異文化文化
人によって、何が大切で、何が些事か、
何とか花海署にたどり着くことができた。
時刻は午後9時。
今日はいろんなことがあった。
一刻も早く帰ろう。
「こんな遅くまで付き合わせて悪かった。」
「良いわよ。なかなか楽しかったわ。」
ローラは命の危機にあったというのにさらっと答える。
神の器のデカさを垣間見た。
警務課でワゴンのカギを返却する。
その時、
「早く娘を探せ!!」
「もう手配はしております…
今は報告を待つしか…」
「お前も探しに出ろ!!」
行方不明か?
こんな時に、こんな時間、娘が返ってこないと家族は心配だろう。
それに、警務課のおねえさんはとっくに帰宅時間のはずだ。
仕方がないや。
「その人の代わりに僕が探しに出ます。
この人は、僕らの報告をまとめるプロなんです。
どうか僕に娘さんのことを教えてください。
こちらにどうぞ。」
「わかった。」
おねえさんに帰ってもらうため、1階の相談室に、娘の届け出に来た父親と母親を通す。
しかし、この2人、見れば見るほど奇妙な恰好をしている。
全身黒ずくめ、まるで有名ゲームの黒魔導士みたいだ。
「娘は、山ノ中素子と言います。
年齢は、15歳です。」
イモッッッ。
とても口に出せないが。
「見た目はどのような風でしょう?」
「身長は、150cmくらい、体格はやせ型、、」
必要事項を聞いていく。
「あと、魔法を3つ使えます。」
「3つ?それは天才というやつでは?」
「おぉ!
貴方はコチラの方でありながら素子のすばらしさを
理解されているようだ!!
そのとおり!素子は天才です!!」
「ムコーの方が、よく、行方不明者をコチラの
警察が探していることをご存じでしたね。
あと、流暢な日本語を話しておられます。」
「魔法使いは、少し特殊でして、操る言語のベースは
この日本語なのです。
先祖からの言い伝えにコチラの『警察』というのが
あったのを思い出しましてな。
どうやら世界が1つになった様子、
藁をも掴む思いで来させてもらったのです。」
山ノ中家の誇る天才。
それが山ノ中 素子であった。
神話、説話、言い伝え、伝承と言ったものが、世の中に散見される。
その内いくつかは俺だって知っている。
桃太郎とか、金太郎とかさ。
神曰く、そういったものはムコーの世界とこちらの世界において、バグのように人間の行き来が発生した際に生まれる。
魔法使い。魔女。
これらの生い立ちは、ムコーにおいても特殊と言われる。
全人口2万人程度。
その程度しか魔法使いはいない。
かつて、コチラからムコーに偶然渡った者が居た。
その者は魔法に強い憧れを持ち、独自に修練を重ねた。
そして、修練の結果、炎の魔術を身に着け、蝋燭に火を灯すことができるようになった。
しかし、それが彼の限界であった。
それは間違いなく偉業だった。
ムコーにおいて、それまで、18歳までに魔法が発現しなかった者が己の努力のみで魔法を発現させた例は存在しなかったためである。
ムコーでは魔法が発現しなかったことを理由として自ら命を絶つ者、自暴自棄に生きる者。
魔法至上主義が横行するムコーでは、そういった者が現在も後を絶たない。
そんな中、彼の存在は人々に確かな希望を与え、魔法の発現に恵まれなかった者の内、絶望する者を劇的に減少させたのだった。
ところが、彼自身は自らの才能に絶望していた。
納得しなければならないところもあった。
研究の結果、魔法が発現する確率は約50%。
平民の間でよく知られた値である。
これは、総合値なんだ。
コチラの世界で、学業を修めた彼は、公表されている値と、身近な人々、つまり平民の魔法の発現率との矛盾に簡単に気づいてしまった。
では、優秀な魔力、魔法を持つもの同士が結婚する貴族、王族に限って見れば?
導き出された答えは96%。
この数値の差は魔法の才能に、血筋、遺伝が関係すると、明白に示した。
僕には、コチラの血しか流れていない。
彼は、偉業の達成によって、貴族と婚約することを認められた。
貴族の女性との間に生まれた彼の娘は、生後間もなく爆発の魔法が発現し、ベッドを吹き飛ばした。
彼の炎と、彼女の風が合わさった魔法だと推測できた。
彼はその時、産声を聞いた時よりも安心したという。
親や、王族の思惑によって、思い人と引き裂かれ、僕ごときと子を成した彼女が、安心できますように、どうか、少しだけでも、報われますように。
この先も子孫が、魔法を使えますように。
食うに困りませんように。
優しい彼は、子孫にいくつかのお願いをする。
魔力を待たぬ者と結婚してほしくないな。
結婚には魔法の強力さを1番に考えてほしいな。
生活は魔法の修練を中心にできないかなぁ。
日々魔法を研究することを忘れてはいけないよ。
1人の優しい青年が残したお願いは、やがて、子孫にとって、絶対の掟となった。
その結果、平民にして、王族を超える99%の割合で魔法を行使する種族が生まれた。
それが、魔法使い、魔女、と呼ばれる者達。
故に、その生体は、魔法が使える以外、コチラの人間と何1つ変わらない。
魔法に関する知識、探求心、価値観が異常である他は。
そんな種族に生まれた素子は、15歳になったその日、両親から、顔も知らない遠い親戚の男を結婚相手として紹介される。
男は、生まれつき強い魔力に恵まれ、将来を望まれていた。
ところがそこは、魔法第一を良しとする種族である。
育て方を間違えた。
その結果、恵まれた魔力にも関わらず、度重なる縁談を即破断となるモンスターが生まれた。
男は、何度も、何度も同じ過ちを繰り返した。
月日が流れた。
気づけば、人の心を知らぬまま、何が間違いか分らぬまま、男は齢50を超えた。
そして、考え付いた。
もう、終わりにしよう。話を聞かぬなら、従うようにしてやろう。
初めてこちらから縁談を申し込んだ。
相手は魔法を3種も操る天才だと伝え聞く。
族長を家に呼びだした。
あろうことか、断られた。
首を残して、四肢を全部吹き飛ばす。
即座に治療する。
もう1度訪ねたところ、快く承諾してくれた。
最初のは…聞き違いだったんだな。
無事五体満足で戻った族長は、口もまともに聞けなかった。
一族の未来を背負うはずだった若き天才は、こうして差し出されることになった。
誰にも否定できない、押し付けてもいけない。




