おいでませ、また逢う日まで
歓迎とか、人からわかりやすく、してもらえることで自分が愛されているとか、嫌われてないとかわかりますよね。
逆ににそれがないと不安になります。
なんて歓迎だ!!
俺がここで勤務を始めて6年、帰還をここまで喜ばれたことはない。
まさに大歓声、万歳三唱も聞こえてくる。
窓から乗り出して手を振る後輩もいる。
「ハジメさんたら人望あるのねぇ!」
女神が感嘆の声を漏らす。
そんなことはなかったはずだが、そうか、2度の戦闘を経て、警備対象を救い出し、俺は奇跡の生還を果たしたのだった。
言わば、、英雄!!
ありがとう、ありがとう、ははは、そんなに慌てなくとも、俺はこれからも君たちと共にここで働いてゆくのだ。
オイオイ、僕はただの同僚だよ?
特別な存在じゃないのさ!!
「キノー---------!!!!結婚してくれーーーーーーーーー!!」
「キャーー----------!!!!!カワイイー--------------!!!!」
…さあ、駐車場へ向かおうか。
あそこは俺をいつだって、どんな時だって、迎え入れてくれる。
このクソやかましい歓声も、あそこならば聞こえない。
あぁ、そうだ、耳ふさぎながら甘い缶コーヒー買わなきゃ…
「ちょっと!!
ハジメ君何とかして!!」
「いいじゃん、君はさ、そのまま困ってなよ、あははっ!」
「だいぶキャラ変わってるよ!?」
「ハジメさん…
強く生きて…お母さんはいつでも応援しているからっ!」
誰がお前の息子じゃ。
冗談はさておき、報告のため、所長室へ向かおう。
「少しお待ちください。」
警務課のおねえさんに止められてしまう。
「現在、件の警備係官が来られています。」
そいつは丁度いい。
当分来ないと思っていた機会が訪れた。
「…現場の状況は、以上の通りでした。」
「わかりました。
お疲れさまでしたね、笹井管理官。」
「いえ、ねぎらいなど…
私は無力でした。
警備対象も、部下も守れず…」
「うむ、あなたの報告の通りであれば、Kinoさんと前
田巡査のことは残念であった。
しかし、あなたが気に病む必要はないと感じる。
あなたは立派に警備を監督した。
あれほど大規模な地震、草原化などの天変地異が発生し
たのだ。
致し方ない部分もあるでしょう。」
「申し訳…ありませんでした。」
そう言って私は俯いてやや大げさに声と肩を震わせる。
さてさて、後は安全に気を付けて帰るとしよう。
家族は無事であろうか。
コン、コン、コン、とノックが聞こえた。
「入りんさい。」
は?
この男は私が居るというのに他の客を入れ込むのか?
バカめが、やはりこの男はクズだ、ゴミだ。
利用価値がない。
「別のお客様の来られたようですし、私は失礼いたします。」
「いや、待ちなよ。
きっと、笹井管理官も喜ぶお客さんだよ。」
「はあ?」
「前田 一、帰還いたしました!」
まるで体中の水分が沸騰しているような感覚に陥る。
なぜ、お前が生きている?
なぜ、お前が生きた警備対象を連れている?
「前田さんに危ないところを救っていただきました。
前田さんは、命の恩人です。」
KINOが署長に一礼する。
「お前、どうやって…生き残った?」
「まるで、俺が生き残っちゃ困るみたいに聞こえるんです
けど?」
「いや、そんな…」
「うん、前田クンは立派な警察官だ!!
見事だね!!
やはり君に任せてよかったよ!」
署長はそんな風に言っているが、俺にとっちゃあ、この人が諸悪の権化。
今更あんたを信じられるかい。
「さて、笹井管理官からの報告だと、前田クンと、Kin
oさんは即死に間違いなく、
ライブ中、地震の中駆けつけた笹井管理官の目の前で2
名ともステージ下へ落下。
穴の中を捜索中に複数の瓦礫が穴に崩落。
よって君の目の前で死体がすり潰されたと聞いたのだけ
ど?
ほんとはどこまで確認したの?」
ヒデェな!!ろくすっぽ探してねぇくせに!!
つか、おめえ1回も現場来てねえだろ!!
「いえ、しかし、あの状況では、誰もがそう考えて仕方な
いかと…思うのですが…
「前田クン、実際はどーなの?」
「もう、ここに来るまでに報告したいことが山ほどあっ
て!
