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第4節 『悪魔が生まれた日』

少し、遅れましたが、一応目標達成ということで、大目に見てください!!

牢獄の壁に吊るされた上半身裸の青年にフルフェイスのマスクで顔を隠した屈強の男が鞭を振るう。

モジャモジャな黒髪は自身の血が付着し固まったのかさらに酷い事になっている。

顔は殴打によってボールのように膨らんでいた。

剥きだしになった上半身には、内出血によってできた青痣が無数にできていた。

通常の人間なら、心が折れ犬のように従順になっていたことだろう。

だがーーーーー


「・・・・・・」


「なんだ、その眼は!!」


青年の眼からはそういう気概は感じられない。むしろ、隙があれば殺してやるという殺気すら感じる。

その証拠に青年が血が混じった唾を男の頬ーー正確にはマスクーーに吐く。


「この糞餓鬼!!」


青年の態度に業を煮やした男が鞭を投げ捨て、傍の荷台からハンマーを掴み取る。


「『スカ』の癖に調子に乗んじゃねー!!」


そのまま青年の頭蓋を殴りつけた。

傷だらけの青年ーーー雨宮魁人は悲鳴を上げる。


「がっ!?」


だが、魁人の瞳から反抗心は消えず、そのことが男の機嫌を逆なでした。

















「ちっ!なんなんだ。あの糞餓鬼!!」


魁人を4時間も痛み付けていた男が、唾で汚れたマスクを乱暴に休憩室に配置された机に脱ぎ捨てる。

そんな彼に、鼻髭を蓄えた白衣の男が自慢の鼻髭を手入れしながら答える。


「はは、全く大した根性だな。他の16人はもう心が折れてしまったというのに、未だに心が折れていない」


「そうだな。やはり身体の耐久性が上がると心の強度も上がると言う事なのかもな」


そんな彼に賛同するように、研究データが記載された書類を読んでいた眼鏡の男が顔を上げる。

そんな他人事のような態度に男が苛立ち気に机を叩く。


「だとしても、もう6日だぞ!!考えられる責め苦を与えたのに、未だに反抗心が剝き出しなんて正直気味が悪い!!」


「だろうな。拷問官の君には同情するよ」


他人事のように笑う眼鏡の男に、男がギリっと奥歯を鳴らす。


(この腐れインテリが!!)


「・・・・で、まだ移植する魔獣が決まらないのかよ」


「そうだね。君の拷問にも耐えたことでも分かるように、彼の身体の耐久性は他の『スカ』とは格が違う。正直、底が見えない。だから、どれを移植するかかなり迷っているんだよね」


眼鏡の男が魁人の耐久性を記載した紙資料に目線を戻し、顔を歪める。


「そんなに強い肉体なら、『あれ』を移植すればいいだろう」


「『あれ』の力は他の魔獣と違って群を抜いている。下手に移植したら、魔獣の圧力に耐えられず少年の身体が壊れてしまう。そうなったら、『あれ』も近年稀に見るモルモットも失ってしまう。かといって、『あれ』に耐えられる逸材が今後も現れるとは限らない」


