お泊り会①
ボクの家に着くとふたりはすぐにボクの部屋にいった。
「ちょっと〜手洗ってよ〜」
2階に届くように声を張る。ふたりはボクの家に来ると、すぐにボクの部屋に行く。手も洗ってくれない。
「わかったよぅ遥ママ~」
「ママ言うな」
「でもいまは女の子だからママでもいいでしょ〜」
葵はそう言ってからかってくる。いつものことなので軽く受け流す。
「ねえ、ふたりは夜ご飯何食べたい?」
ボクの両親は共働きで夜遅くまで帰ってこない。小学4年生の頃から続けている家事にはそれなりの自信がある。
「ラーメン」
「お昼食べてたよね」
「ハンバーグがいい!」
「はい葵はハンバーグね。和人は?」
「ラーメン」
「...インスタントだよ?いいの?」
「じゃあ...オムライス」
「はい、オムライスね。ボクは何にしようかな」
考えながら時計を見る。今は4時か...
「ふたりとも、夜ご飯7時ぐらいになるけど、いいよね?」
言いながら冷凍庫からひき肉と鶏むね肉を出す。
「そういえば、海斗くんは?」
「野外活動だって」
「えーと、キャンプファイヤーとかするやつ?」
「そうそう」
海斗は5年生だ。今はオリエンテーリングが終わったくらいかな?
ボクの野外活動は、友達が頭突きで薄い天井を突き破ったり、隣で寝ている子が、「呪いの文字が書いてある」と泣き続けたり色々と大変だった。
お米を研いで炊飯器にセットする。準備完了だ。
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「一体ふたりはボクの部屋でなにをしてるのかな〜」
ボクは階段を上る。部屋に入ると葵が
「ねえねえ、これなんてキャラクター?」
と訊いてきた。ボクのパソコンを勝手に開いて見つけて来たんだろう。趣味で描いてる絵を見られるのは、親友でもすこし恥ずかしい。
「...オリキャラだよ」
ボクは恥ずかしさを誤魔化すように、そっけなく答えた。
「なあ、ゲームしようぜゲーム」
「うん、そうだね」
和人が出してきたのはテレビと繋げることのできる携帯ゲーム機だ。今からしようとしているゲームは、対戦型のパーティゲームだ。自慢でもないが、ボクはこの中で一番強い。ベク変も知らない者に負けることはない!
携帯ゲーム機をリビングに持っていく。
「あ」
ボクは宿題のことを思い出す。今日は土曜日なので特別焦る必要もないが、問題は和人だ。
「ねえ和人、宿題は終わったの?」
ビクッと和人の肩が跳ねる。
「...いや晩飯を食べ終わってから遥にゆっくり教えてもらおうと思ってな...」
「はあ...まあいいけど」
和人は地頭はいい。しかし勉強を全くしないので、いつもボクが懇切丁寧みっちりと見てあげている。まあ一緒にいるだけで楽しいからいいんだけどね!
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ボクは1時間ほどゲームをしたあと、すぐに夕食の用意に取り掛かった。
ええと...葵がハンバーグで、和人がオムライス...ボクはカルボナーラにしようかな。お母さんたちはハンバーグでいいよね。
ちょうど2時間かけて夕食が完成した。我ながら好タイムだ。見た目も悪くない。
ふたりともたくさん「おいしい」って言ってくれて満足満足。
「さて、お風呂だけど...誰が最初に入る?」
「じゃあわたしが入る!」
「おっけー」
「じゃあ和人は...宿題だね」
ボクはにっこり微笑む。
「お手柔らかに、お願いします...」
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そうして葵はお風呂に入り、ボクと和人は宿題をしていた。
...さっきから、和人がこちらをチラチラと見ている。主に、胸を。見られてるって、こんなにわかるんだ...
「ねえ、和人...そんなに気になる?ボクのおっぱい」
「んなっ!いやまあそりゃあ気になるけどよぉ...」
やっぱり。和人も集中できてないな...よし。
ボクは勇気を振り絞った。今のボクは女の子だ。つまり、和人の恋愛対象...なはず!
これは...チャンス!
「そんなに気になるなら...和人だったら...いいよ...」
「.........」
和人の息が荒くなる。和人の手が近づいてくる...ボクは目を瞑った。声を我慢するために唇を強く噛み締める。
「ん...//んふっ...//はぁ...//あんっ...//」
やっぱり、声を我慢できるわけ...ない!
ボクの息も荒くなる。和人は一言も喋らずに、夢中でボクの胸を揉んでいる。
「あんっ...//やっ...//」
こんな声を出すのは少し、いやかなり抵抗があった。
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どれくらい時間が経ったのだろうか。股が濡れている...ビシャビシャだ。
「もうすぐっ...//葵がっ、あがってきちゃうよぉ...//」
「っ!ごめん...」
「いいよ...あっ、葵お風呂上がったみたい。じゃあボク...お風呂入ってくるねっ」
ボクは逃げるように部屋から出た。
ボクは脱衣所へ駆け込んだ。そこでは葵が髪を乾かしていた。そしてボクを見るなり、
「ははぁ〜ん、随分と盛ってたんだね...//ビショビショじゃん...//」
「いやっ、これは、ちがうの...水を...こぼしちゃって...」
「喋り方まで女の子みたいになっちゃって...そんなに、気持ちよかったんだ...?」
葵の言葉にはいつものようなからかいのニュアンスは無く、純粋に感想を訊いているんだとわかった。だからボクは、無言で頷いた。
「よかったじゃん...好きだったんでしょ、和人のこと」
そういって葵は出ていった。なぜか後味が悪くて、堪らなかった。
なぜかビショビショだったパンツを脱いで、洗濯機に放り込んだ。
もう何分こうしてるんだろう...ボクは湯船に浸かりながら天井を見つめていた。
葵が出ていく間際に見せたあの横顔には後悔と落胆の色が見えた。あれはボクに対する何らかのサインなのだろうか。
しかし、そんな思考もまどろみの中へと溶けていく。今日一日いろんなことがあったから疲れているんだろう。そう考えて、ボクは睡魔に抵抗することをやめた。
...溺れちゃうかも。
ぼくもお泊り会したいです。