我が城へようこそ!
僕の元実家がモデルです。
気になっていたことを素子に聞いてみることにした。
「さっきから、たまに周りをフヨフヨ浮いて消えたり出てきたりしてるこれなに?」
「エッ!!お兄さん見えるの!?(◎_◎;)」
ホラ、こんなにも自己主張している。
見えちゃダメなの…?
ひょっとして、見えたら近いうちに死んじゃう物騒な星みたいな類のものなの?
「この子はゼンジロウ、ざっくり言うと精霊なの。(*- -)(*_ _)
そして、私の魔法なの。
おうちについたら、まとめてお話します!」
頭を下げる精霊に、俺も一礼で返す。
多分さっき親から聞いた話よりも複雑なんだろうなぁ…
覚悟を決めて自転車を押しながら歩を進める。
ようこそ、やがて見えてくる築65年、木造2階建ての月影荘が俺の城だ。
月影荘は、敷地周辺を風吹けば倒れるような石垣で囲まれている。
たまに大家さんが日曜大工で補修しているのを手伝ったこともあった。
敷地内には、特に駐輪場といったものはなく、今は住人が入っていない14号室
(1階の4番目の部屋)
の入口前に住民の自転車、原付などは置かれている。
俺もその例に漏れず、その車列の右端に自転車を並べる。
すると、まるで待ち構えていたかのように11号室のドアが開き、中から大家さんが顔を出した。
「前田さん、おかえりなさい!
あの、晩御飯作りすぎちゃって、後で持っていってもいいですか!?
って、アレレ?」
春川 菜々(はるかわ なな) 21歳
月影荘の大家さんである。
やや大き目な黒縁眼鏡が似合う、真面目な女性である。
聞けば、大家さんの両親が大家さんの祖父から月影荘を相続し、すぐにその取り壊しをしようとした。
取り壊しに物言いをつけ、大家さんが管理を申し出たといういきさつがあるそうだ。
俺がここに安く住めるのも大家さんのおかげであり、感謝している。
そして、結構な頻度でこうして、肉じゃがや、みそ汁、生姜焼きなんかを持ってきてくれる。
ありがたいけれど、今日はもう午後10時を回っているよ?
遅くにご飯食べるんだね、最近の若い子は。
俺の帰宅を待ってくれていた訳でもなかろうし。
「そ、その女性達は…?」
「大家さん、ただいまです。
今日はちょっと客が居まして、静かにするよう気を付けますんで。」
「は、はいぃ、ウチのアパートはとても壁や床が薄いので、そうしていただけると助かります…」
元気がないな。
年頃の娘さんである。
そんな日もあるだろう。
「そういえば、大丈夫でしたか?
次震があったり、いろいろ事情が変わったと思うんですけど。」
「確かに地震は怖かったです!
あんなに揺れたのに、月影荘は無事でした。
でも、事情が変わったって何かあったんですか?」
なんと、大家さん、全く天変地異に気づいていなかった。
携帯が圏外になり、テレビも映らず不便を感じていたが、単純に地震の影響だと思っていたそうだ。
それに加えて今日は外出しておらず、月影荘周辺は、景色が全く変わっていなかったため、今まで異変に気付かなかったという。
驚くべきことに、月影荘にあってはテレビ、ラジオ、携帯、これらは使えないものの、電気、水道、ガス等、ライフラインの類はすべて使用可能だという。
その上、月影荘周辺の景色は全く以前と変わっていないように見える。
なんだかここだけコチラのままみたいに。
大家さんに事情を説明して、避難をするよう勧めたが、月影荘の住民の避難を確認してから考えるとのことであった。
…素子の件が片付いたら、俺から、他の住民に確認して回ろう。
そうでもしなければ、心置きなく大家さんが避難できる日は訪れそうにない。
ここの住民は、個性派しかいないのだ。
我が家は24号室である。
2人に、体重をかける度にぐらつく階段に注意を促しながら、2階の一番奥の角部屋へ向かう。
金属製のカギをドアノブに突っ込んで思い切り回す。
力を加えないと我が家のカギ穴は回ってくれない。
俺達が部屋に入るまで見送ってくれた大家さんに一礼してようやく俺は帰宅を果たした。
「すっごいトコに住んでるのね、アナタ。」
「そう?そんなに豪邸ではないと思うけどな?」
「逆の意味に決まってんでしょうが。
うえっ!?部屋中お札まみれじゃない!?」
「ウチは気に入ったの!
壁に貼ってある飾りはカワイイし、精霊みたいなのがいっぱいいるし!!(=゜ω゜)ノヨォ」
「「…精霊みたいなのってなぁにぃ…?」」
ゼンジロウくんは何に挨拶しているの…?
素子の緊張は、大分解けてきた様子で、少女らしい素が出てきている。
このまま話を聞いてしまおう。
ではお嬢様、よろしくお願いいたします。
今は引っ越しました。