「じゃぁ、あの少年だけまだ耐久試験を続けるのか。上から急かされてるんだろ」


「そうなんだよね。ホント、どうしよう」


「全くだ。現場の事情を知らず勝手な奴らだ」


三人の男たちが同時にハァと溜息をつく。そんな彼らに声が掛かる。


「そのことだが、朗報だぞ」


「「「所長」」」


煙草を咥えながら、休憩室に入ってきた浅黒の肌にグラサンを掛けた男ーーーーこの研究所の所長が口を開く。


「戦況がバチバチな今、ゆっくり検証している暇はないから、とっと『悪王』を移植しろだとさ」


「簡単に言ってくれるね。希少なモルモットと魔獣だというのに」


「上もそれだけ切羽詰まってんだよ。何せ、他の二国とバチバチだからな」


その理由に三人が渋々といったように肩を竦める。


「というわけで、耐久試験はこれで打ち切り。明日、悪王『アジ・ダカーハ』の移植手術を開始する」


そんな三人に命令を下した。





















「・・・・・よう。今日は随分と遅かったじゃねーの。寝坊か。それとも便秘か?」


いつもなら無理やり起こされるのに、今日は魁人の方が先に目を覚ましていた。

そんな軽口に対して、拷問官の男がフンと鼻を鳴らす。


「そんな軽口がいつまで続くかな」


「あぁ゛」


「耐久試験は昨日で終了し、今から移植手術を行う」


「!!?」


その言葉に魁人が腫れあがった瞼の痛みを忘れて目を大きく見開く。


「・・・・・まさかと思っていたが、お前が必至に耐久試験を耐えてきたのは、化け物になりたくないが一心だったんだな」


「っ!?」


「へへ、ようやく心が折れたようだな」


下ひた笑みを笑みを浮かべる拷問官。

そんな彼を他所に、魁人の脳裏に絶望(・・)がよぎる。


【あー、あー】


【完全に壊れてますね。使い物になるんですか?コレ】


【激痛と変貌した自身の肉体にショックを受けて、人間としての機能が一部壊れただけで、廃人になったわけじゃねーから問題ねーよ。つっても、魔物の残留意識に乗っ取られてるから、意思疎通はできないがな】


それは、牢屋の前でこの世の物ではない姿に変えられた親友たちの姿。


いつかは来ると思っていた。

だが、それは耐久試験で限界値が知れるまでは来ず、それまでは人間でいられると思っていた。


(見ず知らずの誰かが助けてくれると期待していたわけじゃない。だけど、あんな化物になるぐらいなら、死んだ方がマシだ!!)


「おら!行くぞ!」


あまりの恐怖に魁人の視界がぐらつくが、そんなこと知ったことではないとばかりに拷問官が魁人の髪を掴もうとするが


「い、嫌だ!!あんな化け物になりたくない!!」


魁人がその手を振り払い、拷問官を押しのけて牢屋から出ようとするが


「がっ!?」


腹に激痛が走り、その場に倒れ込む。


「手間取らせるなよ」


「い、いやだ・・・・俺は・ば・・・けも・・のに・・・・」


必死に情けなく懇願する魁人。だが、魁人の必死の願いは届かず、魁人は手術室へと連行された。
















なんだ?これは?


どうして、こうなった?


この世界に転移されて、この疑問が浮かんだのはこれで何度目だろうか?

異世界召喚と言えば、神様からチート能力を繰り広げ、俺TEEE!!を行い、美少女たちとハーレムを築くことだろう。


だというのにーーーーーー


(いくらなんでもこれは、あんまりだろう!!)


見慣れない白い天井に怪しげな白いローブ姿の男たちが、ベットに拘束された魁人をまるで実験動物を見るかのような眼で見下ろしてくる。


「んんー!!んー!!んーーーーーーー!!」


(嫌だ!嫌だ!死にたくない!死にたくない!)


いつものように人なら絶対に向けられない視線を向けられるが、心が折れてしまった魁人にその恐怖に耐えられるわけもなく、必死に抵抗する。

そんな彼を他所に、白ローブの一人が黒く濁り何処か禍々しい液体が入った注射器を取り出す。


「それでは、只今より悪王『アジ・ダカ―ハ』移植実験を開始します」


「ん~!!んーーー!!」


(やめろ!俺は化け物になる為に、異世界に来たんじゃない!!)


「コイツ、まだ抵抗するか!」


「おい、大人しくしろ!!」


「取り押さえろ!!」


「んーーーうーーーんーーーーー!!」


(はーーーなーーーせーーー!!!)


ベルトと鎖で拘束されても尚、身を捩って抵抗する魁人を白いローブの男たちが抑えかかる。


「では、対象に成分を注入します」


「んーーー!!んーーー!!」


「コラ、大人しくしろ!!」


(俺が夢見た異世界はこんなんじゃない!!俺が異世界に憧れたのは、俺が物語の主人公のように活躍できると思ったからだ!!)


だが、そんな嘆願が届くはずもなく、男は魁人の右腕に針を刺し、液体を注ぎ込んだ。

そして、液体が全部入ったと同時に、ドクンッ、と体全体が脈打ち、魁人の全身に激しい痛みが襲い掛かる。

まるで体の内側から何かが浸食しているような悍ましい感覚。


(熱い!熱い!!なんだこれ!!まるで、骨が!!肉が!!生きたまま溶かされているみたいだ!!)


