説話の起源
過去に大きな戦のあった国では良く知られるお話だそうで。
鼻歌交じりにワゴンを運転する俺の横で、神の機嫌は最悪だ。
「上機嫌じゃないの。」
「え~、そんなことないよ~!」
ようやく花開きそうな春の訪れを感じ取った俺の潜在意識は、自然と他人への対応を柔らかなものにさせる。
そうだ、俺に足りなかったのはこれだったのだ。
来る日も来る日も上司へのうっぷんが溜まり、その他、己のうまく行かない人生を実感しながら生きていた。
そんな毎日、日々過ごしていても楽しい訳がない。
そんな日々を過ごしていては、他人に対する態度も悪くなってしまう。
それが俺だった。
成功体験。
それが俺に足りないものだった。
ああ、ありがとう神様。
これまでずっと、オマエが居るとするならば幸せになるやつを勝手に決めてそいつらだけ可愛がる碌でもねぇゴミだとか思っててごめんなさい!
前田 一は、これから人に優しく生きていくことを誓います!
「ひっどい言われようね…
というか、ワタシまだ神だと思われてないの?
アンタどの神に祈ってるのよ?」
勝手に心を覗くな。
やがて、川にたどり着く。
どう渡ったものか、しかし、今回は秘策がある。
秘策というには雑なものだが。
「これホント大丈夫なの?」
「やってみるしかないだろ、ばあちゃんもう帰っちゃったみたいなんだから。」
ワゴンを川岸ギリギリまで移動して、後は、拡大の力で思いっきり向こう岸に伸ばす!
車両はいい勢いで向こう岸に伸びていき、すぐに向こう岸に到達した。
「よかった!届いた!」
本来なら重力やらなにやら俺の知らない原理によって川底にワゴンは沈んで行くしかないはずだが、そこは、魔法というファンタジーの万能性に賭けた。
どうやら賭けには勝てたらしい。
あとはゆっくり橋代わりの車の上を渡っていけばいい。
それでいいはずだったのだけど…
川の中ほどに辿り着いたころ、ワゴンの両側から俺達目掛けて襲ってくるワニの大群。
回転するしっぽを器用に使って空中でも姿勢を変えて縦横無尽に噛みつきを仕掛けてくる。
拳銃を使ったとしても数が多すぎて話にならない。
あのワニこんなに器用だったの?
「なんとかしなさいよ!!
あんたが言い出したんだから!!」
「そんなん言ってもすぐには無理だろ!」
何頭かを拡大した警棒で打ち落とすが、キリがない。
マタンゴを試みても胞子は水に溶けて思うような効果を発揮しない。
やがて何頭かのワニがワゴンの屋根上に上り、前から後ろから、挟みうちを仕掛けてきた。
どうすれば生き残れるか、とうとう命乞いを始めた神を尻目に必死に考える。
やがてその思考は衝撃波によってかき消された。
遠くに帆船が見える。
「ばあちゃん!!」
どこに大砲を積んでいたのか、帆船から連射される砲弾の嵐。
ワゴンの周辺で連続して爆発が続く。
ワニ達は我先に水中に逃げ込んでいき、やがてワゴンの屋根上に残ったのは俺とローラだけになった。
「なに!
さっきのどぉんって音はなに!?」
土下座から頭を上げたローラに、豪快に笑う老婆が話しかける。
「えらい目にあったねアンタ達!」
向こう岸にたどり着いた後、老婆に感謝を述べる。
「本当に助かりました!」
「良いってことよ!
アンタらが戻るの待ってたんだけど、店に呼ばれちゃってさ!
こっちこそ怖い思いさせて悪かったよ!!」
「あの大砲はワニ除けですか?」
「いや、アレは元からついてるもんさ、ワニのためにつけた訳じゃあない。」
そう言って老婆が見据えた先には、古い絵画が飾られていた。
豪華な椅子に腰かけ、ナポレオンみたいな帽子をかぶり、葉巻を咥えた美しい女海賊を描いたものだった。
まさかな。
「ボウヤ、見た感じ憲兵みたいなことやってんだろ?
ワニから助けたことに免じて見逃しておくれよ!」
と豪快に笑い飛ばす。
恐るべし、異世界。
昔、昔、あるところに、優しい貴族の娘がおりました。
娘は美しさにも、大層貴重な魔法の才にも恵まれ、若くして王族に嫁いだそうな。
幸せに暮らしていたところ、やがて娘の嫁いだ国は戦火に見舞われました。
「食料を民にすべからく行き渡らせるため。」
そう聞かされた娘は人々を救うため、その魔法の腕を思うままにふるったのです。
娘の国は、戦に間もなく勝利しました。
敵国は巨大な牛、豚、に踏み荒らされ、喰い尽くされ、何も残りませんでした。
役目を終えた巨大牛、巨大豚は、娘に内緒で殺してしまうはずでしたが、とても強くて娘の国の軍隊は、返り討ちにされてしまいました。
巨大牛、巨大豚は国に戻って大暴れ。
夫から、巨大牛達を元に戻すよう頼まれ、とうとう娘は真実を知ってしまったのです。
娘は程なくして、自らの身を小さくして城から逃げ出しました。
その後、娘は悲しい戦争をなくすため、海賊となり、各国の戦を潰して回りました。
娘が海賊をしている間、世界に大きな戦は無くなりましたとさ。
めでたし、めでたし。
後ほど知った、魔法至上主義は良くないことだよ、やめようよ、という内容の昔話。
本当は史実なのかもしれない。
俺がばあちゃんを取り締まるだって?
冗談じゃない。
俺は異世界の法律なんて知らないよ。
異世界の暖かさだけは知っているけれど。
共通の敵を持つことで戦は収まったそうな。




