白馬に乗った王子様
その白馬であれば
間もなく、居間に通された。
襲ってきた魔法使い達は、開放してやった。
もし素子に逃げられたら、殺されてしまうかもしれない本人達だ。
決してこいつらを好きにはなれないが、事情と気持ちは分かる。
俺の前に暖かいグレー色の何かが注がれたカップが置かれた。
…お母さん、これを飲んでも僕は死にませんよね…?
「一族の者が…誠に申し訳ありませんでした!
なんと謝罪申し上げればよいか…」
お父さんが頭を下げる。
別にいっすよ、無傷だし。
「いえ、結局私も手を出しましたし、ココはお相子ってことで。
それより、素子さんの話をしましょう。」
そんなことより本題に入ろう。
このままでは無策だ。
もう一度、状況を整理しながらとれる策を選定していく。
既に了承の返答をしてしまっている以上、正当に婚約破棄を行うと、相手方に無茶な要求をさせてしまう体大義名分を与えてしまうという。
…元々、大海原家はそこまで大家ではなかった。
現在の魔法使いという種族において、その発言力を高めたのは多吉郎が成人してからのこととなる。
多吉郎は、恵まれた魔力から、成人した瞬間におびただしい量の婚約を受けることとなった。
そこには、多吉郎の事情は考慮されず、それどころか、応募された娘の事情でさえも、何も考慮されていない。
ただひたむきに魔力の強化を願う種族の純粋さのみが優先される、魔法使いの祈願のみがそこにある。
多吉郎の両親は、その中から最も魔力が高い娘を選りすぐり、多吉郎に紹介する。
多吉郎も、そこまで魔力に優れているのであればと前向きに考えていた。
やがて、娘と見合う席が設けられた。
初代魔法使いの掟に敬虐な信仰を仰ぐ両親は、多吉郎に学校にも通わせず、自宅において、ただひたすらに魔力の研鑽に努めさせた。
よってそれまで、多吉郎は両親を除く人間と会話したことなどなく、初めて対峙した目の前の同年代の娘が、まるで火炎を吹くドラゴンのように恐ろしく見えていた。
女の子とは、どんな生き物なんだろう。
何がすきで、何がきらいなんだろう。
何を話せばいいんだろう、何を話してはいけないんだろう。
そんなことを考えていたら、とうとう言葉を1つも発せなかった。
娘は結局、
「この男とは、子を成す気になれません。」
などと、婚約破棄を申し込んできたのであった。
この件は、多吉郎の心に致命的な傷を負わせた。
「なぜ、どうして?
君から僕を好きになったって言ってきたんじゃないか。
だから僕も君を好きになったのに。
僕よりも魔力が強いやつなんて、誰もいないのに。
どうして。」
魔力の強さが全て。
そして、魔力が最も優れたお前は、魔法使いの中で最も優れた人間だよ。
それのみ教わって育まれた。
だから、僕を嫌いになる人なんていないはずなんだ。
その後も次から次に、引く手あまたに婚約自体は申し込まれた。
しかし、多吉郎は1度拒否された事実を払拭することができず、誰とも一言も話せなかった。
届いた婚約が全て落ち着いた時、多吉郎は自室に閉じこもる。
一度も部屋から出ない。
食事も、排せつも、入浴も、僕の魔力でどうにかする。
誰が悪いのか、答えを出さなきゃ。
多吉郎は、およそ2月自室から出てこなかった。
やがて、部屋から出た多吉郎は、姿も、精神も2月前のソレとは異なっていた。
そしてひねり出した1つの結論。
2月の間、文献を漁った。
過去に、正当な理由のない婚約破棄を理由に、賠償を支払わせる風習が故郷にあったと、魔法使いの始祖が思い出話を語ったというものを見つけた。
復讐の理由付けには、ただそれだけで充分であった。
1人目の娘の家へ向かう。
様変わりした見た目に驚かれるが、応接間に通される。
婚約破棄の賠償を支払えと要求する。
聞いたこともない話だと突っぱねられる。
予想通りだ。
今度は魔法使いの婚約破棄方法について話す。
相手より魔力の強い者であれば、無条件で婚約破棄できる。
魔力比べをして、僕が負けたらおとなしく帰ります。
そう言うと、簡単な決闘が始まった。
軽く蹴散らして、僕を帰らせようと思った結果だろう。
そう、誰も僕の本当の力を知らない。
まだ、誰も僕を恐れていない。
この人達もきっとそう。
僕の生家は名家じゃないから、なめられているんだ。
魔力は、魔法は、遺伝するから。
知っているんでしょう?