猿轡越しに声のならない悲鳴を上げながら藻掻き苦しむ魁人を他所に


「全員、結界内に退避!!対象が疲弊した瞬間、『従属の首輪』を付けて服従させる!!」


白ローブの男たちが部屋から一斉に退避していくが、魁人にはそれを気にする余裕はない。

眼球内の血管がキレたのか、それとも瞼が破けたのか視界が赤く染まり始める。

だが、そんなことは魁人にはどうでも良かった。


(ふざけんな!!なんで俺が・・・・俺たちがこんな目に会わなければならないんだよ!!)


あまりの激痛に魁人が、無意識に猿轡を嚙み砕き、その拍子に破片で唇と口内を切ってしまうが、現在進行形で激痛を感じている魁人にはどうでもよかった。


「あぁぁぁぁぁ!!!」


痛みに耐えられなくなったのか、魁人が容易く(・・・)ベルトと鎖を引き千切る。

その拍子に、ベットから転げ落ち、床に頭を打ち付ける。

床を転げまわりながら、終わりのない地獄を味わい続ける。


「痛い!痛い!痛い!痛い!」


叫ぶ魁人の体に変化が現れ始める。

この一週間味わってきた拷問より遥かに苦しい痛みのせいかそれともアジ・ダカーハの肉を取り込んだせいか、魁人の強い癖毛が直毛になる。

続いて、切られ続けた筋肉と折れ続けた骨が壊されないように、徐々に太くなっていく。

最期に、損傷し続ける皮膚を守るように黒鱗が体中を覆い始める。

そうやって、自身の体が、人ではない何かに作り替えられていく光景に、魁人は恐怖する。


(嫌だ。化け物に成り下がって、コイツらの道具になんてなりたくない!!)


