異世界ドライブ
安全運転。
警務課のお姉さんが借してくれた車は、大き目のワゴン車だった。
数年前までは、交通事故処理の車として使用されていたもので、車両後部にその名残として折り畳み式のカラーコーンや、赤色の停止灯が積まれたままになっている。
カラーリングこそ黒色と白色のツートンカラーであるが、パトランプや、『事故』と表示される電光掲示板は屋根部分から取り外され、どこか物足りない見た目をしている。
ローラは、自信満々に運転席に乗り込もうとするが、こいつはどうやらハンドルを握ると性格がかなりハイになる癖の持ち主のようなので、絶対に乗り物は運転させられない。
というか、コイツ免許も持ってない。
運転席を無理やり奪い取るとローラは心底不機嫌そうな顔をしたが、何とか仕事である旨を説明して納得してもらった。
Kinoは、いつの間にか助手席に座っていた。
バイパスが生きていれば、中央区付近までスルリとたどり着くことが出来たのだが、世界の合体があった後、道路の所々がまるで鋭い刃物で切断されたようにきれいな切り口で切断されているらしい。
よって、下道で向かう。
キングホテルというのは、俺が詳しいホテルの序列など知る由はないが、わが県において間違いなく5本の指に入るホテルで、総理大臣だとか、他国の要人が宿泊するときなどによく利用されるホテルである。
客として利用したことはないが、ある意味ランドマーク的な役割も担っており、場所は熟知している。
西に向かって走りながら、様変わりした道のりを観察する。
先ほどまでアスファルト舗装の道路を走っていたかと思えば、急に砂地に出る。
かと思えば湿地のような場所に道がつながる。
魔物とはまた違うのだろうか、角っぽいものが額から生えた犬、ムササビのように高所から滑空する猫、翼の生えた豚なんかがそこらへんに生息している。
ほんとにずいぶん変わったな…
「なあ、世界のレイアウトに苦労したって言ってたが、何かこだわりがあったのか?」
「分かりやすく言うと、気候とかね。
寒いところは寒いところの近くへ、暑いところは、暑いところの近くへ。
ある程度の差は、山とか、川とかを移動させて調整したわ。」
なるほど、日本の隣に南極が来たとしたら、生態系が狂いそうだもんな。
「そうそう、日本は便利だったのよ!
だからワタシ、日本好き!」
「どうして?」
「分かりやすい四季があるじゃない。
それに同じ文化圏にも関わらず、暑いところ、寒いところに分かれていて、調
整がしやすかったのよ。
そんな訳でワタシの『1人共同作業』は日本を中心に行ったの。
日本は新しい世界の首都になるかもしれないわよ!!」
ウキウキしながらそんな事実を伝えるが、出来れば聞きたくなかった。
首都というのは、治安が悪いのが相場なのだ。
認識した途端、首都、という言葉が気になった。
「もう1個の世界にも人はいるのか?」
「もちろん。
人口だけで言えば地球よりも多いわよ。」
なんだかヤな予感がよぎる。
地球の人間だけに限っても、一般人の俺ごときが知る限りいがみ合いが存在しているのだ。
他の世界から来た、なんて人間を素直に受け入れることなど地球の人間ができるのだろうか。
地球に生きた者だからこそ、そこに自信を持つことができない。
そういえば、法律はどうなる?
例えば異世界人は赤信号なんて知らないだろ?
報酬、対価を支払う文化がもしなかったら?
地球側ではその人がやることなすこと全てが窃盗罪になる。
現実はかなり厳しいのではないだろうか。
今現在は、お互いが意味不明な現状に混乱し、善人も、悪人も状況を慎重に探りあっているのだと推測する。
現に動物は見ても、人間の姿は見ない。
おそらく、たくましい地球側は、数日の内に移動局なんかを使用して情報網を確立する。
情報を集約して対策を打ち出すだろう。
「異世界はどんな世界だったんだ?」
「国によって言葉は違うけれどムコーという名前の世界よ。
そして、ムコーの言葉で地球はコチラと言うわ。
ムコーは、歴史が少しだけコチラより浅いの。
国単位で言えば、先進国であっても明治時代の日本くら
いの文化レベルだわ。」
「それって、もう少し待った方が良かったんじゃないの?」
俺と同じ思考を巡らせていたであろうKinoが質問を投げかける。
「例えば、ムコーで1年の月日が経ったとするわ、文化は
その1年分成長を遂げる。
でも、その1年はコチラでももちろん経過するのよ。
差は埋まりっこないわ。
それにコチラの1年は文明が進んでいる分、ムコーの1
年よりも密度が濃いの。
時間が経過するごとに、差は広がるばかりよ。」
なるほど、同じ時間が過ぎるなら言っている通りかもしれない、だが…
「お前がヤケ起こさなきゃこんな苦労生まれてないんだよな?」
「テヘッ!!」
前方に見慣れない大樹がいくつもそびえ立つ。
見渡しの悪い交差点に差し掛かった俺は、『安全確保』のため、後部座席で、舌を出すそぶりをする身勝手な神に強めのブレーキで応えた。
不安全運転。




