その理由は人生経験
やっぱり年齢を重ねた方は魅力があると思います。
川沿いを北へ車で10分。
やがて木造の建物が見えてきた。
木製の桟橋が伸び、今は船が繋がれていないが、ここに船が停泊するのだろう。
店内を覗くと、ロッキングチェアに深く腰掛けた老婆が1人。
マタンゴを準備して声をかける。
「すいません、次の船はいつ出ますか?」
「いつでも出せるよ?
こんな状況だ、困ってるんだろう?
お代はいらないよ。」
なんと優しいことだろうか、先ほどまで異世界との交流について頭を悩ませていたことが申し訳なく思われる。
「ひょっとしてアンタら仲間とはぐれたりしてないかい?
さっきもアンタらみたいな恰好した人が大勢来たのさ。
アンタらの仲間じゃないかい?」
「その中にタカジョウミツルという人は居ませんでしたか!?」
「なんせ、言葉が分からなかったもんでね、名前は聞かなかったけれど、金髪の背の高い色男が居たわね。
タキシードみたいな黒いベベ着てさ、長いこと生きてきたけれど、あんないい男はなっかなかおらん。」
「それ、きっとタカジョウさんです!!」
Kinoが興奮気味に話す。
「色男達ならもう向こう岸だよ。
2時間くらい前に渡らせてやったのさ。」
2時間、行先がキングホテルであれば、もう到着しているだろうか。
「よかった、無事だったんだ~。」
知り合いの無事を可能性を知れたKinoは安堵の声を漏らす。
「じゃあ、早めに行かないとね、アンタらもあの箱持ってくんだろ?
桟橋の方まで持ってきな。」
老婆はワゴンを指さす。
言われるがままにワゴンを桟橋に移動させたが、この世界の文明レベルで車を乗っけられる船が存在するのだろうか?
やがて老婆が店内から出てくる。
手にしているのはボトルシップ。
瓶の飲み口を逆さにすると船のミニチュアが手品のようにスルッと出てくる。
タネは分からない。
ミニチュアは明らかに瓶の飲み口よりは大きかった。
よほど出来の良いミニチュアなのだろう、船は早い川の流れに乗り、転覆することなくその場に留まる。
老婆まるで恋人に触れるように、老婆を待つ様にそこに留まるミニチュアに指先で触れる。
その途端、まるでそうなることが普通だと言わんばかりになんの前触れもなくミニチュアがフェリーのような大きさにまで膨らんだ。
今やミニチュアは、3本のマストを持つ、どデカい帆船となっていた。
「さぁ、準備完了だ。乗りな!」
老婆の誘導で船内にワゴンを入れ、ブリッジでみんなと落ち合う。
「すごいな、異世界ってこんな感じなのか!?
まるで魔法だった!」
老婆の見事な手腕に驚いた俺は素直な感想を口にする。
「へ?魔法に決まってんじゃない。」
当然のように言い放つ女神。
魔法。
そんなものが、存在するような世界と1つになってしまったのか、我が世界は。
目の前でその存在を見てしまった今となっては、嘘だと女神に追及する気にもならない。
ドラゴン(仮)、ライオン、マタンゴ、トイレの神様、たくさんの変なものにすでに出会っていた。
信じられない勢いで奇妙な思い出が増えていく。
「すごいな、魔法なんて、ムコーじゃ誰でも使えるのか?」
「誰でもって訳じゃないわ。
でも5割くらいの確率で発現するの。
素質はあっても発現しなかったりもするわ。
そして発現しても大体は1人1種類の魔法しか使えないわ。」
「へー、なんか大変な世の中になりそうだよな。
格差がすごそうだ。」
「実際そうなの。
ムコーでは、平民でも、利用価値の高い魔法であれば、高値で貴族に買われたり、貴族でも魔法を使えなかったり、魔法の価値が低かったりすれば、扱いが悪くなったりしているわ。」
神の顔が苦痛にゆがむ。
「そういうの、救えないのか?」
「救えるところは救うわよ。
でも、それは子の過ちなの。
子は、過ちがあって成長するの。
過ぎた過ちは親が正すけれど、自分で気づかなきゃいけないことも多いの。」
いつにない神らしい表情に驚いた。
いろいろ事情がありそうだ。
「このばあちゃんは巨大化の魔法に目覚めたっていうことだよな。」
「そうね、正確には縮小と拡大ね。
物体の元のサイズの変更ができるみたい。
ここまでのサイズの変動ができるのはかなりの才能だと思うわ。
かなり重宝されたんじゃないかしら?」
ブリッジの2階で舵をとる老婆に、俺達の話が聞こえていたのかはわからない。
なんとなく、その表情は悲しそうに見えた。
「そうだ、ハジメさん、試しに使ってごらんなさいな。」
「魔法を?
無理だよ、俺はコチラの世界の人間だぞ?」
つい最近のことである。
「〇ー-----めー---はー--めー----波ー-----!!!」
「全〇中!!常在!!!!」
今まで、発作的に、ふと、〇めはめ波を放ちたくなって練習したことはあった。
体力が向上すると評判の呼吸法を試してみたこともあった。
しかし、継続的に訓練をしたことなどなかった。
1か月。1か月だ。
1か月本気で取り組めば1回くらい成功するはず。
いつの日か、アブラハゲにぶちかませるその時を夢見て、駐車場の秘密基地で訓練を繰り返した。
成功への確信を持って毎日取り組んだ特訓も空しく、とうとう俺の両手からエネルギーの類が飛び出ることはなく、身体能力が爆発的に向上してくれることもなかった。
そんな経験が、俺には有った。
「ヒック…ヒグッ…ワタシ悔しいわ…こんな子を今まで救えなかったなんて…」
泣き崩れるローラ。
(…まさか、コイツ…!!思考が読めるのか!?マズイ!!)
「冗談はさておき、ハジメさんが縮小、拡大という魔法があると知った今、ハジメさんの世界にその魔法が生まれたのよ。
『人形劇』の時みたいに、イメージしてごらんなさい。」
腰についた警棒を引き抜いて、デカくなるようイメージする。
目を閉じて集中する。
伸びろ、伸びろ…
「やめて!!やめて!!」
目を開けると、警棒の先端にひっかかり、今にも水面に落ちそうになっている神があった。
そして水面には今までどこに潜んでいたのか、しっぽがスクリューみたいになったワニ型のモンスターがヒョコヒョコ顔を出している。
ワニってあんな風に笑えるんだ。
異世界のモンスターは地球の生き物よりも幾分か表情豊かのようだ。
女神の状況は、まるで入れ食いの釣り堀に突っ込まれた餌そのもの。
「縮め!縮め!!」
焦って警棒を元の大きさにまで戻し、ジタバタもがく神の救助を図る。
命からがら俺の手元まで戻ってきた神は恨めしそうにコチラを見やる。
「悪かったって!
目を閉じてて、何が起きてたのか分からなかったんだ!」
「私が過去を覗いたことを復讐したのね!!
口封じしようとでもしたのかしら!?」
「やめろ!!人聞きの悪い!!」
「口封じ…?
やっぱり…警察官になる前に、幼女を……!?」
「そっちじゃねぇよ!想像を膨らませるのを辞めないか!!
普通に面倒見てただけだって!」
「…ボウヤ、ムコーの世界じゃ7、8歳くらいの娘っ子と
結婚するなんてままあることさ…」
「ばあちゃん理解早くない!?」
向こう岸に桟橋が見える。
どうやらあそこに向かうようだ。
早く着いてくれ。
実は前田クンは職場でも幼女に優しいと評判になっています。
誰も直接は彼に話しませんけども。
噂になっています。




