ドリルブーストナックル
これは日本特有なのでしょうか?
「何度も申し上げておりますように、
ここには回復魔法を使える者はおりません。」
「別に、それでもいいのだよ。
私は娘が気に入っている。
養子にしたい。
娘を買う。
そう言っているのだ。」
男は、貨幣が詰まっているであろう革袋をカウンターに置き、そう話す。
「何度足を運んでいただこうとも、娘を売るつもりはありません。」
マスターは、それに、と前置きした上で、
「何度も説明したとおり、娘に魔法は使えませんから。」
と説明する。
「エッ!?(◎_◎;)」
素子が思わず反応してしまう。
ごめんなさい。と素子は即座に謝罪する。
慣れたことなのであろう、マスターと店員さんは、苦笑して応える。
魔法使いであれば、99%以上の確率で魔法の使い手として覚醒する。
ムコーの世界では、魔法使いであれば魔法が使えるというのは、常識であった。
それなのに、店員さんは魔法が使えないという。
確率上そういう者も居るのだろう。
というのが、俺の価値観である。
例えば、大人になったって泳げない者がいる。
速く走れない者が居る。
計算が苦手な者がいる。
苦手があって当然ではないか。
そんな環境で育った、俺の価値観。
魔法使いの中では、そうもいかない。
俺が感じたのは、まるでプロのアスリートの世界。
野球選手にあって、飛んで来るボールを打てません。
サッカー選手にあって、走ることが苦手です。
そういった選手が能力に改善が見られなかった場合、取られる措置は、戦力外通告ではなかろうか。
魔法使いにあって魔法が使えない。
それは、魔法使いにとって、種族そのものからの戦力外を意味する。
魔法第一主義の横行するムコーにあって、それは、色濃いものであった。
そんな中、魔法が使えない娘をこの男は、気に入って買い取りたいと言う。
何か理由があるに違いなかった。
きな臭い。
何より、マスター、店員さんが嫌がっているのが一目瞭然だ。
「すいません。お代わりもらえますか?」
空いたカフェオレのカップを掲げてお代わりを注文する。
「はい、ただいま。」
店員さんは、こちらに向き直り、カップを取りに来る。
が、男に手を引かれ、それは叶わない。
「話の途中だ。」
「随分強引だな、アンタ。
俺達も客なんだ、お代わりくらいさせてくれよ。」
「最近、私が下って来なかったことで、立場の違いが分からん者がおるのだな。
オイ!」
男が一声上げたところで、店外から屈強な男達が乗り込む。
「膂力だけではない。
壊す魔法の使い手共よ。
まだ、逆らうか、外民よ。」
「いやー、すいませんでした!
この通り、もう逆らいません!」
俺は両手を上げて、降伏する。
「クズめ、最初から、そうしておれ。
このとおり、買っていくからな。」
男は、満足気に頷き、店員さんを連れて部下共と店外へと引き上げていく。
カウンターには、先ほどの革袋が残されている。
「ちょっと!
なに見送ってんのよ!!
この人でなし!!」
「そーなの!( ゜Д゜)
一発ぶん殴ってやらないとダメ!!
このごく潰し!!」
「あぁ…娘が…
何か策があるのかと思って見ていたら…
ビッグマウスのゴミだった…」
弱腰な俺に非難の雨が降り注ぐ。
…おいマスター、アンタからの特にひどい暴言は忘れないからな。
「皆様、お待ちください。」
テーブルの下から出てくる店員さんにみんな目を丸くする。
「アラ!
そんなことだろうと思ってたのワタシ!」
「なーんだ!(*^^)v
ウチだけはずっと信じてたの!」
「あぁ…なんと!
お客様!貴方は神様です!」
手のひら返しは、地球も異世界も共通の文化であることを知れた。
これは民俗学において、大きな一歩なんじゃないだろうか。
俺は民俗学なんて賢そうなもの、学んだことはないけれど。
世界神ローラの加護によって、今まで見て、触れたモノのスキルをコピーできる俺は、以前出くわしたことのある幻覚を見せるキノコ型モンスターの力を借りてこの場をやり過ごしたのだった。
今は誤魔化せたとして、それは一時的なもの。
あれほどの数の部下を連れて来たのだ、元々強引に連れ去るつもりだったのだろう。
近いうちにまた男は現れる。
早く次の手を考えなくてはならない。
…その前にみんな、やっぱり謝らないか?
高速の掌返し。




