反省と後悔
自分で思う後悔。
初めての命をかけた戦いは、避難していたはずの素子とゼンジロウに助けられ、幕を下ろした。
避難先から戻ってきた魔法使い達が、少しずつ故郷に戻ってくる。
「心配で戻って来ちゃった(*'▽')」
「おかげで助かった…
本当にありがとう。」
格好つけるつもりなら、『どうして戻ってきたんだ!!』なんて言うところなんだろうけれど、もちろん俺にそんな余裕などない。
五体満足で今、ここに存在できていることは、素子とゼンジロウの手助けが無ければ考えられないことだった。
さて、感謝もそこそこに、やらなければならないことがある。
多吉郎は、いまだに全身を襲う痛みのために動けない。
その多吉郎に、大勢の山ノ中家の人間が杖を突きつける。
「今までよくもコケにしてくれたな!」
「何倍か、報いを受けさせてやるからなぁ!」
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
やがて、魔法使い達の構えた杖先から、見覚えのある閃光が放たれた。
熱、冷気、突風、不快な液体、束縛する網。
しかし、それらが多吉郎を害することはない。
すべて、それぞれの使い手の頭上から降り注ぐ。
俺のポータルを通じて。
「グエッ!
お前!何のつもりだ!?」
その問いかけには無視で応える。
こっちのセリフなんだよ。
何のための復讐なんだよ。それはさ。
素子のため?山ノ中家のため?
きっと違う。
その実、お前らの必死な責任転嫁さ。
アンタらも部外者の俺から見れば立派な戦犯。
アンタらに多吉郎さんを裁く権利などないんだ。
「多吉郎さん、立てないならそのまま聞いてくれ。
アンタのせいで、いろんなものが壊れてる。
修理することを約束してくれ。」
「はい…わかってます。」
「それと、素子ちゃんのことは、諦めてくれ。」
「それも、分かってます。」
先ほどまでの威圧感はどこへやら。
多吉郎さんは素直な態度を見せる。
「魔法使いにおいて、魔法比べは絶対だから。
僕は、あなたに従う義務がある。」
素子のお父さんが言っていた、魔法使いの悪いところがいい方へ作用しているようだ。
良くも悪くも、始祖の掟に敬虐な魔法使い。
それが大海原多吉郎という人間なのかもしれない。
多吉郎は、素子のお父さんに魔力で念書を書いて誓う。
損害は全て補填する。
素子には一切かかわらない。
魔力念書による契約は、約束を違えると、一切の魔力を失うという仕組みを持たせた道具が用いられる。
その道具は、『エンチャント』という魔法を使う魔法使いによって作成されるらしい。
エンチャント自体は、素子が俺に渡した猿轡と似たような仕組みらしいが、その威力は全くの別物のようだ。
あの多吉郎の魔力を縛れるなんて作ったやつ何者なの?
やがて、魔法使いの集落を統括している国の役人達が現れた。
大規模な土地、建物の破壊は、流石に看過できるものではなかったらしく、多吉郎の身柄は国にて、預かられることとなった。
役人達が多吉郎を抱えて馬車に連れ込もうとした時、多吉郎はささやかな抵抗を見せた。
肩を貸す役人の腕を振りほどき、1人歩いて、俺の元へと近づく。
「僕は、今まで、色んな人に、酷いことをしてきてたんだね。
負けて、怒られて、初めて分かった。
今、とても反省しているよ。」
「…反省ってのはさ、直ぐにできないんだ。
今、多吉郎さんが俺達に持ってくれてる感情は、後悔なんだ。
反省っていうのは、後の行動で見せる以外、
自分自身でさえも確かめられないものなんだ。」
尊敬できる上司からの受け売りだが、今では立派な俺の胸に刻まれたセリフを吐く。
俺自身、たくさんの反省を身で示さなければならない。
「…そうかもしれない、
でも、君には、ごめんなさいと、
ありがとうを今言わなきゃいけないと思ったんだ。」
「いいよ、また会った時にゆっくり話そう。」
「また、会ってくれるんだ。」
多吉郎は静かに涙を流す。
涙を流しながら、周囲に目をやる。
「こんなに壊した。
できるからって、こんなに。」
遠くで様子を眺める山ノ中家の面々に頭を下げる。
「ごめんなさい。
信じてもらえないと思うけれど、
もう、悪いことはしません。」
多吉郎が頭を上げると同時に、荒野と化した大地が急速に元の姿へと形を取り戻す。
瓦礫が家に、砂が岩に、水たまりが川に。
めちゃくちゃになっていた俺の警棒も鉄くずから元に戻る。
良かった、これで俺も怒られなくて済む。
先ほどまで見せた暴力的な破壊と同様に、多吉郎の構築の腕前は徹底されていた。
破壊された家屋、俺が身を隠していた岩場に至るまで、破壊されたその全て修復されていく。
多吉郎を連行しに来た役人も腰を抜かしている。
この分なら、案外早く出てこれるんじゃないかな?
もちろん反省はしてもらわなければならないが。
魔法というのは、恐ろしい。
作るより、壊す方が簡単なのが世の常である。
魔法を用いれば、どちらも同じ難易度で可能となる。
故に魔法なのか。
タネも仕掛けも関係ないのかもしれない。
人が感じる反省。




