守るべきもの
それは…
「しっかし驚いたね、アンタも拡大縮小を使うんだね。」
「そんな感じです。
使ったのは初めてですけど。」
「あまり人前で使ってはいけないよ。
その魔法はいろんなことができちまう。
自分では、考えつかないことさえも。」
なんとなく、先ほど見た老婆の悲しい表情の理由が、ほんの少しだけ、分かった気がした。
老婆に礼を言い、ホテルへ向かう。
キングホテルまでは何事も無く到着した。
当初、駐車場内にワゴンを停めるつもりだった。
しかし、ホテル内は避難をしてきた人々でごったがえしており、やむを得ず路上に停める。
制服姿の俺は、周囲を囲む人々に呼び止められ、対応を求められてしまう。
何とか現状の説明をするが、半ば暴徒と化した人々は全く話を聞いてくれない。
なんだったら、
「お前の責任だ!警察は無能だ!お前が責任取れ!」
と気持ちは分かるが、八つ当たりとしか言い難い言葉も投げかけられる。
どう収拾したものか、話を受け流しながら思考していたところ、ローラがパン、パンと手を叩く。
皆静まって女神を見つめる。
その様子は、まさに神の神託。
「静まりなさい。
聞きなさい。
苦しいのは貴方だけではない。
貴方が矛先を向けるこの者は、勤めを立派に果たしているわ。」
奇跡でも見たようだ。
みんな急に物分かりがよくなった。
その先は、みんな冷静に俺の話を聞いてくれた。
地理は様変わりしたものの、目指す施設の方角は変わっていないこと、見慣れない動物は、こちらから何かしない限り向こうからは襲ってこないこと、ただモンスターという恐ろしい存在がおり、注意を払うこと等、共有すべき情報を伝えた。
その内、自衛隊の車両がホテル内に入ってくる。
救助のため、必要な物資等を積んでいるようだ。
花海署からの伝令が到着したのだろうか?
開放された俺たちはひとまずフロントに向かう。
「ローラ、お前本当に神様だったのな。」
「ひょっとして、アナタすごく失礼なこと言ってないかし
ら!?」
あれ、感謝したつもりだったんだけどな?
フロントには、男性の従業員が2名いた。
人込みをかき分け、何とかたどり着く。
「宿泊していたタカジョウです!」
「タカジョウ様、先ほどお連れの方も戻られました。
ご無事で何よりです。」
緊急事態だというのに、流石の一流ホテルは変わらず営業を継続していた。
いや、実際は、誰もが今にでも帰宅したくてたまらないのであろうが、帰宅手段も失われ、外が安全かも不明な中、こうして多人数で集まれ、食料もあるホテルに留まる方が安全という結論を出したのかもしれない。
いずれにしても、すんなりタカジョウ氏に出会えるならばありがたい。
2022号室、呼び鈴を鳴らす。
Kinoが無事たどり着いたことはフロントからすでに内線で伝えてもらった。
呼び鈴を鳴らして間もなく、勢いよく開いたドアから飛び出した色男は、当然と言ったような感じでKinoと熱い抱擁を交わす。
「良かった…
本当に良かった…!」
「ミツルさん、苦しいよ~!」
・・・あー君たちそんな関係なの。
よくあるものね。
そういえばあの有名プロデューサーも、その有名プロデューサーもみんな自分の手塩にかけたアイドルと結婚しておるわい。
このイケメン様が、果たしてプロデューサーなのか、マネージャーなのかは知らないが、自分の育てる対象に牙をむく、奴らと同類に違いなかった。コンチクショウメ。
しかしながら何よ、Kinoちゃんついさっきまで俺に気がありそうだったじゃん。
弄ばれちまったよ、俺の心は。
「お巡りさん、本当にありがとうございます!
うちの子を無事に届けてくださって!」
「いえ、当然のことをしたまでです。」
お決まりの言葉で仕事モードに入る俺。
自己紹介を含めて、簡単にここまでの経緯を説明する。
高城 美弦
株式会社ギガンティック・ギャラクシー
所属の女性プロデューサー。
綺麗な金髪はベリーショートに整えられ、身長は、180cm近い。
俺より高けぇや。
薄化粧で、黒色のタイトなスーツがよく似合う大人な女性である。
そう、この方、れっきとした女性であった。
よく男性と間違われるのだそうで、自分から、「私は、女性で、」と自己紹介を切り出された。
過去に、担当していた女性アイドルと外で会っていたところをゴシップ誌の記者に写真を撮られたことが何度もあるらしく、トラウマとなっているらしい。
「あの、では、なぜ男性もののスーツを着てらっしゃるのですか?」
と恐る恐る聞いてみたところ、
「スーツ屋さんに男性と間違えられて…
否定できなくって…
悪いし…」
と、随分カワイイ答えが返ってきた。
きっとこの人は男性からもモテるだろうな。
実際、言われるまで男性と確信していたが、女性と言われてみると、美人に見えてくるから不思議である。
実は女性であった、という驚きに上書きされ、ギガンティック・ギャラクシーだとかいう戦隊モノの必殺技めいた会社名に疑問を持つことも忘れていた。
高城さんは、当初、Kinoを救ってくれた目の前の存在が神であるだの、魔法が存在するだの、といったことを信じられないといった風であった。
当然のことと思う。
おそらく、全世界で現状の情報を1番多く持っているのは、神と行動を共にする俺達で間違いない。
真実を1つずつ丁寧に語る。
次震によって2つの世界が1つになったこと…
大きなライオン…
幻覚を見せるキノコ…
「幻覚を見せるキノコ!!!!??
ヒメノ!!アナタそんなものに手を出したの!!?
常日頃からコンプライアンスは守りなさいと言っているでしょう!!!」
「ち、ちが、、違う!!
辞めて!!人聞きの悪い!!」
高城さんは、見た目と違って、早とちりをしがちなタイプのようだ。
「Kinoさんには、後で詳しく話を聴きます…」
「オイ!!ふざけんな公僕!!!」
10代の若者から飛び出したひどい暴言に心を痛めた俺は、真面目な方向に話を戻す。
「すぐには信じられないでしょうが、全て真実です。
警察も手を尽くしていますが、現状、出来ることに限界を感じております。
安全には、十分に注意を払ってください。」
落ち着きを取り戻した高城さんにKinoの身柄を預け、俺とローラはホテルを離れる。
自衛隊の保護の元、東京に帰ることができるそうだ。
ワゴンに乗り込もうとしたとき。
「待って!」
Kinoがこちらに走ってくる。
Kinoは減速することなく、、アレ、そろそろ止まりません?
ドンッと俺の胸に飛び込んで、俺の耳元でささやく声は優しくて、
「これでお別れなんてイヤ。
絶対に会いに行くから。
幸村 姫乃。
私の名前。
覚えて。
待っててね。」
そう言うと俺の体を1度ギュッとしてホテルに駆け戻っていく。
おじさん語彙力なくなっちゃう…
「神の宣告を放ついとまがなかったわ…恐ろしい子…」
恋だとか、愛だとか、そんな気の利いたものは司っていないこの神は、己の無力を嘆く様にそう呟いた。
それはコンプライアンス。




