世界最強
知る限り。
「えぇ…マジでぇ…?」
思わず寝起きで呟いた。
朝7時。
携帯のアラームで目を覚ます。
今日の出勤は、昼からで良いと言われている。
署長と面接するまではフリーだ。
それまでは悠々と過ごすつもりだが、それを許さないのが昨晩と変わらぬリズムで刻まれる壁ドン。
この人ずっと壁叩いてたの?
俺を絶対に許さないという、執念というか、狂気を感じる。
俺はこれまで一体どんな奴の隣に住んで来たんだろう。
「嫌だなあ。」
「ね。変な隣人なの。(*´◒`*)」
ゼンジロウも眠そうだ。
素子さん、ねぇ、いつからそこにいたの?
布団の中から声が聞こえる。
「昨晩から。(*´ω`*)」
どうか頬を赤らめないで。
草木も眠る丑三つ時。
ウチはゴミ屋敷に居た。
シャワーを借りて、清潔になったウチは、その代わりにとても清潔とは言えない空間に居なければならなかった。
なんとか眠るよう目を瞑る。
なんてことなの…
ぐるるるあぁ…なんて言うイビキを初めて聞いたの…
隣でこんなの聞こえてちゃ眠れない。
とりあえず、トイレ、トイレ…明かりをつけて起き上がる。
すると、
カサリ…カサリ…
とカップラーメンタワーの方で何かが掠れる音がした。
音の主はどうやら光に驚いたようだ。
あぁ!!こんなとこには居られない!!
「という訳で、お兄さんのとこに来たのです(*'▽'*)」
「訳は分かったけど、2度としないで素子ちゃん。
というか、あの虫、神の造りたもうた空間
にもいらっしゃるんだね、すごいね。」
「うん、アイツらすごい生命力なの。(-_-;)
過去に、指定した存在を消せる魔法の使い手が、アイツら
の消滅を図ったのだけれど、アイツらなぜか平気な顔して
生き残ったの。」
それはもう生命力とかいうのとは違うスケールの話だけど?
トーストを2枚焼く。
久しぶりにコーヒーも淹れたりなんかして。
2杯入れて、片方は砂糖を多めに、ミルクを入れてカフェオレにしてあげる。
久しぶりに充実した朝を過ごすなぁ。
最近は警備の関係でバタバタだった。
理想の朝だ。
壁ドンさえなければ…
未だにドンドン壁を叩き続ける隣人。
「すごい執念…Σ(゜д゜lll)
まるで○キブリ並みのしぶとさなの…」
「しーっ!聞こえるから!」
遅かった。
きっと、その鋭いナイフは、我が家の薄い壁を貫いて隣人の心を切り裂いたのだろう。
最後に一際大きな鼓動をドンッと残した後、隣人からの干渉はそこで途絶えた。
「…まさか、ショックで死んでねぇよな…?」
「い、異世界人に少年法は適応されますか…?ヽ( ̄д ̄;)ノ」
やめてくれよ、縁起でもない。
ドンドンドン!!
今度はノックかよ!
あー、謝らなければ…
怒りに狂った隣人が、とうとう俺の部屋を訪ねてきたのだろう。
元を正せば、部屋で俺がうるさくしたのが原因だ。
時として、大人の対応をする事がご近所トラブルを起こさない秘訣だ。
相手を刺激しないようにゆっくりドアを開け、すぐに謝罪する。
「○キブリなんて言って申し訳ありませんでした!」
「ウエェエエ!!?
…アンタ達ワタシにそんな陰口叩いてたの!?」
ぐるるるあぁ!!!
と人間の舌では発音できない声で号泣する女神。
誤解だよぉ…
朝起きると、隣で寝ていたはずの素子の姿がなく、焦った女神は走ってここまで必死に探しに来たのだ。
そこで投げかけられた心無い言葉に彼女の心のダムは決壊したのであった。
「ごめんって!
素子ちゃんからも説明して!!」
「ちょっと、ちょっと待って欲しい…
ふぅ、ごめんなさい、ウチが悪かったの(-.-;)」
遅れて来た素子が謝罪する。
「あの、階下の人からうるさいって苦情が…あぁっ!?」
「あ、大家さん、すいません!
えっ?」
「前田さんのペドロイアーーー!!」
叫びながら走り去る大家。
視線の先には、寝巻きからの着替え途中、乱れた服で出てきた素子。
…君たちさ、寄ってたかって俺を退職に追い込みたい訳?
クマムシかどちらか。




