器用な手先
僕は不器用ですので、器用な人は本当に羨ましい。
空が薄暗くなってきた。
遥かに遠く、バイパスは見える。
しかし、どれほど歩いても近づいている様子がない。
焦ってしまう。
報告すべきことは多い。
先程、俺達が遭遇したライオンは、神が言う所にはモンスターなのだという。
もし警察がまだモンスターの存在を知らなかったら?
被害者が出る前に伝えなければ。
何しろ電話も無線も通じない。
「おかしいな…」
「つかないね…」
「ね〜、ハジメさ〜ん、疲れた〜…」
オメェ体力までねぇのかよ、そろそろ1つくらい褒めさせてくれないかな?
「さっきのライオンがさ、モンスターだって言うならさ、
どっかに幻を見せるモンスターがいるとして、俺たちを狙
ってたりしてたら怖いよな。」
「ウフフッ、面白いわね、そんな奴この草原に居るけどそ
んな訳無いじゃない。」
ん?
今なんて?
「幻を見せる奴…居るの?」
「居るわよ?」
「どんな奴?」
「見た目は大きめのキノコね。
旅人の靴にくっつくの。
あっ、ダジャレじゃないのよ、今の!」
ふと、何故か、足元が気になる。
なんでだろうなー?
アレレ?右足がなんか重いなぁ…
ウラァア!!
思い切り右足を振り抜くと爪先あたりから手のひらサイズの紫色のキノコが吹っ飛んでいく。
「もっと早く言いなさいよ!」
Kinoが流石に頭に来たようで神を怒鳴りつける。
「そんなこと言ったってマタンゴはレアなのよ…
そこらに居るとは思わないじゃない…」
言い訳するローラ目掛けて彼方からキノコが飛んでくる。
そして頭頂部に着地する。
「あぁ…!
ダメ…!!
マタンゴが頭につくと根を張って取れなくなるの!」
ローラに根を張ったマタンゴは、まず眉を寄せていきんだ後、現在はホッとしたような、どこか満足したような表情を見せている。
いや、これって…
「なぁ、このマタンゴ用を足そうとしてないか?」
「エェ!!!?」
どうやらローラの頭に根を張り、そこから老廃物を…いや、彼女のためにこれ以上はよそう。
「イヤーーーーーーーーーー!!!
取って!!!
早く取って!!!!!」
今やモンスターの便所と化した神、即ちトイレの神様はその場でのたうち回る。
なるほど、トイレの神様は美人だったよな。
マタンゴを外そうと近づいて観察する。
確かにガッツリ根を張っていてすぐさま取れそうにない。
頭に声が響く。
「ケケケッ!
この女はもうオレの便所さ!!
無理に外せば死んでしまうぞー!
もう一週間以上便秘なんだ!
頭ん中に全部ぶちまけてやる!!」
この声は幻の一種だろうか、中々物騒なことをこのキノコが考えていることが伝わってくる。
「イヤーーーーーーーー!!!!!」
ローラにも聞こえているらしいな。
なんとかならないか、キノコの傘の部分を掴む。
「ムダさ!
無理に外すとお陀仏ダゾ!!
…アレレ!?」
あまりにも抵抗を感じなかったので思わず頭からキノコをむしり取ってしまった。
張っていた根も綺麗に取れている。
「 夢叶い
用を足したる
キノコかな 」
ローラは頭からキノコが取れたことに気づかず辞世の句を詠んでいる。
どうやら根を張る攻撃はマタンゴにとって命をかけた一撃らしく、マタンゴは絶命したようだ。
Kinoがなんとかローラを落ち着かせ、ローラが絶命したマタンゴに踏みつけの一撃を加えたところ、マタンゴから爆発的に胞子が舞い上がる。
胞子の霧が収まった時、目の前に広がった光景はすぐ近くにまで迫った花海署であった。
安堵の気持ちが込み上げてくる。
ひとまずなんとかなりそうだ。
「でもなんであんな簡単にマタンゴが取れたのかな?」
「ワタシの加護のおかげよ!!
ハジメさんたらちゃんとワタシの話を聞かないんだか
ら!!」
「手先が器用って、こういう風になんでも取り外せると言
う意味なのか?」
「だけじゃないの!
実際に触って見たことは大概マネ出来る様になるのよ!
それらは全て、この世界に存在する事象なのだから。」
「毎回毎回とんでもないこと言い始めるなオマエは!?」
まぁいい、今はここまでたどり着けたことに感謝しよう。
そして、無事帰れたならばキチンとトイレ掃除をすることにしよう。
トイレの神様はどうやら実在する。
器用過ぎませんかね?




