いつもと少しだけ違う日常
少しだけ違うのに「日常」っておかしいかな?
返ってきた言葉は、「なに言ってんの?」だった。あぁんひどい...
ボクはことのあらましを和人に伝え、「とりあえず今からそっちいくね」と書き足す。「葵も呼んでいい?」と訊こうとしたけど...まあいいよね。
和人と葵とは中学に入学すると同時に知り合った。部活が同じだったのだ。
「古典部」というボクが好きなアニメに登場していた部活だ。ふたりもそのアニメが好 きらしい。京濱アニメーション、略して京アニ、作画がとてもきれいで内容も面白いものばかり!学校から帰ってから見ていたら、気づいたら朝!ヤッベ宿題やってねぇ!なんてこともある。あるよね?
しかし、「古典部」には先輩の姿はなかった。一応在籍はしているらしいが...
いわゆる幽霊部員というものだ。ボクたち3人はお菓子を食べながら談笑したり、勉強をしたり、ときには携帯ゲーム機をこっそり持ってきて遊ぶこともあった。
しかし、部活は同じでも1年生のとき葵と同じクラスになれず、2年生のとき和人と同じクラスになれなかった。
そして、3年生になった今!3人とも同じクラスになれたのだ!
ボクたち3人は、ひとつのグループになっていた。学校でもよく一緒に話している。
テスト前になるとそれぞれの家に集まって勉強会をする。そのままお泊り会に突入することもあった。
今まであったことを懐かしく思っていると、「OK」と一言、返事が返ってきた。
よし!と気合を入れて服を着替え始める。
先日まで男だったボクは、当然女の子の服なんて持っていない。下着もない。
とりあえずパジャマを脱いだ。そして部屋にあった鏡で自分の裸を確認する。
もともと細かった腕や足は、触ると折れてしまいそうだった。
からだは丸みを帯びていた。胸はきれいな形をしていて、お尻も可愛らしかった。
そして、元男...童貞だったボクには刺激の強いモノがあった。ただ、刺激は強いがあまり興奮しなかった。ボクはソレに触れてみた。おっぱいにも負けないやわらかさがあった。
そしてその奥にあった少し突っ張っていたものに触れてみた。
すると、電流が走ったような感覚があった。からだがビクッと反応してしまう。思わず声がでてしまう。自分の口からこんな声がでるのかと驚いた。
そしてこの感覚...快感にはまだ上があることを、ボクは知っている。服を着替えている間、「もっと強い快感を味わってみたい」ということだけを考えていた。
「あれを...挿れてみたい」と考えていた。どう和人たち説明するかも考えずに。
すると突然、胸から軽い痛みが来た。シャツに乳首が擦れたのだ。
ああこれ...ずっと痛いヤツじゃん。でも、借りたくないし...
「母さん、絆創膏ってどこにあるの〜?」
どうしようもなく痛かったので胸に絆創膏を貼ることにした。
「うっわエロ...」
そんな感想が漏れてしまうくらいにエロかった。
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家の玄関を出る。表札には「皇」と書かれている。ここ皇家から東雲家まで歩いて20分ほどだ。
いつもは自転車で行っていたが、今日はだぼっとしたシャツとパーカーしか着ていない。ブラなんてつけてない。
そんな姿で自転車に乗ったら絶対寒いに決まってる...
というか、ちょっとした振動で服が肩からずり落ちてしまう。何なら今も少し肩が見えている。
「...寒ぅ」
こんな寒かったっけ?もう5月の中旬だよ?後輩できちゃうよ?...古典部には来なかったけど......
ボクはシャツを肩に掛け直す。
こんなに可愛らしい女の子がなぜ無防備なんでしょう?答えは簡単!服がないから!
母に借りるという手段もあったけど、抵抗があったから借りなかった。
「...はあ、今日絶対にみんなで服買いに行こう」とボクは誓った。
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やっとついた...30分ぐらいかかった...
ボクはインターホンを鳴らす。思っていたよりも時間がかかってしまった。
歩幅がせまい!身長が縮むとこんなに歩幅が変わるのか...
そうこうしているうちに玄関がガチャリと開く。
「...どちら様ですか?」
出てきたのは和人だった。
「...遥だけど」
「...まじで?」
「...うん」
「なんかちっちゃくね?お前もともと165ぐらいあったよな、10センチぐらい縮んでるぞ?」
「そうなんだよ...歩幅も変わってここまで来るの時間かかった...」
「ふうん...とりあえず中入って。遥かどうかはもっと話してから決める」
「ええ......もうとっくに認めてもらえてると思ってたよ...」
ボクは部屋に入れてもらった。毎日のように...いや、週に3回のペースで訪れていた部屋なのになんだか違う部屋のように感じてしまう。
部屋を見回していると和人と目があった。どきん、と心臓が跳ねる。お互いに無言になる。
和人の部屋は沈黙に満たされていた。沈黙に耐えかねたボクは口を開いた。
「えっと...こうなっ...」
ピーンポーンとちょうどインターホンが鳴った。
和人が玄関まで向かう。たぶん葵だろう。
「せっかく決心がついたのに...」
と小さくつぶやいた。
部屋に入ってきた葵に恨めしげな視線を向ける。
「おじゃましまーす...うっわ遥ほんとに女の子になってる!可愛いなあ!」
と言って葵は笑う。つられてボクも笑う。それにつられて和人も笑う。
ああ、ボクは本当に友達に恵まれている。ボクの変化をこうやって笑い飛ばしてくれるのは、本当に嬉しかった。
ボクの性別が変わってもボクはボクのままだ、とそう言ってくれているように感じた。
まあまだ和人は半信半疑みたいだけどね!
ボクたちはひとしきり笑ったあと、目に溜まった涙を拭って、落ち着いてから話を始めた。
テスト前
勉強しない
最上川