人間性と共に
人らしく生きること。
それを目標に生きていた時期もありました。
山ノ内から封書が届いた。
そう、こうでなくては。
奴らに与えた期間は1週間。
今日でまだ3日。
奴隷共、立場ってものが分かって来たみたいじゃないか。
もっとも、娘を逃がした時点で許す気などないが。
僕の婚約が決まってから逃げ出すなんて。
傷つくじゃないか。
僕を傷つけた奴らを、許す訳にはいかないから。
さぁ、読んでみるとしよう。
そして明日には式を挙げようか。
―
素子が、無事見つかりました。
素子にはケガもなく、健康にも問題ありません。
大海原様には、誠に申し訳ありませんでした。
そして、素子に新たに婚約の申し込みがありました。
山ノ内としては、相手方様からの縁談をお受けする手筈を整えております。
大海原様には、さらなるご多幸をお祈りいたします。
―
…え?
縁談の拒否って、こんな就職活動失敗みたいな幕引きでいいの?
お父さんがしたためたあの煽りに富んだ封書は、誰かが届けに行くとどんな目に遭わされるかわからないため、転送の魔法使いに依頼した。
転送を依頼すると、瞬く間に目的地に物を送ってくれるらしい。
ホント色々あるのな、魔法。
コチラの現代社会より所々便利なところがありそうだ。
感心しながらカップに注がれたグレー色の何かを啜る。
…うん、癖があるけどイケるな、このグレー。
「ね、素子、このグレーの正体何?」
「えぇっと…教えた方がいいの?(;'∀')」
…やめてくれよ、現地人も躊躇するような変なモンなのか?
確かに素子は一口も口をつけていない。
「豚のウ〇チを魔法で清めたものって言ったら、どうする?(;一_一)」
「ぶふぉおえええええええ!!」
既に4,5杯お代わりしていた女神が噴き出す。
「さ、流石に冗談だよな?」
「うん、ごめんね( *´艸`)
本当は、ただのコーヒーなの。
魔法使いが育てると、こういう色になるんだって。」
「へー、味も何もかも違うけど、こんなに差が出るんだな。」
「チョット、素子ちゃん、謝る対象が違うんじゃないかしら?」
ローラには申し訳ないが、非常に和やかな時間が流れている。
やはり、山ノ中家の中で、素子が悪い扱いなどはされていなかったようだ。
お父さんも、お母さんも素子を可愛がっていることが伝わってくる。
このまますんなり終わってくれれば全く問題ないが、そうもいかないだろう。
大海原は引き下がるような男ではないようだ。
今のところは、返事を待つしかないか。
この魔法使いが暮らす集落は、時折強い風が吹く。
そういえば、こっちに来た時涼しかったな。
扉や、窓が時折ガタガタ音を立てて揺れる。
そもそもの建付けの悪さというのも原因にあるだろうが、今はテーブルに置かれたグレーのやつまで揺れている。
相当強い風だ。
「母さん、風が強そうだ、干した洗濯物は大丈夫かな?」
「そうね、見てくるわ。」
ザ・夫婦の会話って感じだ。
微笑ましくもあり、うらやましくもある。
俺も数年後にはこうありたいものだ。
久しぶりに実家に帰ろうかな。
何気なく、2階にあるのであろう物干場に向かうお母さんを目で追う。
その姿は、砂煙と共に掻き消えた。
鳴りやまない風は、山ノ中家を飲み込んだ。
先ほどから聞こえていたのは、風などではなかった。
破壊の推進力で数十Kmの距離を瞬く間に移動した末、跡形もなく壊された、大地の悲鳴。
振り払われた砂埃の中から現れた大柄の男はつぶやき続けている。
「一度。一度。娘をよこせとお願いしたとき。
お前らの長は断ったように聞こえたんだ。」
「コイツ、何を言っている?」
みんな避難してくれ!」
素子と2人でポータルを展開し、あたり一面の人間を花海署敷地へ移動させる。
「だから、もう一度聞いてみたら、僕のお願いを了承してくれた。
だから、それは、僕の聞き違いだったということになると思うんだ。」
「なんの話だってんだ!?」
「さっき、手紙が届いたんだ。
手紙には、僕には、娘をあげられないって、書いてあったんだ。」
「そうだ、俺が素子をもらうことになった。
アンタは手を引いてくれると、助かる。」
どうやらこいつが大海原らしい。
話が通じる様子ではないが、なんとか説得を試みる。
「僕は、2度、読み返したんだ。
これは、読み違いなんかじゃない!!!!!!
そうだろう!!!!!????」
辺り一面をぐちゃぐちゃにどでかい割りばしでかき混ぜられた様に、全ての一切の形が失われていく。
建物はすでに瓦礫の山、草木はちぎれ飛び、そこには最初から何もなかったように見える。
あるとすればそこには破壊そのものが存在する。
聞いてた話と違うじゃないか。
アンタの力は破壊構築じゃなかったか?
まるっきり構築を忘れてる。
思い出せ。
きっとそいつを思い出した時、アンタは人間に戻れるはずさ。
人らしさの正解は出ません。