その恐怖が痛みに打ち勝ち、自身を覆う黒鱗を両手で剥ぎ取る。


「ガァァァァァァ!!」


声にならない絶叫を上げながら、鱗を剝ぎ続ける。

だが、それを嘲笑うように黒鱗が魁人の体を覆いつくす。

犬歯が牙になり、恐竜のような腕に変貌していく魁人とそれを安全地帯から興味深そうに見詰める白ローブたち。

その男たちから、魁人はその背後で、国王と『異能者』になった23人のクラスメイトたちと教師が自分たちを嘲笑っていると幻視し始める。

その幻影・・に、魁人の中で何かがキレて、裂けた口が言葉を紡いだ。


「・・・・・・・・・・覚エテイロヨ・・・・・・・オマエ等・・・・・・・」


舌が蛇のそれに変質したせいで、聞き取りづらくなってしまったが、魁人にとっては『もうどうでもよかった』。


「俺ハ、死ナネー!!何ヲシテデモ生キ残ッテ、オマエ等ヲ殺シ二行クカラナ!!!!」


激しい憎悪と怒りを露にする魁人の発言に、白ローブたちと幻影・・の国王、クラスメイトたちと教師が嘲笑い、魁人が何かを叫ぼうとしたその時


【これはこれは、中々に見ごたえのある見世物だな。雨宮魁人】


何かが魁人の脳裏で囁き、世界が黒へと染まった。

















「・・・・どこだ。此処は・・・・」


気が付くと、魁人は血と人骨でできた血の池と赤黒い空しか存在しない世界にいた。

この世のものとは思えぬ程おぞましい光景に、魁人は口元を引きつかせる。


「・・・・・まさか地獄なんて言わないよな」


【あぁ、残念ながら違うな】


後ろから念話のようなものが掛けられ、魁人が慌てて振り変える。

そして・・・・・


「うわーーーーー!!」


悲鳴を上げながら、魁人は思わず尻もちをつく。

それは、この世界を覆いつくす程の巨大な六翼を持った三頭の黒竜だった。


【眠っていた我らを無理やり呼び出しておいて失礼な奴だ】


【これだからゆとりは】


【全くだ】


真ん中の首に対して、左右の首が肯定するように目を細める。


「お前・・・いや、おまえ等は誰だ?」


その問いかけに真ん中の首が鎌首を傾ける。


【なんだ?知らずに呼び出したのか?】


「呼び出す?誰が?」


【貴様に決まっているだろう】


【まさかの無自覚?】


【意外と鈍い?】


その言葉に今度は魁人が小首を傾げる。


「俺がいつ?」


【貴様が藻掻き苦しんでるときだ。覚えていないのか?『異能』を使って我らを呼び出したんだぞ】


その言葉に魁人が驚いて三頭竜に詰め寄る。


「『異能』!?『異能』っていったか?俺は『異能』なんか持っていないはずだぞ」


もし、あっていれば自分は『スカ』と判定されず、こんな目に会うことはなかったのだから。


【ならば、我の肉を移植されて発現したのだろうよ】


【最近の漫画や小説でも、ピンチに陥った主人公の覚醒はお約束】


【あ〇ふれ、ナ〇ト】


「なんで、竜が漫画や小説に詳しいんだよ」


魁人のツッコミに三頭竜が答える。


【冥界にいた頃、よく読んでいた】


【暇つぶし】


【こう見えてジャン〇、〇ンデー読者】


「あー、そうかよ」


竜のイメージが一気に崩れた思いになりながら、魁人が溜息をつく。


【信じられないか?】


【意外と疑り深い?】


【疑心暗鬼?】


「つい、一週間前にクラスメイトに裏切られたばかりだからな」


【ならば、自分の魂に触れてみろ】


「魂に触れるってそんなことできるわけーーーー」


【自分の胸に触れて、その奥にある物に触れたいと念じてみろ】


【騙されたと思って】


【信じられる物は救われる】


その言葉に魁人は胡散臭そうに自分の胸に触れて念じてみる。

すると、魁人の眼前に、ブンという音と共に小さな四角い光の窓が現れる。


「なんか出た!?」


突然現れた窓に驚きつつも、魁人が其処に記載されている文言を黙読する。


「・・・・・・・・そうか。これが俺の『異能』とお前の名前なんだな。『アジ・ダカーハ』」


三頭の黒竜ーーーー悪王『アジ・ダカーハ』が器用に肩を竦める。


【理解したか】


【だから言っている】


【肉体をシェアするのだから、信じるべき】


「・・・・・そうだな。悪かったよ」


魁人がバツが悪そうに顔を背け、話題を変えるようにアジ・ダカーハに声を掛ける。


「で、此処はどこなんだ?」


【唐突だな】


【誤魔化し方がへたくそ】


【もうちょい、トークを磨くべき】


「うぐっ!?」


アジ・ダカーハが3つの溜息を付く。


【此処は我らの深層意識の中だ】


【簡単に言えば脳内会話みたいなもの】


【痛みのあまり意識が混濁した結果、此処へ来た】


「どうやったら、元の世界に戻れる」


【貴様は気絶によって此処へ来ただけ】


【スグに目覚める】


【残り数秒で意識が覚醒する】


その言葉に魁人がホッと息をはく。


「よかった」


【安心したか】


【小心者】


