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1話:ペネロペ

ナターレ興亡記シリーズの外伝です。

こちらは不定期更新になりますが、できるだけ週1くらいで更新できるように頑張ります。

 とある国のとある町に一つの奴隷商があるという。


 通常の奴隷商であれば、一番人気は若い女性で、次が屈強な男だ。


 奴隷を購入しようとするのはほぼ貴族で、愛玩用か護衛用かが主な理由だからだ。


 ごくわずかにいる平民の購入者は豪商関係で、こちらも愛玩用か鉱山などの使い捨て鉱夫として購入される。


 ところがその奴隷商で売られる奴隷は少女のみで、そういう趣味の人間もいるが、ほとんどの購入者はその能力に魅力を感じているという。


 その奴隷商の名は「フィオーレ」という。





「【鑑定(バリュータジオーネ)1】・・・よくやったな。スキルが手に入っている」

「本当ですか!?ありがとうございます!」


 やった、やったよ!これでフリージア王国語スキルも手に入りました!

 これまでに帝国語、連合国共通語を覚えてますので、フリージア王国語も覚えれば、この大陸の「迷宮」所在国のすべての言葉を話すことができます。


「ゼア・マイス王国の豪商が「迷宮」3ヵ国語が話せる者が欲しいそうだ。話を聞いてみるかね?」

「え?・・・でも、わたしは・・・」


 わたしは、本当は・・・



 この世界には「迷宮」という魔物が蔓延る場所があります。魔物を倒すと強さに応じて様々なアイテムが手に入るそうです。最も多く産出するのが魔石です。

 魔石はエネルギーの塊のようなもので、様々な魔道具の燃料になったり、人の魔力を回復させたりできます。

 夜になると街灯の燃料となり、料理を作るときのコンロの燃料になり、町の広場の噴水にも利用されています。

 小さな魔石だと一個で一日分の燃料となり、銅貨1枚程度。大きな魔石だと銀貨を飛び越し金貨で売られるものもあるとか。

 魔石を利用する魔道具にしても、そのほとんどが迷宮から産出されるもので、どれも金貨を越えるお値段だそうです。


 そんな「迷宮」があるのが北のヴィユノーク帝国、東のネルケ諸島連合国、そして南西の半島の国、フリージア王国です。

 わたしはその3ヵ国の言葉を優先的に覚えました。どこの国でも「迷宮」の富を欲しがり、取引に必要な言語を話せる人材を必要としています。

 わたしはここでわたしの価値を高め「女」ではなく知識を持つ「人」として買って下さる方を探しています。


 わたしは物心つく前に親に売られた奴隷なので。





「ほぉ、帝国語を話せる者は何人かいるが、連合国共通語やフリージア王国語を話せる者は少ないと言うのに」

「そうですね。うちの子たちは全員帝国語はできます。こちらの3人は連合国共通語も話せますし、そしてこの子は」


 ポンっと肩をたたかれてビクッとしました。


「フリージア王国語もできます」

「なんと!3ヵ国語もできるのか」


 数日後、ゼア・マイス王国の豪商の方がみえられました。わたしを含め6人の奴隷が応接室のソファーの前に並びます。

 みんなは目を輝かせ買ってほしそうにしています。でも、わたしは・・・


「その子はいくらかね?」


 やはりわたしを指さして聞いてきました。


「そうですね・・・この子は・・・申し訳ないですが売れません」


 え!?・・・


「ふぅ・・・またかね・・・」

「すみません。売られる覚悟が決まってない子は売らない主義でして・・・」

「変わった男だな。その子になら金貨300枚払ってもいいのだがね?」


 金貨・・・300枚・・・膝がガクガク震えます。わたしの価値が・・・そんなに・・・


「おすすめはこっちの子ですね。ペネロペ」

「はじめまして。ペネロペです。帝国語、連合国共通語の他に算術、交渉スキルを持っています」


 わたしの隣にいたペネロペが一歩前に出ました。13歳になったばかりのペネロペですが、容姿も整っていますし背も高く15歳の成人みたいに見えます。


「ふむ、交渉を持っているのか。悪くない。250でどうだ?」

「300です」


 奴隷商会長さんはわたしと同額を提示しました。この場面は前にも見たことがあります。売られて行く子のプライドを守る為に決して安売りはしない。


「しかしなぁ、交渉はうちの者でも出来るし」

「交渉が出来る者と通訳をする者が別では齟齬が生じることがあります。言葉がわかると微妙なニュアンスも感じ取れ、交渉も有利に進められるのでは?」

「そうは言っても・・・」

「交渉には容姿も大いに役に立つでしょう」


 ペネロペは愛玩用として求められたこともありましたね・・・すべて断っていましたが・・・


「はっはっは、そういう理由では売らんくせに。いいだろう350払おう」


 さんびゃくごじゅう・・・!?ペネロペも驚いています。


「奴隷期限は10年でいいんだな?」

「はい。うちの子たちは皆10年契約です。その後もお仕えするかどうかは本人次第ですから」

「10年鍛えてライバル商会に行かれてはたまらんからな・・・成人したら養女としよう」


 奴隷としては破格の条件です。10年経ったとしても身元引受人もいない元奴隷では、いい仕事には就けません。ライバル商会で雇ってもらえても情報収集目的なので、話してしまえば放り出されたり、安い賃金でこき使われます。それならば10年後も同じ所で雇ってもらうか、ペネロペのように養女に迎えてもらって結婚するか、です。

「お父さん、お母さんのためにも幸せになるんだ」それが、ペネロペの口癖です。

 詳しくは知りませんがペネロペの両親は盗賊に殺され、奴隷として売られたとか・・・それから8年。ペネロペは様々なスキルを身に着けました。


「あ、ありがとうございます。わたし、がんばりますから!」


 ペネロペは口元を押さえて泣いています。商会長さんが選んだ人ならば悪い人ではないはずです。どうか幸せになってください。




 それから暫くしてペネロペがゼア・マイス王国に旅立ち、わたしがこの奴隷商で最年長になってしまいました。

 わたしは、わたしの望みは・・・


「どうしたのかね?覚えたいスキルでもあるのかな?」


 わたしは商会長さんの執務室を訪ね、お願いしてみることにしました。


「商会長さん、わたしを・・・わたしを買ってください!」

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