始まるこれから
ファンタジーと言えば僕の中では、翼を持ち、ある時は頼れて、ある時は敵対するアレですよ!
ローラの住む団地の一室は、今や巨大なエレベーターと化していた。
音から察するにジェットエンジンとかで上昇しているのではないか。
爆発的な重力に捕らえられたkinoは、床に胸を付けたまま動けない様だ。
ローラと手錠で繋がれたままの俺は、今にも手首がちぎれて飛んで行きそうだ。
コイツの手首鉄かなんかでできてんのか!?
「イダダダダダダ!!
止めろ止めろ!」
「ワタシ今、風になってる…!
仕事も婚期も、今だけはワタシを縛れない…!」
コイツハンドル握ると人格変わんのか!?人間クセぇなお前!!
神の気分転換に巻き込まれた哀れな人の子は、無力にも叫び続けることしか出来なかった。
具体的な速度は分からないが、かなりのスピードが出ていたはずの団地エレベーター。
にもかかわらず地上に着くまでは10分程度を要した。
体感は永遠にも感じられたが。
どれほど深い位置まで落ちていたのか。
チーンッ
という小気味いい音が鳴り、地上に到着したことを知らせる。
なぜ神の文化がここまで現代にかぶれているのか。
追求する元気もなく、俺はローラから手錠を外して、虚ろに出口へ向かう。
「ドアを開ければ花海町の震源地に出るようにしたわ!
ちょうどアンタ達が落ちてきた所あたりよん!」
心なしか肌ツヤの良くなった神は明るく言い放つ。
クソ、元気いいな…
疲弊の原因に腹を立てながらドアノブを回す。
外は崩壊したライブ会場のはずだ。
あぁ、そうだ、Kinoに足元や、倒れてくる瓦礫に注意する様伝えなければ。
振り返りながらドアを開ける。
俺が警戒を促そうとすると、Kinoはドアの先を見ながら驚愕の表情を浮かべている。
「ん?なに?」
俺もドアの先、後方に気にやると、どうにも気温の変化を感じる、というか、熱風が吹き込んでくる。
なにか、湿気を含んだ風。
それもたまに火の粉が視界に入ったりなんかして。
あぁん、振り返るのが怖いぃ…
ゆっくり振り返る。
「でっかいトカゲーー!?」
「失礼なヤツだなぁっ!!オマエ!!
この優美な姿のどこがトカゲっつーのよ!?」
ドコカノオオトカゲはそう言うと、覗き込んでいた顔を引っ込めた。
すると、ドアで制限されていた視界に、その姿の全貌が明らかにる。
光沢のある、赤みがかった黒色の体躯。
しっかりとした、しかしシャープな胴体から長めの足が4本生えている。
その背中にはその体を浮かせるだけの用途であれば充分に過ぎるほどの巨大な翼。
その尾は見るからにしなやかで、ほんの少し力を入れただけでビュンビュン跳ねている。
「ひょっとしてドラゴンの方ですか…?」
「ドラゴンもちげーわ!!
世間知らずかオメェ!?
近所になったからってぇ、せっかくこっちから挨拶に来
てやったのにー!!
チョー不愉快なんだけど!!」
えぇ、絶対に正解だと思ったのに…
「もーオマエ、あーしの敵認定したからっ!!」
ミルカラニオオドラゴンはプイッとそっぽを向いてしまった。
参った、こんなモンに目をつけられたら本当の意味で生きていけない。
「申し訳ありません、コチラの勉強不足です。
私共は、あの、、向こうの方からコチラの方にいきなり
来まして…
状況が全く分かっていないのです。」
焦ってメチャクチャな誤魔化し方をしてしまった。
我ながらなんだよ、向こうだの、コチラだの…
しかし、絶対的強者の前では、平謝りするしかない。
するとドラゴン(仮)は、いきなり前足を顎の方に当て、思考を巡らせ始めた。
「ほー、なんだよ、自分の状況わかってんじゃん。
割と賢くて驚いたなー。」
なんか、感心させてしまった様だ。
「でも、言い間違いは良くないゾ!
オマエ達はコチラからムコーに来たんだろ!
ご近所さんになったんだから、あーしに緊張しなくて良い
んだゾ!」
言葉の意味を考えるが良く分からない。
「今日はもう帰るからな、他にも回らないとだし!
コレはお近づきの印だからな!」
ドラゴン(仮)は満足した様に翼を広げ、羽ばたきに気づいた時にはもう姿が見えなくなっていた。
そしてドラゴン(仮)がいた場所には金塊が1つ。
金塊とはまさしく金塊で、テレビで見る様なインゴットではなくゴツゴツとした、両手で抱えないと持てない様なシロモノだった。
ファンタジーすぎて何がなんだが分からん。
恐らく過ぎ去ってくれたであろう大ピンチに安堵して今更腰が抜けて立てなくなる。
「大丈夫!?」
Kinoが駆け寄ってくれる。
「なんとか…」
「無事で良かったわね!」
先程まで押し入れの中に身を潜めていた神は俺を労う。
手錠に手をかけながら近づくと、ローラはヒラリと身を翻して率先して外に出る。
「でも、コレで信じてもらえたんじゃないかしら?」
「ここはもうアナタ達の今までじゃないのよ!」
ドラゴンじゃないの?




