女の子も楽しい
ボクはわかっていることと考えていることをふたりに伝えた。
わかっていることは、ボクが女の子になってしまった原因は不明だということ。
...なんもわかってねぇな、こいつ,,,
そしてボクは、「このまま生きてみたい」と伝えた。ふたりはキョトンとしていたが、ほどなくして「「は?」」という答えが返ってきた。仲が良さそうでなによりです。
ボクは女の子になりたいと思っていたことを伝えた。
「なんで?」
和人は顔を赤くしながらボクに訊く。怒っているのだろうか。でも、言えるわけない。君が好きだから、なんて。絶対に。だから代わりに、
「それは、言えない」
ボクはきっぱりとそういった。言ってしまったらボクたちの関係が終わってしまいそうだった。ボクはそれが怖かった。
すると、ボクの声に違和感を感じ続けていた(と、思われる)葵が、口を開いた。
「とりあえず、服、どうにかしよっか」
そう言われてボクは視線を落とした。肩からシャツがずり落ちていて、胸が見えてしまいそうになっていた。
「ああ、だから和人顔赤いんだ〜このこの〜」
ボクはからかう。和人は無言でコクコクと頷いた。ボクはふふっと微笑んだ。ボクが今日初めて見せた笑顔に、葵はキョトンとしていた。和人はさらに顔を赤くしていた。そんなふたりの様子がなんだかおかしくって、ボクは笑った。
「ねえ、一緒に服見てくれない?」
ボクは言う。
「わたしが元男だなんてわからないくらい可愛くしてあげるよ!」
葵はそう言ってくれた。どうやら、ボクの意思を汲み取ってくれたようだ。和人はまだ納得がいっていないようだった。
「ねえ、和人は信じてくれないの?」
ボクは不満さを前面にだして和人に訊いた。
「...いや、信じる」
和人はそう言って立ち上がった。ボクと葵がぼーっと和人を見ていると、
「服買いに行くんだったら早く行ってついでに遊ぼうぜ」
と、和人が言った。ボクは和人に抱きついた。
そういうさりげないかっこよさが好きなんだよ!
「ちょ、ま、離れろって!なんかいろいろやわらかいから!」
ボクは胸を強く押し付ける。すると和人はさらに顔を赤くする。
ああ、いつもこうやって抱きついてたっけ。
そんなボクたちを、葵はどこか寂しそうな顔で見ていた。
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ボクたちは少し遠いショッピングモールへと向かった。
ショッピングモールに着くと、すぐに2階へ連れて行かれた。女性用の服や下着を売っているところだ。
ねえなんか恥ずかしいんですケド...ボクは目で葵に訴えるけど葵は気にする様子もない。和人はキョロキョロと周りを見ていた。傍からみれば挙動不審のヤバいやつだな...
「遥可愛いからなんでも似合うと思うんだよね〜」
「...ボクのこと、着せかえ人形かなにかだと思ってない?」
「そんなことないよ〜?」
そんな会話をしながら服を選んでいた。
ボクは「そんな女の子っぽくなくていい」と、ふたりに言ったが...いま着替えているものはどれも可愛らしいものばかりだ。
「遥のこと、どう思う?」
「わたしは、女友達ができたみたいでたのしーよ」
うすいカーテン越しにふたりの会話が聞こえる。そうだ、学校どうしよう。ふたりの会話を聞きながら、ボクはそんなことを考えていた。
「この次どーするー?」
「とりあえず飯食お、飯」
ふたりの会話はこの後のことにレイシフトしていた。うん?なんでタイムトラベルしてんだ?というか言葉を疑似霊子転移させるってなに?そんな事を考えながら今日の昼食をなににしようか考える。ボクって凄ぇ!同時に2つのことを考えるなんて!
そんなくだらない茶番をしていると手が止まった。
ん?...ブラのホックってどうやって付けるんだ?
