タネも仕掛けも
ないから魔法。
どんな原理でそうなっているのか。
視界に映るものがかたっぱしからその形を失う。
あるものは崩され、あるものは捻られ、あるものは破裂する。
いつ自分がそうなるのか、物質が次々に崩壊する事実が恐怖を自覚させる。
壊される前に止めることが出来なければ、まさに死ぬだけ。
多吉郎の周辺を漂う、破壊された物の破片を拡大して押しつぶしてやろうと試みたが、即座に破壊されて阻止される。
「拡大縮小、知ってる。
珍しい、1億人に1人くらいの魔法。」
今まで見たモンスターのどれよりも強い。
風操作の疾風で間合いを取って考える。
「まずいな…」
まだ攻撃を仕掛けられていないが、攻撃されてはひとたまりもない。
そもそも、どういう原理で破壊が行われているか不明な以上、回避の目途もたたず、食らってしまえば戦闘不能は免れないだろうことは予想ができた。
爆発音が近づいて来る。
もう来たか…!
「風も使うのか!
すごい!
まるで絵本の英雄だ!?
僕は種類は増やせなかったから!」
多吉郎は相変わらず余裕だ。
こちらから姿を見せ、拾った鉄材を伸ばして正面から殴り掛かる。
それを意に介さず、多吉郎は後方に衝撃波を放つ。
後方から捕縛しようとしていた俺は瞬く間に吹き飛ばされてしまう。
正面から殴り掛かる幻を見せたつもりだったが、多吉朗には全く通じなかった。
「いったぁ…!」
これは無理なのでは?
物陰に身を隠して思考する。
一度逃げて作戦を練るべきか、いや、この場を離れれば魔法使いの集落全てがどうなるかわかったもんじゃない。
と言っても、全く打開策は思いつかない。
「すごいなぁ!
幻覚だ!とても良い出来だった!
まだあるのかな、是非知りたいな。」
畜生、なんだよコイツ。
幻しっかり見えてんじゃねえかよ。
何か、騙されないタネがある。
さっきの拡大もそうだ。
拡大する前に見切られて反撃の準備をされていた。
幻は見えていた、見えていてもそれが本体ではないと見破られるタネがある。
そう言えば、幻と分かっていて俺を吹っ飛ばした今さっき、なぜ一思いに殺さなかったのか?
法も世間体も何もかも関係ないコイツが躊躇する必要はない。
あの瞬間、俺を殺せなかった理由がある。
そういえば、最初から。
俺と対峙したとき、周りの景色は壊れていくのに、俺自身も、俺の服やら持ち物も何も壊されていない。
このタネが分かれば、こちらが攻める手段も見えてきそうだが…
「かくれんぼ、僕、やったことなかったんだ。
けど、大人になってからやるとさ、つまらないんだね。
子供のころならともかくさ、今ならすぐに場所がわかるもの。」
身を隠していた岩場が粉々にされ、俺は再び衝撃波で彼方へと転がされる。
ポータルをくぐって多吉郎の後ろに移動する。
すると、多吉郎は、即座に俺の方に向き直り、感心したように語りかける。
「ポータルまで使うんだ!?
本当にすごいしか言葉が見つからないよ。
何種類の魔法が使えるの?
それに、一般的に価値が高いとされる魔法もたくさんだね。」
「…どうも、褒めてもらえて嬉しいよ。」
「そんなに不機嫌な顔をしないで?
僕が、何か気に障ることを言っちゃったんだね?
僕、そういうの分からなくて。」
目の前の男は、本当に動揺しているかの様なそぶりを、殺そうとしている俺に見せる。
気味が悪い。
絶大な力と、場に合わない対照的なこの言動に俺が抱いた正直な感想だった。
きっと、この男は今まで万人にこの印象を抱かれてきた。
決して、決して全てがこの男の責任ではない。
彼が育てられた環境、彼が出会った人間、そして彼が出会えなかった人間。
きっと色んな理由がこの男を作り上げた。
だけど、身に起こる全てを他人の業と思考する性根は、弁護する気にならない。
確かにそうさ。
きっと世の中には、他人の仕業っていう不幸は存在する。
心当たりも少なくない。
個人的には、その復讐には賛成さ。
本当に悪い奴がいるのなら、そいつは、なんかしらの報いを受けるべきなんだと思うんだ。
けれど、出来るからって、違うもんまで他人の業にしてちゃ、被害者が加害者にまわるだけ。
若輩者が、人生の先輩に抗弁垂れる筋合いは無いのだろうが、あんたには伝えたいことがいくつもある。
…できれば、更生してください。
既にタネは割れた。
あっても魔法。




