ないですよ!ジーリオ様、怒らないで上げてください!
「わたしは気にしてないわよ。この見た目ですもんね」
ロズリーヌさんは慣れているようでにこやかに対応してくださいます。
「ロズリーヌさんのご要望に応えられそうなのはうちではこの4人だけですね。女の子ばかりなので戦闘向きな子は少ないのですよ」
「無理を言ってごめんなさいね」
ロズリーヌさんはジーリオ様に軽く頭を下げ4人を順番に見ていきます。
「お嬢さん方初めまして。わたしはロズリーヌと言います。とりあえず自己紹介をしていただけるかしら?」
みんながチラッとジーリオ様を見ます。
「コランティーヌから順番にお願いします」
ジーリオ様は頷きながらコランティーヌに声をかけます。コランティーヌは元気な子で、赤毛の髪をポニーテールにまとめています。
「はい!わたしの名前はコランティーヌです!11歳で風と治癒スキル・・・恩恵が得意です!」
「治癒?」
ロズリーヌさんが首を傾げます。レアなスキルなのでご存じないようです。
「【治癒】の恩恵は珍しいですからね。ご存じないのも無理はありません。【回復】と違い魔力ではなく体力を消費して傷を癒します。ただし【回復】より効果は劣ります」
「へ~そんな恩恵があるのね。魔力で風、体力で治癒ってわけね。魔力切れでも治せるのはいいわね」
ロザリーヌさんが感心したように大きく頷きます。続いてソフィアです。
「ソフィアです。11歳です。回復2の恩恵を持ってます」
大人しい子で声もそれなりです。漆黒の髪のロングでお人形さんのようです。ロズリーヌさんはニコニコしながら「回復2なんていいわね~よろしくね」と声をかけます。
そしてサクラが一歩前に出ます。サクラも黒髪のロングですが、二人が並ぶと少し緑がかっているのに気が付きました。
「サクラと言います。12歳で回復の恩恵を持ってます」
「あら?連合国の子かしら?あちらでよく耳にする名前ね」
お名前に地域差があるのでしょうか?わたしにはよくわかりません。
「ロズリーヌさんは連合国の方でしょうか?サクラの出身は不明なのですが」
ジーリオ様も知らないようでロズリーヌさんに尋ねています。
「ええ、わたしは連合国のジャポネって言う小国の出身でね。本名はサカキバラなの。ただ、こちらでは発音しにくいからロズリーヌって名乗っているわ。サクラはジャポネではよく聞く名前ね。こちらの言葉で言えば「スリズィエ」かしらね?」
スリズィエ、あのピンク色の綺麗な花の名前なのですね。初めて知りました。
「ジャポネ・・・」
サクラが小さく呟きます。思わぬところで出身が判明しましたね。そして最後にイヴォーンさんです。
「イヴォーンです。14歳で弓士です。必中の恩恵と・・・不器用の恩恵を持っています」
「必中だって!?」
今まで黙っていたクラウスさんが驚きの声をあげます。
「必中って弓士の最高恩恵よね・・・でも不器用って?」
ロズリーヌさんも驚いているようですが、不器用に気づきました。
「はい。不器用の恩恵のせいで、一日1回しか命中しません・・・」
イヴォーンさんが俯いて涙目で呟きました。
【子爵令嬢付与魔術士】一人じゃ何もできないけど、仲間のドーピングは得意です♪もよろしくお願いします。 https://ncode.syosetu.com/n8947hu/