【どんな時も冷静になるべき】


一々一言多い相棒に魁人が頬を掻きながら、笑みを浮かべる。


「じゃぁ、これからよろしくな。相棒」


【あぁ、久しぶりの宴だ。存分にやらせてもらう】


【久しぶりの現世に鏖殺、考えただけで心が躍るな】


【すごく楽しみ】


アジ・ダカーハのその言葉に魁人は血の気の多い奴だと笑みを浮かべた。















全身を黒い外殻と鱗で覆われた魁人の変貌を終了したのを確認した白ローブが、気絶した魁人の首に武骨な首輪ーー『従属の首輪』を付ける。


「生きているようだな」


「はい。意識を保っているかどうかはわかりませんが」


「そうか。まぁ、なんにしてもこれで『悪王』の力は我らの物だ」


「はい。実験は成功です」


眼鏡の男の報告に、グラサン所長が満足気に頷く。


「にしても、あれだけ息巻いていた癖に大したことなかったな」


拷問官が嘲笑を浮かべながら、魁人に右手を伸ばそうとした瞬間、周りが唖然とする。なぜならーーーー


「・・・・・言ったよな。必ず殺しに行く、と」


拷問官の切り落とされた右腕が宙に飛んだからだ。

切り落とされた腕が床に落ちる。


「ぎゃーーーー!!腕が!俺の腕が!!」


周りに拷問官の悲鳴が響き渡り、切り落とされた腕から大量の血が零れ始める。

そんな彼に目もくれず、魁人を床に零れ落ちる外殻と鱗を興味深そうに見る。


「へー、ホントにできたよ」


そんな呟きに対して、体中に浮かび上がっている赤黒い蛇の紋様の口が動き脳内から声が響く。


【さっきもいっただろう。魂は肉体を覆う言わば、器】


【中の魂が変われば、外の肉体もそれに合わせて変化する】


【そして、魂の構造に干渉する魁人の『異能』なら、このくらい造作もない】


「・・・・そうか。ならーーー」


魁人が自身とアジ・ダカーハの魂、それぞれの構造に意識を向ける。


「まぁまぁかな」


魁人の両手が黒鱗に覆われ、竜の手に変わる。


「な!?」


「意思疎通ができるだけでも稀なのに!?」


「体を自在に変質さえているのか!!」


自在に体を変化させる魁人に研究者たちが唖然とする。


「この糞餓鬼が!!」


拷問官が腰のハンマーに手を掛けようとするが、それよりも早く魁人の腕が素早く動き、拷問官の首を斬り落とす。


「・・・・・・・あれ?」


いくら迎撃する為の攻撃とはいえ、人を殺したことに忌避感を感じていないことに戸惑いを覚える。

そんな魁人の隙を突くように首が閉まるような不快感が襲い掛かる。


「うぐっ!?」


「そこまでだ!大人しくしろ!」


グラサン所長が右手を伸ばしながら口を開く。


(息が・・・・・)


眉を潜める魁人にアジ・ダカーハが脳内から語り掛ける。


【ほう。『従属の首輪』か】


(知ってるのか?)


【あぁ、首輪をつけた魔獣や奴隷を従わせるべく開発した魔具だ】


【こんなものを僕たちに嵌めるなんて】


【不愉快極まりない】


(解除できるか)


その問いかけ事態が不快に思ったのか、アジ・ダカーハがムスッとしたように呟く。


【誰に言っている?】


【余裕】


【楽勝】


(じゃぁ、頼むぜ。相棒)


その頼みに答えるように、魁人の口が勝手に動く。


「・・・・・تخریب」


その瞬間、魁人の首に嵌められていた『従属の首輪』が青炎を上げて焼き尽くされる。

息が詰まる様な窒息感から、開放される。


「なんだと!?」


そのことに驚く彼らを他所に、魁人が自身の『異能』で2つの魂を変質させ、それに合わせて魁人の足が竜の足に変わり、その膂力でグラサン所長との距離を詰め、首を斬り落とす。


「しょ、所長ーー!!」


この施設のトップの首が斬り落とされたことに驚く彼らを他所に、魁人は頭部を失い床に倒れた所長を冷たく見下ろす。

やはり、人を殺しても何も感じない・・・・・。

罪悪感も恐怖も混乱も、一切生まれない。

あるのは、自分の力を試したいという快楽のみ。

それは何故か。


「あの窓に表示されていた通り、()()()()()()()()()()()()()


魁人が歩き出す。人間を辞めてしまったという落胆と自分の力を試したいという快楽を胸に抱いて。


「ギャー―――――!!」


「お、おい!よせ!やめろー!!」


「ば、バカな!!なぜ、『従属の首輪』が、ギャー!!」


悲鳴を上げながら逃走しようとする人間を魁人が様々な方法で殺し続ける。


ある時は、変質した竜の足による膂力で一気に距離を詰め、竜の爪で首を切り飛ばす。

ある時は、背中から生やした六翼で吹き飛ばして、壁に叩きつける。

ある時は、右手を長い尻尾に変質させ、鞭のように振るって頭をかち割る。

ある時は、左足を巨大化させ、踏みつぶす。

ある時は、両肩と背中から三頭の竜首を出して、体を喰い千切る。


ある時は


「・・・・ترور」


「え・・・」


(なんで、俺の首が斬られてるんだ?)


