表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界おまわりさんの事件簿!  作者: 早川 ゆういち
壊れる今まで
8/46

壊れる今まで ①

当たり前のことを一生懸命にできる人は尊敬します。

 会場への送迎の車が多数に上り、付近の交通事情は概ね予想されたとおりの大混雑となった。


 交通事情は、雇われの警備員に任せ、俺達は会場警備に全力を注ぐ。


「何事も無ければいいですね。」


 管理官が余裕の表情で声をかけてくる。


 いいご身分だ。


 警察の本分を忘れたあんたに本当にそんな気持ちがあるものか。


「ええ、本当に()()()何事も無いことを願っています。」


 まだライブ開始の2時間ほど前だが、物販スペースはすでに開放され、会場は客でごった返している。


 俺は最後にもう一度会場内を見回ることにする。


 ステージには中央部にバカでかいディスプレイ、多くの照明、煙を打ち上げる装置等、多くの設備が設置されている。


 こんな設備を造り上げるのによく1か月で間に合ったものだ。


 タナカ達の頑張りが見て取れるようだった。


 無理してここまでのものを仕上げるなんて、プロだなぁ。


 いつかは俺も警察官のプロを自称できるようになりたいものだ。


 見回りを続けるが、爆発物だとか、そういった危険物は見当たらない。


 ストーカーが言っていた『良くないこと』というのはどういったものなのだろうか?


 ただのいたずらだったのだろうか。


「すいませーん!!」


「うぉう!」


 物騒なことを考えていた最中、後ろから大声をかけられたので飛び跳ねてしまった。


「ごめんなさい、驚かせちゃった。」


 小柄な少女が口元を抑えて謝罪してくる。


 一般的にかなりあざとい仕草のはずだが、この子がやっていると素直に似合っていてそんな感情は不思議と抱かない。


 むしろ庇護欲、というのだろうか、おじさん、いろいろ買ってあげたくなっちゃう。


 危ねえ!思考が犯罪者の方向性になってきてんじゃねえか!!戻ってこい!マエダハジメ!!


 即座にゆがんだ心にビンタを食らわせて更生させた。


「いえ、完全に油断していました。まだここまでは入って来ちゃだめですよ、迷子になっちゃったかな?」


「えっ!失礼だなぁ!これでも今日の主役なんですけど!大学生?なんですけど!」


「まさかKinoさんですか!?申し訳ありません!写真で顔は拝見していたんですけど、メイク後のものしか見ていませんでしたので!」


 目の前の少女はKinoその人であった。


 年齢は19歳と聞いている。


 身長は150cm無いくらいで、ぱっと見、中学生くらいの印象を受ける。


 色素の薄いロングヘアーを2つにくくっておさげにしているのが実年齢より若くに見えるその印象に、よく似合っている。


 今はその下にステージ衣装を着ているのか、今はグレー色の大き目でぶかぶかのパーカーを着ている。


「しょうがないなぁ!お巡りさんは一生懸命見回ってくれてるから許してあげます!」


「本当に申し訳ないです・・」


 何とか許されたようだ。


「でも、なんで1人で見てるんですかー?他の人は?」


「もう会場の見回り自体は終わってるんですけど、落ち着かなくて、私だけチェックすることにしたんです。」


 嘘は言っていない。


 本部のやつらは定時に決まった回数構った場所を確認するだけで「はい終わり。」って感じだ。


 もう大半は事務所で座っているだけ。


 あ、管理官は事務所の人らに媚び売りに行ってたな。


 ああしないと偉くなれねえのかな。


 今まで偉くなろうとか考えたことねぇけど。


 本部のやつらに関しては、自分達に責任がないために手を抜いてるんじゃないか、とまで疑ってしまう。


「ありがとー!私といっしょだ!」


「一緒ですか?」


「本番前で、できる練習とかはもうやってるのに、落ち着かないの。今日初めてのライブだし。それに、いろいろ、あるし。」


 確かにそうだった。


 この子も様々な事情の被害を被ってきているのだ。


「でもお巡りさんに会えてよかったー!不安だったんだけど、安心できた!」


「本当ですか、それはよかったです。」


 そう、人々の安心のために俺達はいる。


 この仕事をしていて、この言葉をもらってうれしくない奴はいない。


「ねぇ、ライブ終わった後、ちょっとお話出来ないかな?」


「えっ。」


 逆ナンだ!

 来た!!

 モテた!!!


 やはり都会は進んでいるのだ。


 こんな若い子が逆ナンしてくるなんて。


 ただ、悲しいことに今は職務中なのだった。


 職務中にこんな浮いた話があるのはやはり、良しとされない。


「いえ、職務中に知り合った方と親密になるのは禁止されていますので・・」


 この時、俺は血の涙を流していたに違いない。


 せっかくのチャンスなのに。


「親密?何言ってるの?ハイこれ。」


 メモを渡される。


「私のID書いてあるから!連絡ないと、泣いちゃうから!」


 そう言って楽屋の方へKinoは立ち去った。

 

一生懸命な彼にご褒美を。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