とりあえずこれ見てもらっていいですか!」
俺は携帯電話を署長に差し出す。
写真アプリからライオンの写真を署長に見せる。
「これは…」
「草原に居た怪物です。
これに向かって1発発砲しました。
薬莢がこれです。」
空薬莢を差し出す。
管理官は呆けているが、署長はすぐに立ち上がった。
「みんな!緊急事態だ!
草原に怪物がいる、数は不明!
草原から怪物が出る可能性がある!草原周辺の配備に付
け!
町中を警らしろ!1人でも人々を救え!
自衛隊にも連絡!電話が通じなければ、直接向かえ!」
連絡役が事態を説明しやすいよう、俺の携帯の画面を写真撮影し、即座に出発していく。
非番だと言うのに招集されていた人員がみな外へ飛び出す。
警察官は、過酷な仕事なのだ。
しかしながら理解の早いこと、偉くなる人って頭がいいよな。
「ありがとう。
情報が何もなかったんよ。
本当に大手柄だよ。」
「いえ、続いてこれを。」
1時間ほどの動画を再生する。
「…警備の失敗は全てあなたの責任です。
…現場にも、来なくて結構。
…必要があれば編集した動画をマスコミに渡します。」
怪物の写真には何の反応もできなかった男が急に立ち上がる。
「なぜこのデータを持っている!!
携帯は没収していたはずだろうが!!
それに…それに私の話す言葉が所々変わっているではな
いか!
これは編集されたものだ!
なんの意味もないものだ!」
スラスラ自白しているけれど、ひとまず無視しよう。
俺は花梅署にたどり着く前、創造力の練習を1つこなした。
マタンゴ: 幻
単純に考えると、そこら辺の通行人にドッキリを仕掛けられるくらいの感覚を覚える。
使って見ないと、どの程度のものかわからない。
マタンゴ本人が俺達に見せた幻は、先に進んでいると思わせ、ずっとその場で足踏みをさせるというもので、とても幻として出来がよく、すっかり騙されてしまったが、果たして…
「やーよ!!
どーして当然のようにワタシが実験台なのよ!?
ワタシあのキノコにはもう関わりたくないの!!」
「だってお前、メタトロンから直々に認められるくらいタ
フなんだろ?」
「今ソレ関係なくない!?」
うーん、確かに少しかわいそうだ。
「そーだわ!!アンタのケータイにかけなさいな!」
は?機械が催眠術にかかるようなものだが、そんなことが可能なのか?
結果は、うまくいかなかった。
当然といえば当然。
機械が騙されてたまるか。
女神に文句を言うと、
「そのまま胞子振りかけてどうすんのよ、カメラONにし
て!
よくイメージして!」
女神曰く、
幻の力は精神のみに影響を及ぼすのではなく、5感全てを支配する。
胞子の1つ1つはいわゆる『画素』の役割を果たす。
イメージするは、人形劇。
登場人物の動き、セリフ、声、表情を描く。
音の類は胞子同士をこすり合わせて表現する。
本当に器用なキノコだ。
場所は、会議室、登場するのは、彼ら。
気持ち気持ちを込めて1つ、2つ…
ふふふ、ふふふふ…
俺にとって印象深いシーンを1つずつ再現していく。
いや、ココはもっとねちっこかったよなぁ…
ムズイなぁ…
力の制御って…
もっと練習しなきゃあ…
「…ネェ、止めた方がいいんじゃないかしら?」
「ローラちゃんが止めてよ、言い出しっぺなんだから!
私は怖くて無理!!」
女性たちが押し付け合いは、俺には聞こえない。
聞いたところ、3時間ほど俺は熱中していたらしい。
しかし、その分傑作が出来た。
およそ1時間の大作ドラマ。
そして、もう1つ。
マタンゴがトイレの…もとい、ローラの頭に根を張った時。
俺達に話しかけてきたことを覚えているだろうか。
あれはテレパシーみたいなもので間違いなかった。
しかし、一般に想像するテレパシーのように思考そのものを伝えるものではなく、対象に思考のニュアンスを、音と、必要があれば画像で伝えるというもので、幻スキルの応用であった。
俺はローラの頭上でふんばるマタンゴの必死の表情を見たが、聞いたところ、Kinoには、満面の笑顔のマタンゴが、
「ヤッタ~!間に合ったぞ~!」
と言っていたらしい。
マタンゴに実は顔が無かったことは死体を見て確認した。
そして、この疑似テレパシー、対象を逆にもできる。
人の心を覗くなんて、胸糞ワリぃ。
こんな使い方するのは、お前が最初で最後だよ。
お前が善人ならそれでよし。
さぁ、吐き出せ、その心を。
願わくば、人々を思う、地域の人々みんなを愛する警察官であることを。
吐き出せ、その心を。