ボクは顔だけ出して葵に助けを求めた。
「ふえぇ...葵〜ブラつけるの手伝って〜」
「えぇ...まあ最初はわかんないよね...いいよ、中入るね」
そして葵は入ってきて開口一番、
「きれい...ほんとに女の子になっちゃったんだ...」
と、つぶやいた。
「男に向かってきれいはないよ」
「だってほんとにきれいなんだもん」
「いいから付け方おしえ...ひゃん!」
「おっ、いい反応」
「やめてぇ...んあっ...ほんとにやめてぇ...」
「ホントきれいな体してるね...胸もおしりもいい形...」
葵はずっと胸を揉んできた。自分で触るのよりも数倍の快感が押し寄せてきた。
葵はボクの胸をひとしきり揉んだあと、満足したのか試着室から出ていってしまった。
結局教えてもらってないし...仕方がないので自力で頑張る。お、つけれた、のかな?
それからボクは数着の服を着た。ワンピースやレースなど、本当に可愛らしい服ばかりだった。
案外、似合ってるんじゃないかな?
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フードコートでハンバーガーを食べていると、和人がこう言った。
「おまえら、すげえ見られてたぞ」
「えっ、...じゃあボクの恥ずかしい声も聞かれてたってこと?」
「バッチリ」
「...恥ずかしい」
おもわず手で顔を覆ってしまう。ああ...恥ずかしくて死にそう...しかも、よりにもよって、和人に聞かれてしまうとは...
「でもほんとにきれいで可愛かったよ?」
「フォローになってないんだよ...それ」
そんな会話をしながらもぐもぐしていると、突然お腹がいっぱいになった。しかし、コーラやポテトが残っている。どうしたものかと考えていると、だいぶ前にラーメンを食べ終わっていた和人が、
「遥、それ食べないんだったらもらっていい?」
と言った。ボクはすこし恥ずかしくて、照れながら渡した。
「サンキュ」
そう言って和人はボクが口をつけたコーラを飲む。ボクの心臓が暴れる。間接キスなんて何回もしているはずなのに、今まで以上にドキドキする。
ボクは、恥ずかしさのあまり俯いていた。そんなボクをからかうように隣の葵は言う。
「遥、照れてんの〜?ねえ和人、遥、あんたと間接キスして照れてるよ」
「んな?!違うし!ただちょっと恥ずかしかっただけだし...」
ボクは顔を真っ赤にして反論したが、和人と目があってまた俯いてしまった。
声も小さくなって、これじゃ照れてるってバレバレじゃないか...
そんなボクの様子に、和人は照れ、葵はふふっと微笑んでいた。
ボクたちは昼食を食べてゲームセンターに向かった。
和人がクレーンゲームでふかふかのくまのぬいぐるみを取ってくれた。ボクがだいぶ前、具体的には1年生の頃、「ぬいぐるみが好きだ」と言っていたことを覚えてくれていたようだ。うん、可愛い趣味してるねボク!
ボクはぬいぐるみをもらったことよりも、そんな些細なことを覚えてくれていたことが、たまらなく嬉しかった。
ボクたちはめいっぱい遊んで帰路についた。
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「今日は楽しかったね〜」
「目が覚めたら女の子になっててびっくりしたけど、女の子もいいね」
「でしょ〜?」
「俺は肩身がせまかったけどな」
「知らない人から見たら両手に花状態だもんね」
「花って自分で言うんだ...」
そんな会話をしながらボクたちは歩いていた。
ああ、明日目が覚めたら男に戻ってるんだろうか...嫌だな。
「...ふたりとも、このあとと明日、暇?」
「暇だけど」 「暇だよ〜」
「じゃあさ...ボクの家に来ない?今日親も弟も居ないから、なんでもできるよ」
ボクはまだふたりと話したかった。
「俺はいいぜ」
「わたしもたぶん大丈夫だよ」
「じゃあ決まりだねっ!」
ボクははにかんだ。今日は朝まで語り明かそう。
テストが終わり、夏休みに入ろうとしている...
部活の大会やだな。遠いな。某ウイルスのせいでなくなると思っていたのに...
高校では部活に入らない。絶対に。運動部は特に!