破壊構築は生き物には使えないって。
だから自分が安全だって。
負けるわけないって。
あなたが名家の生まれで本当によかった。
勝負は一瞬で決まる。
頭を残して、後は全部吹っ飛ばした。
見ていた彼女の両親は、悲鳴を上げている。
ゆっくり、元に戻してあげて、もう一度、同じことを繰り返す。
彼女の両親が、僕に許しを願う。
なんなら、もう一度婚約を考えても良いってさ。
違うんだよ。
違うよね。
もう、僕は悩んで、考えた後だから。
賠償の条件を伝えた。
貴方の家の権限全て。
財産の全て。
知る魔力の高め方全て。
それで許してあげた。
さ、後何件かな?
僕を傷つけた家の数は。
後の家は、決闘を行うことなく、財産を多吉郎に渡し、謝罪を行った。
こうして、多吉郎1人の力で、大海原家は現在の名家へと変貌を遂げたのだった。
「なんか、結婚詐欺の逆みたいなことやってるんですね…?」
「魔力が最も尊いという、魔法使いの悪い部分が出てしまった結果です。」
悪い部分というか、なんというか…
「それって、断ればいいんじゃないのかしら?」
ローラさんや、話を聞いていたのかい?
「簡単にはできないって話だろ?
族長さんがもう了承したってこともあるし。」
「それは、山ノ中家の話よね?」
「と、言いますと?」
お父さんが興味を持ったように話を促す。
いや、彼女の話は話半分にしといた方が期待を裏切られなくて済みますよ?
「さっきの話を聞いていたら、大海原家には、
いっぺんにたくさんのプロポーズが届いたのよね?」
「そのとおりです。」
「素子ちゃんには、他に届いていないのかしら?」
「素子は、まだ魔法使いの中で成人を果たしておりません。
さすがに、未成年に婚姻を申し込むなど、普通は考えられません。
相手が大海原多吉郎という魔法の天才であるからこそ、
この横暴は許されているのです。」
「分かったわ。
丁度知り合いにそんな横暴が許される程度の魔法の天才が居るから、
お願いして、素子ちゃんにプロポーズしてもらいましょう。
で、山ノ中家がその天才を選べばいいんじゃないかしら。
最悪奪い去ってもらっちゃいましょう!」
「おぉ!
素晴らしい!」
「そんな知り合い居るのか!?
腐っても神だな!!」
俺とお父さんは、思わず感嘆の声を上げるが、ローラはあきれた顔をしているし、素子は真っ赤になった顔を抑えている。
なんだよ、おじさんにもわかるように教えてくれよ。
「いろんな魔法が次々使える人間なんて、そう居ないの( *´艸`)
そう言えば、さっき親戚のおじさんも驚いてたな!」
アレ、そういえばさっき誰かが風の魔法使いと間違えられてた気がするな。
天才とは、まさか・・・?
「題して、『ソダシの王子様大作戦』!!」
すげぇ競争早そうなのな、お前の王子様。
まさか、神様が賭けたりしてないよね?
「素晴らしい!!!」
あぁ、お父さん、そんなに乗り気にならないでよ。
娘の一大事だよ?
ひょっとして、これ飲み干したら、楽になれねぇかなぁ…
目の前のグレーは、席に着いた時よりも幾分かおいしそうに俺を誘った。
なんでも奪い去れそう。




