13話:ロズリーヌ
「ベアトリス、今日はここまでにしようか」
「はい、ジーリオ様」
奴隷商のみんなが夕食の片付けをして、就寝前の自由鍛錬をしている時間に、わたしは執務室でジーリオ様のお手伝いをします。
わたしにできることなんて些細な事だけですけど・・・
わたしの特技は3迷宮語である「帝国語」、「連合国共通語」、「フリージア王国語」の3ヵ国語が話せる事です。ですが、それだけなのです。事務のスキルもなければ計算、算術などもありません。奴隷商ではあまりお役に立てていません。祝福と円満って言うスキルもありますがあまり役に立っている気がしません。
「ウジェニーの熱は下がったようだね」
2日前にうちに来たウジェニーは流行性感冒に感染していましたが、今日のお昼には熱も下がりご飯を食べられるようになりました。奴隷商に運び込んだ時は意識もなかったのですが、【看護】のスキルを持つオフェリーの献身的な介護の甲斐もあってようやく回復しました。
「はい、夕食もしっかり食べていましたのでもう心配はないと思います」
「それは良かった」
話しながらも書類の片付けが終わり、ジーリオ様と一緒に執務室を出ます。廊下を歩きながら明日の予定を確認していると。
「そういえば、彼が来るのも明日だったか」
明日の予定で彼と言えば、2日前の夜中にわたしを助けてくれたクラルスさんのことですね。
「すみません、紹介状代わりにされてしまいました」
ジーリオ様に頭を下げて改めて謝罪します。クラルスさんはお礼はいらないから代わりに「奴隷商の来店許可」をジーリオ様に求めました。
我が奴隷商は他の奴隷商とは違い、女性をただの愛玩用として売ることはありません。最低限の読み書きを教えて、それぞれの個性に合ったスキルを習得させ、どの分野でも誰かしら活躍できる子を教育しています。
今までに売られて行った子たちは最低でも金貨100枚。中には300枚を超える値段がついた子もいます。
じ、自慢ではありませんが、わたしだって女伯爵ナターレ様から金貨500枚で請われたこともあるのです。一般的な労働者の2年分の報酬です。
「謝ることはない。ベアトリスが無事なら彼を客として迎えるくらいなんでもないよ」
優しいジーリオ様はそうおっしゃってくださいますが、紹介状のない一般のお客様は初めてです。
「どのような子をお求めなのでしょうか?」
「さてね。うちのことは知ってる口ぶりだったから、愛玩用を求めることはないだろうけどね」
そう言って話を締めくくり「おやすみ」と言って自室に戻られました。
「おやすみなさいませ、ジーリオ様」
わたしは自室に戻ってすぐメイド服を脱いで寝巻に着替えます。櫛で髪を解きほぐしていると、お屋敷の魔道具によって就寝の鐘が鳴りました。遠くの部屋から聞こえて来ていた女の子たちのおしゃべりの声も次第に小さくなり、みんな眠りにつきます。
「明日もいい日でありますように。おやすみなさい」
わたしはベットに潜り込みいつもの言葉を呟いて目を閉じました。
翌日はあいにくの雨でした。午前中に畑の収穫を終わらせてしまう予定でしたが仕方ないですね。雨の日はいつも室内でスキル訓練を行います。
10年ほど前フリージア王国の偉い方がスキルの習得法則を発見なさいました。スキルを習得してから次の習得までの間に、一番修練したものが優先的に取得できるというものです。例えば剣術のスキルを得てから、その後ずっと槍の修練を行うと槍術のスキルを得るというものです。ただしあくまで優先的に取得するだけで、その人に槍の才能がなかった場合、近い他のスキルになることもあります。
当たり前のようにも聞こえますが、一生で得ることができるスキルの数はそれほど多くはなく、検証することが難しいのです。
一般的には広まっていない情報ですがジーリオ様はどこかからか情報を得て、雨の日には集中的に一つのことを鍛えるようにおっしゃいました。
実はわたしもこの方法で言語習得に挑み3言語を習得してたりします。他にも料理を作りまくり【料理3】にまで上げて、お貴族様のお屋敷の料理人になった子もいます。
「マルグリット、一緒に図書室にいきません?」
「いいですね。すぐにいきますので先に行っててくださいフローレンス」
フローレンスが読み書きの生徒であるマルグリットを誘って図書室に行きます。何かスキルを得るといいですね。
「わたしはどうしようかな・・・素振りがしたいんだけど」
ベルナデットが両手をわきわきさせて剣を握る素振りをしています。
「室内はあぶないからダメですよ。わたしだって弓が撃ちたいのに」
イヴォーンも弦を引く動作をしています。二人ともやりたいことが一貫していますね。それなら。
「お二人とも室内でできる鍛錬でもすればいいんじゃないですか?例えば腕立て伏せとか?」
「「それだ!」です!」
二人とも連れだって廊下に飛び出して行きました。どこでするのでしょうね?
「わたしは、どうしましょう」
奴隷商で最年長のセパヌイールさんは現在15歳と3か月。16歳になる前に売りに出すとジーリオ様に言われています。
まだうちに来て日が浅いですが何をしたらいいか迷っているようです。
「セパヌイールさん、迷っているなら一緒に料理をしませんか?料理スキルなら取っておいて損はないですよ?」
「そうです・・・ね。よろしくお願いします」
頭を下げてもわたしより背の高いセパヌイールさん。時間さえあれば色んなことに挑戦できるのですが、何が向いているのかを見極める時間がありません。9か月以内にスキルを得ようと思ったら家事しか手がありません。一番重宝されるのは料理でしょうね。
セパヌイールさんと練習がてら色々作っていたら昼食の準備をすると言うので、出来たものを試食としておかずに加えてもらうことにしました。
まだ練習中ということもあり反応は微妙ではありましたが・・・
そして昼食後、みなさんが午前の続きで修練をしているとジーリオ様の執務室のベルが鳴りました。
「来たようだね。ベアトリスお出迎えを」
「かしこまりました」
クラウスさんを迎えに玄関に向かいます。一応お客様なので服装に乱れがないかチェックし扉を開きます。雨なので薄暗いですがそれ以上に暗い巨大な壁がそびえたっていました。真っ黒な外套を羽織った2mを越える巨人です!同じく真っ黒なつばの広い帽子を被り顔が影になっていてよく見えません。
わたしはあまりの驚きで腰が抜けてその場にへたり込みました。だ、誰ですか!?
「あらぁ~ごめんなさい。おどろかせてしまったわね」
野太い声でそう言って巨大な腕が差し出されます。これは腕なのでしょうか!?わたしの足より太くないですか!?すると壁の後ろからひょこっと先日見た顔が現れます。
「あ~わりぃわりぃ。驚かせようと思ったんだけど、予想以上だったな!」
驚かす気でやったんですね、クラウスさん!!わたしのこめかみに血管が浮き上がります。
「もう!だからやめようって言ったのに」
プンプン怒っている野太い声が続いてわたしの名前を呼びました。
「ベアトリスさんね。わたしはロズリーヌよ。よろしくね」
【子爵令嬢付与魔術士】一人じゃ何もできないけど、仲間のドーピングは得意です♪もよろしくお願いします。 https://ncode.syosetu.com/n8947hu/