アジ・ダカーハの能力を攻撃に組み合わて、一気に複数の首を斬り飛ばしたりする。

そんな地獄を作り出した魁人が眼鏡の男に近づく。


「さてと次は、どうやって殺そうかな」


唸りながら自分を見詰めてくる魁人に男は腰を抜かす。

奇しくもその視線は、魁人たちに向けられていたものと同じ。

まるで実験動物を見るかのような視線だった。


「な、なんなんだよ。オマエ」


その問いに魁人が答える。


「力に目覚めた人類、『アートマン』だ」


「あ、アートマン」


男が呟いた瞬間、魁人はニコッと笑う。

その瞬間


「え・・・・」


足元の床を突き破って現れた竜の顎が男に齧りつき、喰い千切った。

竜が役目を終えたとばかりに、床下を通って、魁人の背中に戻る。


「さて、次はどうやって殺そうかな」


魁人は笑みを浮かべながら、手術室のドアを開けた。














(白波さん)


手あたり次第、研究所の人間を殺していく魁人が変わり果てた姿になってしまったクラスメイトと相対する。


「・・・雨宮?」


「・・・・・・・・」


醜く変貌し、どこか憔悴している刹羅の姿に、魁人は思う。


(・・・実験台には丁度いいな)


怪物にされて涙を流すクラスメイトに対して、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

あるのは、自身の力を試したい、振るいたいという欲望のみ。

そのことに、魁人は少し自己嫌悪する。

そんな魁人に


「この糞餓鬼、俺の仲間に何しやがった!!」


刹羅の牢屋の前にいた兵士が剣を抜いて斬りかかってきた。

それに対して、魁人は溜息を付いて言葉を紡ぐ。


「・・・・・ترور」


魁人のその言葉に従って、男だけでなく刹羅の動きが硬直する。

そして、魁人が竜の爪で呆然と立ち尽くす男の首を斬り飛ばす。


「え・・・・」


目の前で見ていたはずなのに、刹羅が驚いた声を上げる。

そんな戸惑う刹羅を他所に、魁人が頭部を失った兵士の身体を冷たく見下ろした。


「・・・・・弱い癖に向かってくるなよ。めんどくさい」


検証に飽きてきたことから、魁人が思わず呟いてしまう。


(さてと、メインデッシュだ)


そして、醜い蛙なのか、蛇なのか、魚なのか分からない姿に変えられたクラスメイトと目が合った。

自分たちの馬鹿騒ぎをいつも叱っていたあの勝気さが何処にもない。

だが、今の魁人にとっては()()()()()()()()()()()()()()

「雨宮・・・・」


何処か怯え切ったその姿に苛立ちを募らせた魁人が、竜の右手を鉄格子に翳し


「・・・・تخریب」


「うわ・・・・」


魁人と刹羅を隔てていた鉄格子を焼き尽くす。

そして・・・・


(自分に埋め込まれたアジ・ダカーハの肉でアジ・ダカーハの魂を召喚できたんだ。だったら、他人大してもできるはず)


「・・・・折角だ。俺自身の『異能』の試運転に付き合ってもらおうか」


魁人が以前の彼女を取り戻すべく前に出る。


「あ、雨宮」


「大丈夫。悪いようにはしないよ」


何故か思わず後ずさる刹羅との距離を魁人が一気に詰めて


(おっと、この手じゃ怖がるよな)


魂の形を変容して、元の右手に戻し、刹羅の頭部を掴む。


そして・・・・・・


「異能『()()()()』、発動」


その瞬間、自分に宿った異能『ソロモン』を発動した。


異能『ソロモン』

効果、死肉を媒体にして、その肉に宿っていた魂を冥界から呼び起こし支配する能力。

その支配は隷従だけでなく、魂の構造を自在に思いのままに書き換えることができる。


異能に発動に、刹羅の意識が闇に落ち、移植された死肉から、海王『リヴァイアサン』の魂を冥界から連れ出し、刹羅の中に封印する。

そして、二つの魂を変容させ、刹羅の肉体を変質させた。











記録


王歴1021年 蒼苺あおいの節 14日


■■村 魔導研究所。実験モルモット暴走。死傷者多数、生存者0名。


現状


『異能力者』:24名(生存者24名、死亡者0名)


『スカ』:16名(生存者16名、死亡者0名)


『アートマン』:1名(生存者16名、死亡者0名)


合計:41名(生存者41名、死亡者0名)

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